第4話【コラボのお誘い】
仕事をしている底辺Vtuberの朝は早い。
それはホラーゲームで絶叫を繰り返し、声が枯れたとて変わらない。
早朝五時。喉が痛くて、最悪の目覚め。
私は久しぶりにランニングウェアを着て、外に出た。
三十分ほど走った後、シャワーを浴びて朝食。
いつもと同じ、トーストと目玉焼き。今日はウインナーもつけておこう。
喉が痛いのでコーヒー……ではなく、はちみつ入りのホットミルクを飲む。
六時十分になったので、家を出た。
六時四十分。
通勤電車に乗りながら、Twitterとメールチェック。
昨日から、どうもTwitterの通知欄がおかしい。表示上限を超えた証の「20+」マークが消えない。
ふと、ダイレクトメッセージが届いているのに気付いた。
そんな文面から、長々と書き記されているメッセージの文面。
いきなりメッセージが来たことにも驚いたが、それよりも差出人の名前に目が行った。
彼は、自身が多忙な教師だと公言しているため、普段の配信時間は短い。
だが、それを補ってなお、一人のライバーとして余りある人気を博している。
なんでこんなすごい人が私に……?
メッセージの内容は、ホラーゲームでコラボ耐久配信をしませんか?というものだった。
既に事務所からもOKは出ているとのことで、あとは私の返事を待つのみ……らしい。
勝手に話を進めないでおくれよ……。
学校の最寄り駅に到着したので、一旦返事は保留。
電車を降りた。
七時五分。
私が職員室に入ると、先生たちはほとんど席についていた。
「兎本先生、またギリギリですか」
バーコード頭の教頭先生が、おなじみのセリフを口走る。続く小言をそれとなく回避しながら、私は自分の席に座った。
「兎本先生、おはようございます。今日も私の勝ちですね」
耳打ちしてくるのは、
「おはようございます。いやぁ、昨日はちょっと……」
マズい。今日は声が枯れてるんだった。
慌てて口をおさえると、袴田先生は目を丸くした。
「兎本先生、大丈夫ですか? 昨日叫び過ぎたみたいな声してますけど……」
「あはは……」
……おっしゃる通り。昨日は叫び過ぎたんです。
「それじゃあ、みんな揃ったようなので朝礼を始めます」
バーコード頭の教頭が、一日の始まりを告げる言葉を述べた。
十三時半。
食堂で生徒たちと給食の後、雑務とメールチェック。加えて、メッセージで返信する文面を考える。
「はぁ……どうしよう」
やめようと思った矢先の、コラボのお誘い。
登録者50万人越えのVtuberとコラボなんかしたら、私によほど魅力がない限り、また伸びてしまう。
断るべきかな……。
日程は今週土曜の夜。今日は木曜日なので、誘いを受けるなら今日が期限だろう。
土日は休みなので日程的にも大丈夫だけど……。
「兎本先生、これどうぞ」
「ひゃいっ!?」
急に声を掛けられ、肩がビクりと跳ねた。慌ててパソコンの画面を切り替える。
横の席の袴田先生が、右手に持った何かを差し出していた。
「これ、のど飴です。少しでも良くなるかなって。……それにしても、先生って意外とビビりですよね~」
袴田先生はニコニコしながら、はちみつを模したオレンジ色の袋を手渡してくる。
「怖いのとかびっくりしちゃうのって、どうも苦手で……あ、ありがとうございます」
「いえいえ~」
飴を受け取り、さっそく口に放り込む。
はちみつの甘い味が口の中を支配した。
「あ、兎本先生」
何かを思い出したように、袴田先生が声を上げる。
「はい?」
「次、授業入ってませんでした?」
私は着替えの入ったバッグを掴み、急いで更衣室へと向かった。
十八時すぎ。
帰りの電車に揺られながら、私はTwitterのメッセージ画面とにらめっこしていた。
相手は、
「うーん……」
断って晒されても困るし、一回だけ受けておくか……。
コラボしたところで、あまり伸びないだろう。
最終的に、そんな決断に至った。スマホで返信メッセージを打ち込む。
柳祢子:「初めまして。お誘いありがとうございます。私でよければ、ぜひお受けさせてください」
―――
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