勇者の孫がヴィランになった件 ~異世界帰省で悪役卒業~
猩猩ノハナ
第1話 テンプレ異世界召喚はされるほうが恥ずかしい(1)
「よくぞいらした、異世界の勇者たちよ!」
その言葉と共に、周囲を包んでいた光が収まっていく。床には複雑な紋様が描かれ、壁には古代の壁画が飾られ、不思議な光が床から浮かび上がっている。同じデザインの学生服を着たオレたち四人は、神殿のような場所にの中央に立っていた。
「異世界?ここは異世界なのか?」
隣にいた黒髪の少年が誰ともなく疑問を投げかける。少年は整った顔立ちに肌はほんのり褐色で、鋭い目つきをしている。
その声にこたえるように、年老いた僧侶のような白の服装の人物が彼らの前に現れ、威厳を表すようにゆったりとした口調で話し始めた。
「さようでございます。私はアルベロ。この国の指導者です。そして、あなたたちは選ばれし者。この国を救うために、異世界から召喚されたのです。」
「あの、国の名前をお伺いしてもよろしくて?」
オレの後ろからする声に振り替えると、深藍色の髪を眉のラインでそろえた姫カットの少女が落ち着いた調子で問いかけていた。
「国の名前?エラルダ神聖国にございます。」
「えっと……救うっていうのは、何からでしょうか……?」
深藍色の髪の少女の陰に隠れるように、今度はおずおずと、赤茶の髪の小柄な少女が問いかける。
「この国は邪悪な魔王により、今まさに危機に瀕しているのです!どうかそのお力で魔王を」
アルベロと名乗った老人の言葉を遮り、反射的に声を上げてしまった。
「え、嫌ですけど。高校の入学式直後に異世界召喚とか、非常識じゃないですか?」
オレの言葉に、周囲に緊迫した空気が流れる。他の三人も似たようなことを考えていただろうと見まわしてみると、少年は頭を抱えてため息をつき、深藍色の髪の少女は声を殺して笑い、赤茶髪の少女はあわあわと慌てていた。
「……救っていただかなければ、残念ながら元の世界にお戻りいただくことはできませんが……?」
「え、マジで言ってる?」
「おい、金髪。少し黙っていてくれ」
たしなめられたほうに視線を向ける。最初に発言した黒髪の少年からのものだった。確かに金髪に染めているのはこの中でオレだけだ。渋々と噛みつくのをやめて、肩を落として黙り込んだ。
「では、同意いただいたということでよろしいですかな?残念なことばかりではありません。この世界にいらした際に、元の世界では持っていなかった素晴らしい能力を、あなたがたは神から授かったのです!こちらをご覧ください!」
アルベロが後方の神官に視線で指示を出すと、大層な台座に備えられた宝玉を持って彼らの前に置く。
「これは?」
「鑑定装置と呼んでおります。皆様がいま所持していらっしゃる特性を見ることができるものです。お名前をおっしゃってから、この装置に触れてください。」
「それでは俺から、鞍馬 影守(クラマ カゲモリ)、守人学園の新一年生だ。」
オレをたしなめた黒髪の少年、クラマが宝玉に触れると、その宝玉の中に文字が現れる。異世界文字のようで俺には読めない。代わりにアルベロが大声で読み上げる。
「おぉ!おぉ!全魔法の上級特性と剣士の特級特性!世界屈指の特性にございます!!」
大声に顔をしかめながら次を促すクラマ。続いて深藍色の髪の少女が宝珠に手を触れる。
「わたくしは竜宮 乙波(たつみや おとは)と申します。同じく守人学園の新一年生ですわ。」
「おぉぉ!!神聖魔法と水魔法の特級特性!まさに聖女様にございます!!」
フン、と鼻を鳴らしてさっさと下がる。続いて赤茶色の少女が宝玉に手を触れる。
「……阿曽 姫花(あそう ひめか)です。オトハちゃんと同じです……。」
「火魔法と鍛冶技術の特級特性とは!火の神に愛された存在でございます!」
あぃ……と小さな声を出して引っ込むと、最後にオレが宝玉に触れる。
「雷童 我浪(ライドウ ガロ)」
名乗りと共に、ひと際大きな光が周囲にあふれる。それが収まった後、現れた文字を見て目を見開くアルベロ。震える口を押えて、静かな口調で宝玉に書かれた内容を述べた。
「……下級、身体強化……」
「わぁ、オレの特性、下級身体強化じゃん。召喚失敗したんじゃないの?」
「くっ……!あなたは三人のついでに呼ばれただけのようですな!!」
「そうみたいですじゃな! ……じゃ、帰ってもいい?」
「お三方が魔王を倒すまでは帰れませぬ!!荷物持ちでもされてはどうか!」
アルベロを怒らせ、やる気無さそうにため息をついてみせると、それを手で制するクラマ。
「ライドウといったな。いい加減にしろ!」
「怒らないでよ。ゆうしゃさま」
しばらく睨みあった、クラマからフンッと視線を外す。
「アルベロ様、この無能者には私が言い聞かせますよ。まずは四人で落ち着いて話せる場所をご用意ください。能力はともあれ、学友になるはずだった者ですから」
クラマの言葉にアルベロが作り笑いを浮かべてうなずいて見せる。
「えぇ、さすがは勇者様。国に置き去りにするも、追放するも、荷物持ちにするも、奴隷契約紋で奴隷にするも、お任せいたします。」
そうしてオレたちは用意された部屋に連れていかれた。フル装備の兵士が十人。部屋に案内した後も入り口をしっかりと固めているようだ。
さてさてどうしようかと、近場の椅子にだらりと腰掛け部屋を見回した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます