逆ハーレムの後始末

GATA

第1章 追放 と 火種

第1話 ゲームのエンディング

 僕――ロイス・ミツハ――は、卒業パーティーの真ん中で繰り広げられる茶番を、少し離れた場所から黙って見ていた。

 天井から吊られたシャンデリアの光が、ちぐはぐに場を照らしている。祝宴には似つかわしくない“影の濃さ”だった。


「お前との婚約を破棄する!」


 まだあどけなさを残す金髪の王子が、栗色の少女を腕に抱えながら叫ぶ。

 無理に威厳を持たせようとした声が会場に刺さった。

 僕は常に王子を見張ってる「大人」の侍従に視線を走らせる。彼はわずかに身を引いた。その途端、貴族の子弟たちは、一斉に沈黙した。


 薄い金髪の婚約者が青ざめて近寄ろうとすると、男が四人、壁のように割り込んだ。


「これ以上近づくのはやめていただこう」

「彼女をいじめた君をこれ以上近寄らせるわけにはいかない」

「危害を加えるなら容赦はしない」

「邪魔はさせないよ」


 さっきまで音楽と談笑で満ちていた会場は、一瞬で凍った。


 そして、その空気とは裏腹に、僕が永年抱えていた疑問の塊が、いま目の前の光景のおかげで溶けていくのを感じた。

 物心ついたときから、どうにも自分はおかしかった。

 教わっていないことを知っていたり、誰も知らない概念を当然のように扱えたり――ずっと、説明のつかない何かがそこにあった。


(ここは、ゲームの世界だったんだな)


 美男美女が多く、髪色がやたらカラフルな時点で怪しいとは思っていたが……


 まさか卒業パーティーで“逆ハーレムのイベント”を観ることになろうとは。


 しかし、


 ――ゲームなら一枚絵で終わる、だがここは現実だ。当然このあとも続く。――


「絶対に物凄くめんどくさいことになるな」

 僕がつぶやくと、隣に控える銀髪の執事――デモンズが静かに身を寄せてきた。

 常に冷静沈着だが、僕をからかうときと、こういう時は妙に楽しそうになる人だ。

「これを見越して準備していたのでは?」

「残念ながら見越しては無いんだよ」


 デモンズが口元だけをわずかに緩めた。

「知ってますよ。しかし坊ちゃんのいうことを聞いていれば、酷いことにはならないですからなぁ」

「スキルのおかげだよ。あんまり期待しないでね」


 彼は恭しく頭を下げた。

「では、私は馬車の準備がありますので、失礼いたします」

「わかった。手筈はよろしく」


 デモンズが会場の裏手に向かって歩き去る。心なしかスキップしてるのは気のせいか。


 中央では、糾弾会が派手に続いている。聞こえてくるのは五人の男が女性を攻める声と、女性のすすり泣く音だ。

 残りの貴族の子弟は黙ってみている。


 こめかみがじわりと痛み、思わず視線を落とす。

(あーあ……頭が頭痛でイタイ)


 幼少の頃からの準備が、いろいろと繋がった。

 そしてそれは――

 ろくでもないことが起こる始まりでもあった。



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