もしくはだれかの冷たい星

尾八原ジュージ

賀古さんと、そのほか色んなこと

01

 怖いものって何? って聞かれたらたぶん血管って答える。

 本当は血管自体が怖いわけじゃないけど、でもきっとそういう風に答えてしまう。

 小学校の理科の授業中、血管は肌の上から見える太いやつだけじゃなくて、もっと体中にびっしり行きわたっているんだって教わった。人間は指の先っぽまで血管が通っている、だから指先でも切ったらちゃんと血が出るんだって、そういうことを画像つきで教わったとたん、突然ストンと変な納得をしてしまって、急に怖くなった。

 だって、けがをするのなんてすごく簡単だ。たとえば転んで手をついたときにてのひらの血管が切れたら、そこからいっぱい血が出て死んでしまうかもしれない。だって血管はあんなふうに体中にはりめぐらされていて、そして全部つながっているんだから。ちょっとしたけがで一箇所ぷつんと切れたら、そこから体中の血がどくどく出ていってしまうかもしれない。そんなことを考えていたら急に頭がきゅーっと冷えて、授業中だったのにわたしはその場に倒れてしまった。

 もちろん、死なない。当然だ。指の先っぽなんか切っても、そんなふうにどばどば血が出たりはしない。大丈夫だよ、とあとで養護の先生に教えてもらったし、実際そうだろうなってことも落ち着いたらちゃんとわかる。ちょっとした怪我をすることなんて、ふつうに生活してればけっこうあるものだ。血管が切れたのに気づかないことだってあるくらいなのに、ちょっとけがしたくらいで死ぬだなんて普通だったらありえない。

 だから今はちゃんと、体の先っぽの血管がちょっと切れたくらいじゃ死なない、とわかっている。

 でもやけにさびしい夜なんかに空を見上げていると、だんだん自分の存在する意味とかがわからなくなってきて、そういうときふと頭に浮かんでくるのは、指の先っぽから体中の血を流して死んでいるわたしの姿なのだった。

 だからかわからないけど、わたしはいつもちょっと不安だ。起きて、息をしているときはいつも。


 賀古さんは、なんとなくそういう気持ちをわかってくれそうな子だった。

 中学一年生。わたしは何のとりえもない、つまんない子どものひとりで、一方の賀古さんはといえば、あちこちに百円玉をばらまく仕事をしていた。

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