踏切事故

傀儡偽人

踏切事故

 踏切が鳴った。いつも突然なりだすので、私はいつもびっくりしてしまう。踏切は最初けたたましく音を立てていたが、やがて遮断桿が下りると同時に少し静まった。犬の散歩をした爺も、買い物へ行く婆も、自転車に乗った青年も、みんな従順に、列車が行き過ぎるのを待っている。

 踏切の向こうに子供が数人、ボール遊びをしている。ドッヂボールだろうか。何やら楽しげな声が聞こえてくる。

 ふいに子供の一人がボールを目一杯投げた。するとそのボールは彼らの頭の上を越して線路に落ちた。子供が一人、ボールを取りに線路上に出た。踏切が鳴っているとも知らずに。もう近くに電車の顔が見えているのに。自転車の青年が咄嗟に非常停止ボタンを押した。犬が吠えた。まるで危険を知らせるような、太く、強い声で。爺が怒鳴る。「危ないぞ!!」。婆が叫ぶ。「よけてえ!!」。


 しかし時は遅かった。レールを通してキイインという金属音が響き渡る。モーター音とともにブレーキ音も聞こえる。明らかに減速できていないその列車は、焦燥を浮かべながらもどうすることもできず途方に暮れいる子供に向かって猛スピードで突っ込んでくる。私は思わず目をつむった。線路わきの子供が彼の名を叫ぶ。

 汽笛が、鳴り響く。


 「バムッ」。鈍い音が聞こえた。


 目を開けるとそこには無残な光景が広がっていた。体中から血を流しぐったりとして倒れている子供。私はもう無理だろうと思った。横では爺が救急車を呼んでいる。青年が唖然として立ち尽くしている。婆が泣き崩れる。彼の仲間たちが涙を浮かべ彼に駆け寄って涙を浮かべている。私も彼が倒れているところへ行って彼の息を確認した。

 彼は、死んでいた。

 

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