大好きなお姉さんを夏祭りに誘うためなら、小狡い手だって使うよね【悠真視点】


 僕は、幼馴染のお姉さんに恋をしている。


りつさん、朝陽あさひの写真を撮ってきたよ」


 慣れたお隣の玄関。靴を脱がずに声をかけると、タンクトップにショートパンツという刺激的な格好の律さんがリビングから飛び出てきた。


「でかした悠真ゆうまっ」


 彼女は僕の一眼レフカメラを奪い取って写真を確認し始める。


 妹の写真を撮るのが大好きな彼女は、妹が「浴衣を着て告白しに行く」と聞いて、朝からカメラを離さなかった。写真を撮るときの彼女はいつも「可愛いぞ朝陽っ」だの何だのうるさいので、僕は必死で止めたのだ。妹の初めての告白を邪魔する気か、僕が撮ってくるから黙って待ってろ、って。


「我が妹ながら朝陽は何を着ても可愛いなあ」


 よだれを垂らしそうな笑顔を浮かべた彼女は、僕のことなど見てもいない。妹の写真をひととおり堪能してから、やっと僕に目を向けてくれた。


「撮るのが上手になったじゃないか」


「まーね」


 好きな人がカメラマンを目指すと言えば、必死で覚えるよ。貯めてきたお年玉の全部を使ってカメラを買うし、図書館で写真の撮り方の本を読み漁るよ。


「優秀な弟を持って私は幸せだ」


「弟じゃない」


「この様子なら告白は成功したんだな? 何よりだ」


「聞いて」


 抗議しても、律さんはどこ吹く風。いつもそうだ。


 頭をくしゃくしゃになでられ、子供扱いするなと悔しく思うのに、同時にたまらなく嬉しい。


 彼女のやわらかい手が僕の頭に触れている。

 それだけで動悸が激しくなり、体温が上がる。


 彼女が年上好きだと知っている。ただの幼馴染どころか家族だと思われていることもわかっている。不毛だと知っても気持ちを止められないのだから、前に進むしかないんだ。


「ところで悠真、朝陽はデートなんて初めてだろう? ついていかなくて大丈夫だろうか?」


 初デートに保護者なんて邪魔だよ。

 とは思ったけれど、僕はその言葉を待っていた。


「心配なら見守りに行く?」


「私は邪魔だと止めたのは悠真だろう?」


「今から様子を見るだけなら大丈夫だよ。律さんが暴走しそうになったら止めてあげる。変装のために浴衣を着てね」


 親友と幼馴染の初デートをだしにするなんて僕はずるい。わかっているけど、望み薄な恋をしている僕は、使えるものは何でも使うんだ。







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