それぞれの夏祭りと、告白【全員】


陽斗はると


 鹿内さんの靴擦れには絆創膏を貼って、妹に借りた靴をはいてもらった。彼女が大丈夫だと言うから、また祭りの屋台を回り始めたのだが、


「ごめんね、椅子なんて持ってこさせて。私の草履も……その、重くない?」


 不安そうな顔を向けてくる鹿内さんと、うまく視線を合わせられない。だって浴衣姿が可愛すぎるのだ。仕方がないじゃないか。


「別に」


 俺の口から出ていく言葉もそっけない。馬鹿なのか俺は。悠真ならこんな時、にこやかに優しい言葉をかけるんだろうが、どうしても出てこない。そもそも憧れの女の子から告白してもらったっていうのに、俺は今日のデートを了承しただけで、肝心なことを話せていないことが気にかかっている。


「あのさ」


「うん?」



   ◇



悠真ゆうま


 せっかく律さんとのデートにこぎつけたのに、なかなか彼女と視線が合わない。


「まったく朝陽は。ああもう、手ぐらい繋がんか!」


「ねえ、律さん」


「待ってくれ悠真、今いいとこだから」


 律さんは物陰から朝陽の姿を追ってばかり。そもそも『心配なら見守りに行こう』と誘ったのは僕だし、この状況を想像してはいたのだけど。食べ物を買ってきても射的や輪投げに誘っても全てスルー。ここまで放置されるとちょっと傷つく。


 朝陽に『夏祭りの浴衣には勇気の出る魔法がかかってる』と言ったのは、彼女のためでもあるけれど――実のところあれは、自分に向けた言葉だ。今日こそは、姉弟のような関係を変えるんだって。


 意を決して律さんに近づき、彼女の細い指を絡め取る。


「!?」


 弾かれるように振り向いた彼女と、ようやく目が合った。


「手ぐらい繋げ、って言ったのは律さんだよね?」


 自分の動揺を抑えつつ、強気に笑ってみる。その顔が赤く強張ったことに、不安と期待が入り混ざった。



   ◇



朝陽あさひ


「あのさ」


「うん?」


 草加くんが真面目な表情でわたしを見下ろしてくる。なんだろう。なにかやってしまったのだろうかという不安と、彼がわたしを見てくれている嬉しさと。手の平にじんわり浮いてきた汗をごまかすように、浴衣を軽く握った。


「あのさ……」


「うん……?」


 草加くんが言いづらそうにわたしから視線を外した。なんだろう、わたしの浴衣、なにか変? それとも「そろそろ帰りたい」って言われるの? それはやだな。なにか面白いこと言ったほうがいい? でも何を、何を話せば――


「あのっ」


「ひゃいっ」


 また噛んだ。恥ずかしい! わたしに視線を戻してきた草加くんの顔が真剣で、格好良くて、でも同時に何を言われるのかわからなくて怖い。


「俺と、付き合ってください。彼氏彼女として」


「えっ?」


 どういうこと? そもそもわたしが先に告白したよね。だから今日は夏祭りのデートに来ているわけで――あれっ? まさかわたし、付き合ってくださいって言ってないの!?


 思い返してみると、デートに誘うことしかできていなかった。ばか。いちばん大事な台詞を飛ばしてどうするの。でも、わたしが飛ばしてしまったら、草加くんが言ってくれたわけで――草加くんが!? 付き合おうって、わたしに!?


「はっ、はい、よろしくお願いします……!」


「……うん、よろしく」


 差し出された手を握り返してから、失敗したと思った。握手してどうするの、わたし。そうじゃなくて、もっと自然に、手を繋ぎたかったのに。


 身動きできずに固まっていたら、草加くんのもう片方の手が、わたしの手をさらっていった。するりと絡められた指に、触れ合う手のひらの熱さに、心拍も体温も上がった気がした。



   ◇



りつ



 普段と違う、甚平姿の幼馴染の隣は落ち着かない。さっき変に張り合って、腕組みなんて慣れないことをした動揺も尾を引いている。できるだけ彼には視線を向けないように乗り切ろうと思ったのに。


「手ぐらい繋げ、って言ったのは律さんだよね?」

 

 いたずらっぽく笑ったその表情を、私は知らない。可愛い弟のはずだったのに、どうして時折そんな表情をするんだ。困る。落ち着かない自分に、彼が知らない人に見えることに、どうしていいかわからなくなるから。


 一体どうしたっていうんだ、今日は。いつもならこんなふうに接してはこないのに。


「それは……その、朝陽に言ったのであってだな」


 目を合わせられず、視線をうろうろさせていると、悠真がゆっくりと手を離した。


「ねえ律さん、嫌ならちゃんと拒否して。律さんが嫌がるなら、もうしない。僕じゃ嫌?」


「嫌って、何が」


「わかってるくせに」


 真剣な目の熱っぽさに心の臓が跳ねた。悠真が何を言わんとしているか、わかっていないわけではない。ただ、認めるのが怖いだけ。認めてしまったら、もう姉弟には戻れなくなるから。


「好きだよ、律さん。ずっと昔から。僕の彼女になってよ」


 こっちは今の関係の心地よさにしがみつきたくなるのに、年の差を言い訳に使いたくなるのに、向けられた瞳に迷いの色はない。


 はああーーと長い息を吐きだしてから出てきた言葉は。


「若いって怖い……」


 というもので。


「は? どういう意味? 告白の返事は!?」


「保留」


「保留ってなに!?」


「今日は朝陽の見守り! 悠真はその、次だ次」


「ふうん……」


 答えを先延ばしにすることでどうにか逃げたつもりだったのに、


「じゃあ、次は隣町の花火大会ね。来週だから」


「えっ」


「約束ね」


 そう言って笑った彼を見て、押し切られるのも時間の問題ではないかと思うのだった。











(終)




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