和音

紫雨

ヒカリ

 交通事故から目を覚ましたとき

 私の記憶は何もなかった

 リハビリに学校に人間関係

 全て手探りで藻掻き掴んだ

 ひとつずつ ひとつずつ

 欠けたものを埋め尽くすように

 今できることを全力で


 いつか記憶が戻るその日まで

 

 それなのに どうして神様

 戻ってきたのは

 記憶ではなく人格

 突然始まる日替わり生活

 私の中に私が二人


 毎朝起きれば手首が痛む

 知らないリストカットの

 線をなぞれば

 襲いくる罪悪感

 三年間だけの私と

 三年間だけ欠けたあなた

 きっと偽物は私


 床に投げ捨てられていた

 コンクールのトロフィー

 抱きしめ涙を零す

 父も母も世の中も

 みんな冷たい

 今年のコンクールは

 出場できるのだろうか

 あの子には負けたくないと

 偽物のくせに意地を張る

 

 私が消えればいいのだと

 言葉に出来ても

 行動できない

 同じ場所で生まれた命

 どうして私だけ

 

 悲鳴のような高音が

 静かに響く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る