第28話



 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…





 かざねの生体反応はすでにない。


 イノセントの認識は、ほんの一瞬の間その「理解」を深めていた。


 確かに生体反応はなかった。


 かざねと思われるエネルギー体は、確かに地上から消えていた。




 プク


 プクプク




 水蒸気。



 かざねは、水のイメージを具現化できるイモータル。


 その領域は分子レベルにまで“拡げる”ことができ、あらゆる形状、状態変化にまで、その範囲と〈量〉をコントロールすることができる。


 【モード】の変化。


 かざねが移行していたのは、ガード状態からの“分解”だった。


 水の壁の内側である一点に収縮する力を、多方向へと分散させる。


 固体から液体へ。


 液体から気体へ。


 ”物質の三態“


 あらゆる物質は温度や圧力に応じて、固体・液体・気体という、いずれかの状態をとる。


 かざねは「水」という物質のイメージの中心で、自らの細胞を極限にまで“縮めていた“。


 体を小さくしようとしていたのではない。


 1つ1つの細胞の粒子を、小さく、隙間の無い空間の中へと押し込めようとしていた。


 全身を断裁機で切り刻むように。


 ——また、すり潰したりんごの果汁を、ギュッと搾り取るように。


 

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