017 冒険者について

 受付女性は魔力登録機を片付けつつ、書き込みが済んでいる用紙と白銀文鎮を他の職員へと渡し、説明を開始する旨を告げた。


「冒険者はギルドに届いたいろいろな依頼を受け、それをこなすことで報酬を得る職業です。依頼には受注可能ランクというものが設定されており、それがギルドが認定する『冒険者ランク』になります。

 冒険者ランクは十等級から始まり、最高ランクは一等級になります。

 ですが二等級には一国家による推薦、一等級には複数国家による推薦が必要になるので、実質国のお抱え冒険者ですね。

 なので事実上の在野最高ランクは三等級になります」

「へぇ。『Aランク』とか『シルバーランク』とかじゃないんですね」

「過去には宝石や金属の名前を取ったものを採用していたのですが、約四十年ほど前に一新され現在の表記へと変わりました」

「なるほど」

「続けますね。

 登録されたばかりのお二人は十等級からのスタートになるのですが、戦闘や魔術の心得、狩猟経験、各種学術機関での卒業証書などがあれば、簡単な狩猟や討伐が許可される九等級からのスタートが可能です。

 察するにお二人はそういう経験があるように見受けますが、どうでしょうか?」

「どうすればそれって認めてもらえるんですか?」

「ギルド施設奥にある訓練場での技術披露、または狩猟・討伐成果の提示などですね」

「あぁ、少し前までノアルファール大森林にいたので、ブリッツムースを丸まる提出できますよ」

「大森林のブリッツムースですか? 単独であれば六等級、五頭以上の群れであれば五等級相当に当たる魔物ですね。

 大森林の話ですと他の通常の個体よりも体毛がやや黒く強靭で、かつ多くの個体数が確認される場所なので、最低でも五等級クラスに該当しますが……」


 受付女性はやや疑わし気な表情をしたが、表情を元に戻して話を続けた。

 

「倒した状況や方法などを聞くことにはなりますが、もしそれを提示できるのであれば九等級の認定は間違いありません」

「それ以上になることはないんですか?」

「ありません。十等級と九等級の差は町の外へ出る依頼を受けられるかどうかになるので、それが可能かどうかを判断する基準になります。

 冒険者の原則として、基本的に誰であっても依頼の達成実績が必要です。要は適正ランク帯の依頼を一定数こなす必要があるというわけですね。

 よっぽど戦闘の実力があるというのであれば、貴族の私兵であったり王国の騎士や衛兵などになることをおすすめしています」

「なるほど」

「続けますね。

 ランクは適正ランク帯の依頼の達成数のボーダーと、ギルドからの評価点のボーダーを満たすことでランクアップします。

 ですが七等級、四等級への昇格には認定試験があり、二等級以上へは先ほど申しました国からの推薦が必要になります。

 これに習い冒険者の間では、十をルーキー、九と八を初級冒険者、七から五を中級、四と三を上級、二以上を最上級冒険者と呼ぶことがあります」

「試験が区切りになってるってワケですね」

「はい。ギルドがそう定めたわけではありませんが、ギルドとしても概ね同じ考えです。

 付随して、依頼はランクの一つ上の依頼まで受けることができますが、十等級の方が九等級の依頼は受けることはできず、同じく試験が必要になる七等級と四等級の依頼もランク一つ下の方が受けることはできません。

 ですが三等級であれば二等級や一等級依頼を受けることができます。

 とはいえ、二等級以上の依頼は国家的、又は世界的危機に近い依頼ですので、例外的に様々な役割で九等級以上の冒険者が全て受けられるという場合もあります。

 まず発生しない依頼ですね。最後の二等級以上の依頼が七十八年前だそうです」

「自身のランクよりも低い依頼、例えば五等級が十とか九等級の依頼を受けることは可能なんですか?」

「可能ですが基本的に推奨はしていません。

 自身の怪我や新人の指導目的などの何かしらの事情があるか、誰もやらないような不人気や塩漬け状態にあるならばともかく、等級に見合わない依頼は稼ぎが減ることになりますし、その適正ランクの方の仕事を奪うことになりますので、目に付く場合はギルドの評価が大きく下がり、場合によってはランク降格もあり得ます」

「まぁ妥当っすね」

「低いランクの依頼をしたいなら相応のランクにしてあげましょうってことですね。確かに妥当です」

「そうですね。ただ、どうしても低ランクの不人気依頼や、大量にこなさなければならないような低いランクの依頼などありますので、そういった依頼をこなしてくれる冒険者なのであれば、ギルド評価に多少のプラスがつく場合もあるので一概には言えませんが」

