参謀本部にて

 ——数日が経過して、俺は参謀本部の総務課の部屋に訪れていた。

 部下の一人であるガスパル大佐に、エンドレから預かった腕時計を渡すためであった。 すると総務部部長のアレックス少将が声をかけてきた。


「おお、殿下ではないですか」

「敬語はやめてくれ、お前が俺に対してのそれは違和感を感じる」

「ははは、そりゃそうだ」

 

 アレックス少将は士官学校の同期だ。

 だから他の将校に比べて一番俺に気楽に会話をしてくる。


「んで、今日はどうしたんだ?」

「課長のガスパル大佐はいるか? 大佐の息子からプレゼントを預かっててな、届けに来たんだ」

「へぇーっ、良い息子を持ったな大佐も。 今は過労でぐったりしてる筈だ、見舞いに渡してやれ」

 

 アレックス少将と別れて、ガスパル大佐が座っている机にやってきた。

 アイツの言ってたとおり、大佐は過労でぐったりと目に光が無くなっていた。


「お、おい……ガスパル大佐?」

「……っは!? こ、これは殿下! 御見苦しいところをお見せしました!」

 

 気持ちを建て直して、立ち上がり敬礼をする。

 こりゃ重症だな、と思いながらも腕時計が入っている小箱を手渡した。


「これは……?」

「開けてみろ、エンドレからの贈り物だ」

「息子から? ……おお、腕時計ではありませんか! それも高価な品だ!」

「大佐が国の為に頑張ってるから、お金を貯めて買ったんだとさ」


 説明をすると、ガスパル大佐は嬉しそうに感極まって涙を流す。

 

「こんな高価な腕時計をプレゼントしてくれるなんて……! 今まで頑張っていた甲斐があったんですねぇぇ……!」

「よかったですね、課長」

 

 号泣している大佐にコーヒーを渡す副官のアルフレッド少佐、毎回丁度いいタイミングでコーヒー出してくるんだよな。

 アルフレッド少佐はガスパル大佐自慢の副官で、必ず丁度良いタイミングで周囲にコーヒーを差し出す事から、"アルフレッドコーヒー"と言われており好評なのだ。

 実際俺も貰ったことがるが非常に美味い。


「それで大佐、各師団の統一性はどうか?」

「はっ! 正直なところ、どの師団も言語の統一性、ましてや師団長の報告すら行き届いておりません」

「殿下、一個中隊ならともかく連隊や大隊になると、連隊長や大隊長からの命令すら伝わっていない状況にあります」


 ガスパルとアルフレッドが順番に説明する中、俺は頭痛がして頭を抱え込む。

 これは非常にまずい、俺が列強国に視察に行っている最中に調査してもらっていたが、これほど我が国の軍が酷い状況下にあるとは思わなかった。

 確かにガスパルが疲労で倒れていたのも理解できる。


「もはや装備の新調どころではないな……、俺が陛下に伝えて何とかしてみよう」

「大丈夫でしょうか……?、陛下は帝国皇帝であり強烈な伝統主義者でもあります、急激な組織改革を許してくださるでしょうか」

「それでも、どうにかせねばなるまい」


 ガスパルの問いに俺は答えて陛下の居られる宮殿へと足を運んでいく。

 このままの状態では帝国は滅びる、根本的に駄目で国が亡びるのは間違っている。

 なんとかしなくては……。



 

 




 

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双頭戦記 ―帝国の繁栄を求めて― ワタボー @watabou101

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