闘技力祭 ③

「さあ遂にやって参りました! 闘技力祭、決勝せぇーん!」


 観客達がワァーッと物凄い量の歓声を上げる。


「さあ! 決勝戦に出場する方達をご紹介を致しましょう!」


 司会の人はこちら側に手を向けた。

 おっ、まずは俺なのか。

 うぅ〜、心臓バックバクだ〜!


「まずはー……ルイドォー・アッカァーサァァァー!」


 大きな歓声と共に、俺は舞台へと上がる。


「召喚士であるのに、一切【召喚】を発動せずにここまで上り詰めてきた、とんでもない短剣使い! 神速で移動する脚と、どんな攻撃でも受け流すその剣技に、止められないものはありません!」


 俺の紹介が終わると、司会の方は俺と真反対の方向に手を向けた。


「そして! そんなルイドさんの対戦相手は……アリスゥー・ローヴェルチィィィー!」


 歓声と共に、アリスさんが舞台に立つ。

 そのたたずまいは、観客達を魅了するほど美しかった。

 因みに、俺はエリシア達を見慣れていたから大丈夫だった。

 でも、本当にアリスさんはエリシア達くらい美人だ。

 美人で相当戦えるって……凄いな……。


「その美しい容姿とは裏腹に、とてつもない速度で繰り出されるその剣さばきは、この舞台に立った出場者達をいとも簡単にほふってきました! 今回も同様に、相手を簡単に屠るのかー!?」


 司会の方がそう紹介する中、俺らは10m離れた位置に立った。


「両者、準備はよろしいでしょうか?」


 コクリ、と俺らは頷く。


「それでは――試合開始っ!」


 その声が聞こえた瞬間、俺らは物凄い速度で前方へと駆け、剣をぶつけ合った。

 そして俺はすぐさま受け流したが、アリスさんはそれを物ともせずすぐに次の攻撃を繰り出してきた。


(やっぱり……強い! アリスさんは!)


 受け流しても受け流しても、次から次へと攻撃が来る。

 まさに防戦一方。


「くははっ、ここまで私の攻撃を受け流すか……! ……ふっ!」

「なっ!?」


 こ、攻撃速度が増した!?

 それに……剣身を少しずらして受け流しにくくしてる!


「さあ、受け流せるか?」


 ちょっとヤバイ……が、いけなくはない!

 俺は即座に対応し、受け流す。


「ほお、この速度も捌くか」


 ダンジョンのモンスター達の攻撃の方が速かったし、そういう攻撃もしてきたからな!

 それに比べたら、相当楽だ!


「ならば……【桜花おうか 桜吹雪】!」

「!」


 アリスさんがそう唱えた瞬間、彼女の刀身がピンク色に染まる。

 そしてその刀身から――


(は、花弁はなびら……?)


 桜の花弁がはらはらと散っていた。


「うっ!」


 受け流していた右腕から少し血が垂れる。

 この花弁……! 切れ味がとんでもなく鋭い……!

 えっ、つ、つまりこれ……この花弁全部とアリスさんの攻撃を受け流さないといけないのか!?

 おいおいそれヤバイってレベルじゃないぞ!?


「さあ、これも捌けるか!? ルイド!」

「捌いて、みせます!」


 俺は更に速く右腕を動かし、大量に散って来る花弁と、アリスさんの攻撃を受け流しまくる。


(まさか……この攻撃まで受け流されるとは……!)


 ん? なんか花弁の威力が強くなったか……?

 だが、まだ受け流せる!

 

「くっ……! 【桜花 桜雲おううん】!」


 直後、はらはらと舞っていた花弁が動き、俺の周囲を物凄い速度で周り始めた。

 当たれば間違いなく体がバラバラになるので、迂闊うかつに近付けない。


(この花弁の向こうで……何が起こってるんだ……!)


 俺はどこからでも攻撃されても大丈夫な様に最大限警戒しながら短剣を構える。


「【桜花 零桜こぼれざくら】!」


 その瞬間、花弁が上に舞い上がり、俺に向かって猛スピードで向かって迫って来た。


「はあぁぁ!」


 そして背後からは絶えず花弁を出し続ける刀を振りかざしたアリスさん。


(マッッズイ!)


 花弁を受け流したらアリスさんに斬られるし、アリスさんの攻撃を受け流したらあの花弁にバラバラにされる。

 つまり……どう足掻あがいても死ぬ!


(さあルイド、君にこれを防げるか!?)


「っ……!」


 でも……俺は! あの地獄ダンジョンから生還したんだ!

 絶対に……全部受け流して見せる!