「ちなみに十等級の依頼ってどんなものなんですか?」

「主に肉体労働ですね。建築現場での荷運びや建て替え工事での瓦礫や土砂の撤去。

 他には教会での炊き出しの手伝いや、街の清掃業務。ゴミ拾い、どぶさらい、煙突掃除、害虫駆除なんかですね。

 珍しいものだと逃げたペットの捜索なんていうのもあります。

 九等級以上に上がった冒険者で特に理由なくこれらをやる方はほとんどいませんね」

「気持ちはわかる気がします」

「ただ、肉体労働系の依頼は九等級の依頼よりも報酬が高い場合がままありますので、そういった理由で依頼を受ける九等級冒険者はそれなりにいますね。

 九等級と十等級の依頼の差は街の中か外かだけなので、難易度としては実際それほど差がないのが実情です」

「なるほど」

「ランクに関しては以上です。

 次はギルド規則についての説明になりますが、基本的に王国法を守る限りは違反することはありません。

 ギルド特有のものでいえば、冒険者同士でのいさかいに対する対処は支部ごとに一任されていますが、基本的には不干渉です。

 ただしあまりにも悪質な場合や冒険者以外の他者への被害がある場合、建物や施設等に被害がある場合には厳正に対処します。ランクの降格やギルドからの除名、場合によっては騎士や衛兵に突き出すこともありますのでくれぐれもご注意ください」

「ちなみに詳しく知りたい場合はどうしたらいいでしょう?」

「ギルド規則をですか? その場合はギルド二階にあるすべての冒険者が利用できる資料室にまとめたものがありますのでご確認ください」

「目を通しておきます」

「は、はぁ……? そうしていただけると助かりま、す」


 受付女性は見たことのない珍獣を見るような目を一瞬したが、気を取り直して話を締めくくった。

 

「説明は以上です。なにか質問はありますか?」

「ランクアップのボーダーっていうのは、教えてもらえるんですか?」

「各ランクでの必要依頼達成数はギルド証に記録され、表示されます。評価に関しては明確にはお教えできませんが、どの程度必要かその時々に聞いていただければ目安をお伝えすることになっています」

「そういう時にギルドとしてやってほしい依頼などを紹介されるという感じでしょうか?」

「そうですね。マリナウェルさんであればポーションの納品依頼や売却はプラス評価になりますよ」

「これはポーション作りがランクアップの近道ですね」

「ぜひお待ちしています」


 そんな話をしていると、他の職員が二枚の金属製のカードを女性職員のところに持ってきた。

 それを女性職員は受け取り、そのままの流れで二人の方へと差し出した。

 

「こちらが十等級の冒険者証になります。ギルドカード、冒険者カードとも言われています。魔力の登録が行われているので、もしなくされても各支部にて再発行が可能ですが、再発行には一万ドラグ必要になりますので、なくさないようにお願いします」


 渡されたカードは九センチ×六センチほどのカードで、サイズ感でいえばクレジットカードや各種ICカードなどに近いサイズ感のカードであった。

 金属製のそれには、名前と等級という欄があり、十等級であることと必要な依頼達成数が数字で『20件』と書かれていた。


「これにて冒険者登録は終了です。これから冒険者として成功されることを期待しています。それと、登録が完了したので、仮身分証の分の代金を返還しますのでお受け取りください」


 そういうと、銀貨二枚が差し出され、ウェイトリーはそれを確かに受け取った。


「では続けて十等級のスキップ審査を行いますが、よろしいですか?」

「あぁはい。シカならいつでも出せますけど、どうすればいいですか?」

「ギルド裏の解体場で提出をお願いします。ご案内しますので、少々お待ちください」


 そういって受付女性はカウンター席から立ち、右手側にある出口から出て、二人についてくるよう指示する。

 ホールと受付の間にある通路を通り、そのまま裏にある解体場へとやってきた。

 解体場はそれなりに広く、獲物を載せる台が十以上あり、数名の職員が道具の手入れやなどを行い、一か所だけ魔物の解体を行っていた。

 

 女性職員は解体を行うであろう筋骨隆々とした職員を呼び止め、ブリッツムースを持っている人がいるので鑑定と査定をお願いしたい旨を告げ、二人に声を掛ける。

 

「今すぐ出すことが可能なんですよね?」

「大丈夫ですよ」

「ならこっちの台の上に出してもらえるか」


 解体職員の指示に従ってウェイトリーは、あえてわかりやすいように台の上に一枚のカードを取り出して置き、少し離れて手をかざしながら『発動』と唱えた。

 するともはや見慣れた光景と言えるように一体のブリッツムースの死体が台の上に横たわった。

 流石はギルドの職員といったところか、両名とも関心するような表情こそしたが驚くようなそぶりは見せなかった。


「そんじゃ見させてもらうぞ」


 見分を始めた解体職員は、ブリッツムースをぐるりと回りながら確認し、感心したように口を開く。

 

「これまた立派なもんだ。体格がガッシリしてて普通より一回りデカイ。角の枝数も多いからかなり魔術も使いこなす方だな。毛色から見ても間違いなく黒森産だなこりゃ」

 

 さらに頭部のあたりに触れながら言葉を続ける。


「これが致命傷だな。小さいが深く急所を確実に射抜いてる。かなりの手練れだな。他の傷はどれも浅いから間違いない。

 さらに驚くのはまだわずかに暖かいってこったな。倒してからどれくらいだこれ、森までなら急いでも三、四日はかかるだろうに」

「カードに封じ込めると時間が止まるんですよ」

「なるほどな。そりゃ大したもんだ。しかしこのまま出しときゃ肉が傷む。さっさとバラした方がいいがどうする?」

「どちらにしろ買い取ってもらいたいのでお願いします」


 村の衛兵に聞いた話し通りなら、一頭売れれば二人分の宿代には十分足りるだろうとという予想だが、まずは問題なく買い取ってもらえそうなことにウェイトリーはひとまず安心した。

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