闘技力祭 ②

「ルイド・アッカーサーさーん! ダグラス・ボチュードさーん! 第十五回戦が始まりますので、準備して下さーい!」


 十四回の試合が行われた後、受付の人がそう言った。


(来たか……!)


 俺は立ち上がって、待機室の出入り口まで歩いて行く。

 や、やっぱり緊張するなぁ……。


「んん〜?」


 な、何かダグラスさんが俺の事を凄い見てくるんだが……な、何だ?


「ブッハハハハハハ!」


 ダグラスさんは突然笑い出した。

 本当に何なんだ?


「俺の対戦相手が、こんなヒョロヒョロのへなちょこだとはなぁ! いじめるのは趣味じゃねぇんだがなぁ!」

「……」


 なんと言うか、カチーンと来るな……。


「おいへなちょこ! 俺を楽しませてくれよぉ……?」

「……まあ、努力します」


 そして俺らは舞台に上がる。

 関係者の人に立たされた位置は、大体お互いの距離が10m程あって、攻撃しやすくされやすい良い距離感だった。

 チラッと辺りを見回すとウィーラーチ様がニコニコと俺を見つめていた。


「さあ続いてはルイド・アッカーサー対、ダグラス・ボチュードです! ダグラスさんは大剣使いの剣士、ルイドさんは……な、なんと! 短剣使いの召喚士です!」


 観客から衝撃が伝わって来る。


「皆様もご存知でしょうが、この闘技力祭では召喚士の方は【召喚】を二回しか発動出来ません! この試合は彼がどう戦うのかが見ものになりそうですね!」


 司会の方がそう言うと、ダグラスさんは腹を抱えて笑っていた。


「お、お前っ、召喚士だったのかよ! こんなん俺勝ったも同然じゃねぇか!」


 そう言って笑うダグラスとそれを眺める俺との間に、「試合開始!」という合図が響き渡った。


「ほらよ、可哀想な召喚士君に先手は譲ってやるよ」


 大剣をダランと持って構えることもなく、手をクイクイッとやっている。


「……すぅー……はぁー……」


 少々湧き出た怒りを抑える為に俺は深呼吸をした。

 だが、本当にほんの少しだけその怒りを残す。

 そうした方が力が出るからだ。


(そこまで言うなら……少しだけ本気を出そう……!)


 俺は短剣を構え、脚に力を込めて体重を前に移動させる。

 ゆっくりと脚に力を溜め、放つ。


「ふっ!」


 そして俺はまだナメた態度を取っている彼の目の前にだけで近付き、彼の首にギリギリ当たるかどうかの所で短剣を止めた。

 対人だから、殺しはしない。


「――!?」


 コンマ数秒経って、俺の周りから強烈な風が吹き、ダグラスさんが自分の首に当たる寸前で短剣が止まっているのに気付いたようで、


「う、うひゃぁぁ!」


 と、みっともない声を出しならがら尻もちを突いた。


「お……お前! 今何をしたんだ……!?」


 な、何をした……と言われても……。


「ただ、低空ジャンプしただけです」


 そう、今俺がやったのはただちょっと低めにジャンプしただけなのだ。

 ラルムを抱いていた時は、高めにジャンプしたからあまり飛距離は出なかったが、低めにジャンプすればこのくらいは飛べる。


「そ、そんな訳ないだろ! たかが低めにジャンプしただけで……10mも飛べるかよ!」


 ダンジョンでよくジャンプしてたからな……そういうところも鍛えられたのかもしれない。


「それで、えーと……降参しますか?」

「な、何を言う! 俺がお前に降参など……!」


 俺はすぐに尻餅を突いたダグラスさんの首にもう一度短剣を寸止めする。


「ひぃぃぃぃぁぁぁぁ!」


 ビビり散らかしてるなぁ……。

 あれ? というか股間が濡れてないか?

 ……あらららら……。


「わ、分かった! 降参する!」


 そうあられも無い姿を晒しながらダグラスさんはそう叫んだ。


「ダグラスさんが投降しました! よって勝者は! ルイド・アッカーサーさんです!」


 こ、こういう時手を挙げた方が良いのかな……?

 俺はガッと手を挙げたが、歓声は起こらなかった。


「……」


 や、やっちゃダメなやつだったか……?

 俺は恥ずかしがりながらそそくさと待機室へと戻るのであった。



(((((……今の……何……!?)))))


