見出し

「ちょっと外出てくるよ」

「かしこまりました」

「はいっ!」


 何とかエリシアに弁明出来た俺は、その疲労を回復する為に外に出てみることにした。

 怪我はもう無い。どうやら俺は気絶した後、回復魔法によって傷を治してもらえたらしい。

 いやほんと、ありがたい限りだ。


「う〜ん……!」


 夕焼けの空を眺めながら体を伸ばす。

 やっぱり体は定期的に動かさないとなー!


「あの! ルイドさんですか!?」

「え?」


 ど、どちら様だろうか……?


「何!? ルイドさんがいた!?」

「おいお前ら! こっちだ!」

「ルイドさんどこどこ!?」

「行け行け行けぇー!」

「えぇっ!?」


 奥から大量の人たちが魔道具である『カメラ』を持ちながら俺に向かって走って来た。


「ルイドさん! 闘技力祭とうぎりょくさい優勝について、何かコメントを!」

「ルイドさん! 戦桜せんおうのアリスさんと戦った感想を!」

「ルイドさん! 召喚士であるのに【召喚】を発動せずに優勝しましたが、それには何か意図があるのですか!?」

「ルイドさん!」

「ルイドさん!」

「ルイドさん!」

「「「「「ルイドさん!」」」」」


 カメラで俺の事をパシャパシャと撮りながら大勢の人が一度に色んな質問をして来た。

 こ、これマスコミってやつ? そうだとしたら凄い圧だな……!

 あのダンジョンのモンスターの大群くらいの圧はあるぞ。

 あと、そのカメラの光眩しいからもう撮らないで!


「え、えっと……」


 俺がどの質問から返答しようか迷って口ごもっていると……。


「こっちだ」


 誰かが俺の右腕を掴み、路地裏へと走り出した。


「あっ! 誰だお前!? 逃さないぞ!」

「ルイドさんを追えー!」

「インタビューを! インタビューをぉー!」


 そう叫びながら後ろからマスコミが走って追いかけて来ていたが、とんでもない速さで移動する俺らに追い付けず、ぜぇはぁと息を切らしているのを見たのを最後に見えなくなった。

 それにしてもこの人……俺と同じくらいの速度で走れるって何者だ……?

 フードを被っているせいで顔が見えないけど、かなりの実力者だろう。


「……ふぅ、ここまでくれば大丈夫だろう」


 そう言って俺の腕を掴んでいた人は手を離し、フードを取った。


「え!?」

「? 何だ?」


 サラサラと綺麗な〝ピンク色の髪〟が彼女の腰まで垂れる。

 そう、俺の右腕を掴んでいた人の正体は……


「ア、アリスさんだったんですか!?」

「おいおい、逆に今まで気付いていなかったのか……? 声とかで分かるだろう?」

「ほ、ほら……騒がしかったので……」


 素で気付かなかったのは言わないでおこう……。


「なるほど、ならば無理もないか。……それで、君はあんな所で何をしていたんだ?」

「えぇーっと……ずっとベットの上にいたので体を動かしに外へ……」

「で、マスコミに囲まれたと」

「はい……」


 まさかあんな事になるなんて……。


「アリスさんは?」

「これだ」


 そう言ってアリスさんは一枚の新聞を差し出して来た。


「読んでみろ」

「は、はい…………うぇっ!?」


 その新聞の見出しにはこう書いてあった。


『【召喚】を発動しない召喚士、あの戦桜を押し退け闘技力祭にて優勝!』


 そしてデカデカと俺の写真と名前が貼られていた。


「な、なんですかこれ……!?」

「見て分かるだろう? 闘技力祭の優勝者はこんな感じで大々的に報道されるんだ」

「だ、だからさっきあんなに……」

「そういう事だ」

「そ、それで、この新聞とアリスさんの外出にどんな関係が……?」

「それはだな……その……し、心配だったのでな」

「え?」

「き、君があんな風に囲まれると予想して、ちょっと外出してたんだ!」


 アリスさんが頬を髪と同じ色に染めながらそう叫ぶ。


「そ、そうだったんですか! ありがとうございます!」

「そうだ、それだけだ」


 あれ? でも俺、出てからすぐに囲まれたよな……? ちょっとの外出でそのタイミングに居合わせるって、可能なのか……?

 ……よし、この事を考えるのはやめておこう。きっとアリスさんならば可能なのだ。そうに違いない。


「それじゃあ私は、帰るとする……!」

「あ、待って下さい!」


 帰ろうと路地裏を歩きだしたアリスさんを呼び止める。


「な、何だ?」

「あの、お礼にご飯でも奢らせて下さい」

「お礼?」

「助けて貰ったので」

「……まあ、別に良いぞ」

「ありがとうございます!」


 そうして俺らは路地裏から出て、レストランへと歩き出した。


 ◾️ ◾️ ◾️


「がっつがっつむっしゃむっしゃ」

「……」


 結局、この辺りのレストランの場所が分からなくてアリスさんに教えて貰ってしまった……。

 それにしても……よく食べるなぁ……。

 もうそれ十五皿目だよね?

 店員さんも周りのお客さんも少し引いちゃってるよ……。

 何より、俺の持って来ているお金で足りるかどうかが心配だ……。

 当たり前だが、出かけるたびに一々いちいち全財産を持っていったりはしていない。

 は、払えるかな……?


「ごくん。すみません、これと同じのを」

「はっ、はい……!」


 じゅ、十六皿目まで行くのか!?

 そんなに人って食べ物を食べられるものなのか……。

 因みに、アリスさんが食べているのはボリーブ(特盛)だ。

 一皿で四人前はある。

 ……え、今アリスさん六十人分のボリーブを食べたの?

 どんなお腹してるんだろ……いや、この場合は胃か?


「お、お待たせいたしました。ボリーブ(特盛)でございます……」

「ありがとうございます」


 そうしてまたむっしゃむっしゃとボリーブを食べ始めるアリスさん。

 一方俺は、お金が足りるかが不安すぎて何も頼めていない。


「ん? 何だ、何も頼まないのか?」

「いやー、あまり食欲が無くて……」

「ちゃんと食べられる時に食べておかないとダメだぞー? ほら、私のを少し分けてやろう」


 そう言って取り皿に一人前のボリーブをよそって俺の前に置いてくれた。

 そ、それで少しなんだ……。


「あっ、ありがとうございます」

「気にするな。君に奢って貰う訳だしな」


 ……間違いなく俺のお財布、すっからかんになるんだろうな……。

 そして俺は、アリスさんが物凄い勢いでボリーブを平らげていくのを、ただ呆然と眺めるのであった。

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