第19話


 意識の及ぶ平面上。


 かざねの展開する量子エネルギーは、外部への出力、——つまり空間と地面とを繋ぐ境界面上に展開されていた。


 イノセントが放ったエネルギー弾をシールドの表面に受け止める最中、シールドの球面上には、敵の攻撃を受け流す「流域」が発生していた。


 水のイメージを最大限に拡張し、エネルギーを上から下へと“流せる”物理的な経路を生成する。


 滝の中に鳥が突っ込めば、あまりの水の勢いに体ごと呑み込まれてしまうだろう。


 氾濫する川の流れも同様だ。


 何万リットルもの濁流の中に人が落ちれば、なすすべもなく押し流されてしまう。


 かざねが形成したシールドには、その表面上に凄まじい回転とエネルギーが生み出されていた。


 と、同時に、水の“イメージ”の中に「液体としての構造相転移=流動性」も混ぜ込ませていた。


 敵の攻撃を吸収し、エネルギーそのものを地面へと受け流すためだ。


 シールドは攻撃を受けるだけでなく、「流す」ための役割を果たしていた。



 全ては、次の攻撃に備えるために。




 ——次




 エネルギー弾を投擲したイノセントの次の行動は、かざねの「命」を狙う“弾丸”のようなものだった。


 高層ビルからの落下は、それだけで強烈な落下エネルギーを生む。


 コンマ数秒のうちに起こる自由落下への所作。


 跳躍。




 かざねはわかっていた。


 イノセントが落下してくること。


 その渦中に生じるエネルギーの大きさが、時間を追うごとに“速く”なること。

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