 ◾️ ◾️ ◾️


 その後も順調に試合は続いていった。

 色んな人が勝ち、負け、そしてついに準決勝まで俺は勝ち進んだ。

 いや、まさかここまで行けるとはな……。


「さあ続いては準決勝! この戦いに勝てば、決勝戦に進出です! 出場者の皆さん! 頑張って下さい!」


 司会の人がそう場を盛り上げる。


「さーて、出場者の紹介をいたしましょう! まずは……ヒーラル・ヨーロレさんです!」


 観客達がワーッと歓声を上げる。


「これまでの試合、全てを10m以上離れた場所からの射撃だけで圧倒した、間違いなくこん祭典で最強の弓使いです!」


 紹介が終わると、ヒーラルさんは観客達に手を振っていた。


「そしてお次はー、ルイド・アッカーサーさんでーす!」


 俺に対しても歓声が沸く。

 いやー、やっぱ歓声を浴びるって嬉しいものだなぁー。


「もうこの中に召喚士だからとバカにする人はいないでしょう! 開始早々神速の名に相応ふさわしい速度で相手を圧倒して殺さずに投降させ、この闘技力祭史上最短で試合を終わらせている【召喚】を発動しない召喚士! 弓使い相手に短剣という不利な戦闘だが、またしても【召喚】を使わないのかー!?」


 俺は今度こそという意気込みで右手を挙げた。


「「「「「ワァァァァァ!」」」」」


 良かった、やっぱりこのタイミングだったんだな。


「さあそれでは準決勝第一回戦、開始っ!」


 その掛け声と同時に、俺はヒーラルさんに向かって低空ジャンプした。

 だが、ヒーラルさんは冷静に距離を取り、弓を構えて矢をてきた。

 もちろん、俺はその矢を受け流し、スピードをほぼ緩めることなくヒーラルさんに近付く。


「ふっ!」


 ヒーラルさんが矢を五本手に取り、射る。


(マジかっ!?)


 五本一気に射るとは思わなかった……が、そんな想定外な事が起きるのはダンジョンでは付きものだったので慣れている。

 なのでさほど慌てずに受け流せた。


「!」


 直後、気付いた。


(も、……!?)


 そう、一本の矢の後ろに、当たるかギリッギリのところに、射られた矢がもう一本あった。

 つまり、五本の矢はブラフ、本命はこの矢だったという訳だ。


(流石準決勝。対戦相手の強さはこれまでの比じゃないな……!)


 俺はその矢をなんとか受け流し、少しスピードを落としながらも走った。


「ほう、今のも耐えるか」

「貴方こそ、今の技には驚きましたよ」


 そして俺はようやくヒーラルさんの半径3m以内に入り、短剣で首を斬ろうとする。


「だが、甘いぞ?」


 そう言ってヒーラルさんは俺の腹に向かって膝蹴りを繰り出そうとする。


「誘ったんですよ」

「っ!」


 その脚を持ち、クルンとヒックリ返して地面に叩きつける。

 だが、彼は地面に手を付いて綺麗にバク転をし、更にその最中に蹴りを入れて来ようとした。


「おっと!」


 俺はそれをすんでの所で避け、また距離を詰める。


「君ほど強い者は久しぶりだ……」

「ははは、そう言って貰えて嬉しいです」


 そんな会話をしながら、俺は飛んでくる矢を受け流す。

 そんな攻防が約十分程続き……


「ん?」


 ようやく、ヒーラルさんの矢が尽きた。


「勝負あり、ってところですかね?」

「ふっ……参った」

「ヒーラルさんが投降いたしました! よって勝者はー、ルイド・アッカーサーさぁーん!」


 俺らが入場してきた時よりも大きな歓声が沸き起こった。


(今回も……大丈夫だよな……?)


 俺は恐る恐る右手を挙げる。


「「「「「ワァァァァァァァァァァァァァァァ!」」」」」


 歓声の声が大きくなる。

 良かった……大丈夫だったみたいだ……。

 ……あれ? じゃあ何で最初の時は歓声が上がらなかったんだろ?

 ……まあ良いか。

 そう思いながら俺はヒーラルさんと握手をし、待機室へと戻るのであった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「すぅー、はぁー……」


 待機室に座り、深呼吸をする。

 決勝戦へと進出が確定して緊張したからだ。


「お疲れ様」

「あ……」


 俺にそう声を掛けてきたのは、受付の方をあの悪質ナンパ男から助けたアリスさんだった。

 初戦が終わった後、待機室で「今のあれは何だ?」と聞かれたのをきっかけに、仲良くなったのだ。


「試合、見ていたぞ。全く、素晴らしい素晴らしい剣さばきだな」

「ありがとうございます」

「どうやるのか、良かったら教えてくれないか?」

「ははは、教えたら俺が勝てなくなっちゃいますよ」

「おや? 君は私が勝つと思っているのか?」


 あっ、しまった。対戦相手の方に失礼だったな……。


「貴方は強いですし、多分勝てると思っていますよ」


 と、俺はそう小声で言った。


「く、くははははっ! ああそうだな、私は勝つ。勝って決勝戦で君と相対あいたいするとするよ」


 その時、アリスさんと対戦相手の方が呼ばれた。


「それじゃあ、私は行ってくる。しっかりと見ていてくれたまえ」

「はい、参考にさせて貰います」

「参考……か、くはは!」


 そう笑いながらアリスさんは部屋を出て行った。

 そして、試合結果を言わせてもらうと……アリスさんの圧勝だった。

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