「すぅ、はぁ」


 俺は素早く深呼吸を済ますと、本気の本気で右腕を動かし始めた。


(動かせ……! 右腕を動かせ俺! ダンジョンで散々動かして来ただろ!)


 花弁を受け流し、ある程度スペースを作ったらアリスさんの攻撃を受け流して、次の攻撃が来るまでの間にまた花弁を受け流してスペースを作る。


(嘘だろ……? 本当に短剣一本だけで捌いているのか!?)


「本気で……行かせて貰うぞ!」

「どうぞ!」

「奥義! 【桜花爛漫おうからんまん】!」


 その瞬間、俺らの戦いは一般人には見えない速度になった。

 絶え間なく剣と刀がぶつかり合う音が響き、とんでもない量の花弁が舞台の上で吹き乱れる。


(((((ほ、本当に……何が起こってるんだ……!?)))))


 アリスさんの攻撃を、アリスさんの花弁を、受け流して、受け流して、受け流して。ただひたすらに右腕を動かし、受ける怪我を最小限にする。


(ルイド……君はどうやってそこまで私の攻撃を受け流せるんだ……!?)

(アリスさん……貴方はどうやってそこまで強くなったんですか……!?)


 短剣と刀がガキンと音を立ててぶつかり、その時生まれた風が巻き起こって花弁は周囲に散り、本当に、正真正銘の力比べになった。


「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 絶対に……勝つ!


「おらぁっ!」


 そして俺は――アリスさんの刀を、横に受け流した。


「! くそっ――!」


 受け流した短剣に、慣性のせいで自ら向かっていくアリスさんの襟首えりくびを急いで掴み、


「降参、して下さい……」


 と言いながら、首のすぐそばに短剣を持っていった。


「…………降参だ」


 一拍置いて


「アリスさんが投降しました! よって! 第三百六十七回目、闘技力祭の優勝者は――ルイド・アッカーサァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 という声が闘技場に響き渡った。


「「「「「ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」」」


 観客達がこれまでに無いほどの歓声を上げる。


(勝った……?) 


 疲労で脳が上手く働かない。が、分かる。勝てたんだ。アリスさんに。

 俺は右腕を勢いよく上に掲げる。


「「「「「ワァァァァァァァァァァァアアアアアアア!」」」」」


 歓声が響き渡り、それを聞いた俺はその場で仰向けに倒れた。


(ヤバイ……疲れ過ぎた……)


 そうして、俺の意識は闇の中へと落ちていった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「うんん……?」


 どこだ……ここ……?


「あっ、目が覚めましたか?」

「えっ、あっ!」


 エリシアに……ラルム……?


「俺は……あの後どうなって……」

「ルイド様はアリスさんとの戦闘で疲れ果てて気絶してしまったんですよ!」

「あぁ……」


 そういえばそんな感じだった気がする。


「ルイド様が気絶した時、心配で心配で……!」

「ははは、ごめんごめん」

「でも、ルイド様が気絶するなんて珍しいですね。ダンジョンでも二回くらいしかやった事がないですのに……何かあったんですか?」

「いや、多分昨日からの疲れがあんまり取れてなかっただけだと思うよ。何せ王様と出会って翌日にこれだからね……」

「なるほど……でも、流石ルイド様です! そんな状態でも勝ってしまうなんて!」

「て、照れるな……」


 起き上がって、エリシア達を見る。


「もう大丈夫なのですか?」

「うん、もうバッチリだよ」

「なら良かったです! あっ、私は看護師の方を呼んできますね!」

「ありがとう」


 そうしてエリシアは病室から出ていった。


「……ラルム、大丈夫か?」

「あっ、はっ、はい!」

「? 何でそんなに頰が赤いんだ?」

「その……」

「何だ?」

「ル、ルイド様が、服を着ていないからです……!」

「……え!?」


 急いで自分の体を見る。

 うわ本当だっ……! 俺上半身裸だ……!


「ごっ、ごごごめんラルム! すぐに服着るから!」


 そう言ってベットから勢いよく降りる俺。


「きゃぁぁぁぁああああ!」

「あ」


 ぜ、全裸だった……。


「ルイド様! 看護師さんを呼んできまし……た?」


 そして最悪のタイミングで病室に入ってくるエリシア。


「……エリシア、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、これは事故だ」


 そう、俺が裸で立っていてラルムがしゃがんで目に手を当てているこの状況は、完全に事故による産物だ。


「……ルイド様」

「何だ?」

「そういうのは、流石にちゃんと許可を取らないとダメだと思います……」

「いやだから事故だって!」


 その後、俺はイライザにこれが事故である事を伝える為に奮闘するのだった。

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