第10話



 「“爆”」



 量子エネルギーを操るためには『操者』のイメージ=思考能力がもっとも肝心だ。


 かざねのように言葉を表面化してエネルギーを“具象化する”イモータルがもっとも多いが、中には、頭の中でイメージを具現化し、それを体外へと展開するイモータルもいる。


 彼女は口ずさむ。


 よりイメージを確かなものへとするために。




 ズザァァァァァ




 着地と同時に飛散した水の粒子の“内部”から、勢いよく飛び出した無数のうねり。


 それは周囲を取り囲むイノセントたちに向かって、鋭い軌道を描きながら先端を伸ばした。



 水の「形」。


 水の「性質」。



 うねりの一つ一つはドリルのように回転し、伸縮する。


 イノセントたちに逃げ場はなかった。


 少なくとも、地上を徘徊していたものたちにとっては。




 ドドドドドドッ




 かざねの放つ量子エネルギーは、あっという間に広間を覆い尽くす。


 限りなく水に近い性質を持つ“それ”は、鋭い切先を持つ「点」にもなり、また、「線」にもなっていた。


 上空から見下ろせば、水の衣を纏った「花」が、その大きな花弁を広げたように見えただろう。


 弾ける水の輪。


 四方に向かって伸びた、——水流。


 跳躍した水のうねりが、イノセントの体を貫いていく。


 彼女の落下地点から、ビルとビルの〈隙間〉がほとんど無くなっていく。


 整然としながらも無秩序だった。


 多方向に分散したエネルギーの軌跡が、地面の上に残ったのは。


 



 「…1、2。2体はやり損ねたか。まあしょうがない。物陰にいたんじゃね」




 かろうじて被弾は避けたイモータルのうち一体は、左足を負傷し、立ち上げれなくなっていた。


 もう一体は立体駐車場の柱の影にいた。


 太い円柱が壁になったことで、直撃を免れていた。


 

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