第3話ツインズ姉弟

昨日の出来事がまるで他人事のように朝はやってくる。


気怠さと眠気で起きる気持ちになれない。


学校、休もうかと頭をよぎったけれどたぶん無理だ。

もうすぐあいつらが来る。


「志音、起きなさい 砂羽(さわ)ちゃんと宗(しゅう)君、リビングで待ってるわ

よ」母の一声が扉越し響く。


腐れ縁のツインズ姉弟、砂羽と宗が毎日のように僕を迎えに来るから仮病が使えない。


そのおかげもあってなんとか進級できたし、職員室に呼ばれる回数も減ったように思う。


感謝すべき姉弟だけれども今日だけは内心、鬱陶しさが拭いきれなかった。


「おはよう志音 いつものコーヒーでいい?ってもう宗が飲んで瓶の中、空だからステックコーヒーで我慢して」

砂羽が要領よくキッチンで用意してくれる。


僕より我が家のことを把握しているから、されるがまま自然な流れれの朝の光景だ。


「やっぱこのコーヒーが一番うまいよな」


一番くつろぎながらコーヒーを飲みテレビの星占いを真剣に見ているのは宗だ。


「おい宗、それ僕のコーヒーだろう」


「おっはー志音 早く起きないお前が悪いんだよ」


もはやこの家の住人のように振る舞うこの姉弟を母はめちゃくちゃかわいがっている。


「あらやだもうこんな時間、会社行かなくちゃ。砂羽ちゃんこれで適当に買い物お願いしていい。」


「了解。麗ちゃん夕飯は?」


「遅くなるからいらない、志音とお願い。」


おもむろに財布からお札を出してテーブルの上に置く。


母は急いで玄関で靴を履きながら、いつもと同じメロディーを口ずさんでいる。

母の足音が遠ざかっていく。


「志音に買い物は任せられないよな。」

お札を手に取り、笑いながら宗が言うとそのお札をすかさず取り上げ砂羽が財布にしまいこむ。


「あんたたち二人よ。前に買い物したときに全然違うもの買ってきたじゃない。」


「あの時は一点もので必要だったんだよ。なあ志音」


「食べられるものならまだしも、バイク用品買うとか信じられない。」


そんなやり取りの中でも電車の時刻が刻々と迫ってくる。


「もうとにかく早く準備して、5分以内よ。」


火の元、戸締りを砂羽が念入りに確認して、3人で半ば走りながら駅まで急ぐ。


この当たり前の日常と昨日の非日常が僕の頭の中で交錯していた。




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