第七話 解

俺は今、床に仰向けで倒れ、胸下にはリミーが抱きつき泣いている。リミーの小さな胸の膨らみが下腹部にあたる。小さい故の弾力性をこんな状況で無ければ鼻の下を伸ばして堪能した事だろう。


【はい】を押そうとした瞬間だった。ターナとリミーが甲高い声を上げる。

「ニットごめーん!!」

「イン様ダメー!!」

確かに俺は聞いた筈だと思うが、何を言っているのか理解出来なかった。その時、何かの衝撃を感じた。俺は気力、そして、全身の力を失っていた所へ何かしらの攻撃を受けた。その攻撃は今の俺を武器として、床にダメージを与えるには充分な攻撃だった。俺は、何の抵抗も無く倒れ、床に痛恨の一撃をお見舞いしてやった。

「イン様ごめんなさい!ごめんなさい!」

俺の頭の上では、目を閉じ天にでも祈る様な恰好で両手を頭の上で合わせ俺を見下ろしいるターナとバウンドの姿がある。思考回路の再設定を脳が急ピッチで行なっているが要領を得ない。

「ニット!ごめん!本当にごめん!」

「イン!悪い!」

小さな膨らみが俺の体から別れを告げリミーが俺の体を起こし座らせる。その姿は祖父と孫の様に見えたに違いない。視点が定まらない。皆の顔を見るのが怖くて仕方ない。ターナとバウンドも座る。

「ニット、私達が何故あんな事言ったのか全部言うね」

ターナの言葉が頭の上を通り過ぎて行く様な感覚がした。

「イン様、私達はイン様の前では、私達では無くなるのです」

「ああ、そうだぜ」

俯き黙っている俺に気を遣っているのか、それとも自分たちの罪悪感からか、俺が落ち着くまで暫く黙って待っていた。

「落ち着いた?本当にごめん!」

俺は黙っているが、お構い無しに続ける。

「ミットの言う通りに、ニットと同じ空間や姿が見える場所にいると、私達は、ニットの支配下にいる感じになるの。すべてニットの選択に従う事になって、何かに強制的に操られているみたいに、私達が拒否する事が出来無くなるの」

「このお部屋は、何故かしら分からないけれど、私達の意思でお話しする事が出来るのです」

「言っとくけど、ミットにバウンドは悪くないから。全部私がやった事だからね」

何故か怒りは湧いてこない。俺は皆が置かれてたであろう状況を理解し始めている。

だが、


「仲間じゃ無い」


の声が俺の脳をバグらせる。しかし、そのバグが俺に冷静さを取り戻しているのを感じさせていた。

「悪い、心が折れかけた」

バウンドが俺の頭を撫でる。不意に涙が一滴床に落ちた。それが合図となった、ターナとレミーが俺に抱きつき、両耳に二人の泣き声が飛び込んで来る。顔を上げると、バウンドも泣いていた。俺達は抱きしめ合い泣き続けた。

そんな俺達の姿を見て魔王は、笑顔になってた様な気がしたが、聞いた所で否定するだろう。

今、この部屋は雨の日の午後の室内の様に静まり返っている。俺達四人は抱き合い身動き一つもせずにいる。外食に行き暫く飲み食いした後、皆が黙り込み、もう帰るのか?あと一杯だけビール飲みたいな。「あと一杯だけいいかな?」って誰か言え、と皆が思っている状況に似ている。


 そして、俺、リミー、バウンドは知っている。こんな時はいつもターナだった。誰よりも笑い、よく喋り、騒がしい。が、いつも俺達は、元気付けられていた。この世界の賢者様だって?ふざけんなバカやろー!いいか!世界!この馬鹿女は俺達パーティーの大賢者様だ!と、この世界に中指を突き付けてやる。


「ニット、えとね・・、ミットとバウンドは、私の操口魔法でね、操られていたの」


「イン様ごめんなさい」


 俺達は暫く謝り合っていた。何か、絆が深まった様な気がしたが、恐らく本当に絆が深まったのだろうと俺は確信している。皆も俺と同じ事を思っている様な雰囲気を感じ取っていた。


「私達はね、宿屋に泊まって、ニットが出て行った時にね、話し合ったの」


「何をだ?」


「私達は、本当に疲れていたの。でも、ニットは気が付いてなかったじゃない?私達は、気が付いて欲しかったから、この世界に対して抵抗は幾つかしたんだよ?」


「どんな?」


「街の出人口の前で、初対面なのに名前で呼んだりって、そして、ミットもしてたよ?」


「あ・・・そういえば」


「でね。宿屋で話しあったのがね、一回だけでいいからチャンスがあったら、言いたい事言って私達がどんな想いでいるのか思い知らせてやろうって、でもね、バウンドとミットは反対したの、ニットもこの世界の被害者だよって」


「イン様・・・私も悪いのですわ。私は、イン様が少し怖かったのです。いつも、突然に違う話しをしたりと・・ごめんなさい」


「いや、いいんだ。俺のスキルの事を説明してなかったしな」


「イン、悪かったな」


「俺にとって、皆は最高の仲間だ」

 

 ターナが俺に抱きついて謝る。ターナの中々に大きな膨らみを体で堪能しながら立ち上がる。


「ニット、魔王なんかにならないで、お願い」


 魔王が腕を組み立っている。こいつとはどのくらい戦ったのだろうか?しかし、本当の意味で本気で戦って無かった。俺は魔王の前迄行くと初めて本気で魔王と対峙した。


「俺は魔王になんかならない。俺は魔王を討ち果たす者だ」


「フッ、ではどうするのだ?仲間をこのループから救うには、お前が魔王になる以外ないぞ?」


「俺は、魔王を討ち果たす存在だと、今言った筈だが?」


「なるほどな、分かった。では、やろう。かかってくるがいい」


「何を言っている?何故お前と戦わないといけない?」


「貴様、ふざけているのか?」


俺の横に一人一人歩いてくる。横並びになる。

ターナ、俺、リミー、バウンドの順に並び、魔王に向かって白い歯を見せ笑顔になる。魔王は眉間に皺を寄せている。そんな魔王に俺達は手の甲に刻まれたパーティーの証を見せ


「魔王、いや!アン・エンド!お前も今は仲間だろ!!一緒に世界という魔王を討ち果たすぞ!!」


「ククククク、あはははははは!!そうだったな、私もお前達の仲間だったな」


「この世界はカバンの上の欄に何か登録すれば戻るのか?」


「ああ、その通りだ」


このバグった世界を戻す為、来た時の光を辿り、道具屋に戻る事が出来た。そして、カバンの欄を直して外に出ると、世界は元に戻っていた。




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