第36話 街の観光へ 1

 さて、ある程度騎士団での生活は馴染んできた。そう。あくまで、『騎士団の生活は』だ。相変わらず街にはシェリとリウスに合うためだけでしか行っていない。流石にこのままずっと暮らすのは無理があると言うことで、今日、ついに街へ参ります!

いや、厳密には街の観光かな。


 「で、いろんな人にエスコートの提案されたけど、全て蹴って1人でやってきてしまった。まぁ、探検と考えれば楽しくはあるけど」


 見慣れない街並みに驚きと感動を抱きながら、キョロキョロとあたりを見渡しながら進む。


 街を堂々と歩く人の雰囲気は日本と大きく異なり、筋肉が隆起した男を見かけるのは当たり前で、服はオシャレとはほど遠く、男は動きやすい薄手のシャツに短パンでどこかが破れてるのは当たり前だ。女はネックレスのような装飾品は身につけけている人が少なく、あるとすれば、おそらく結婚指輪と思われる指輪くらいだ。柄なんてない質素な服のように感じる。かくいう私ももちろんそう言う服を今となっては着ているが。


 「しっかし、やっぱり建築技術って煉瓦造りのレベルになるのね。コンクリートなんてあるとも思えないし当然と言えば当然だけど」


 立ち並ぶ家々を見て呟く。あまり外でこう言うことは言うべきではないので、独り言は気をつけるべきかな?


 ただぼんやりとカルチャーギャップを感じ取りながら歩いていると、散漫に人が入る真っ白な建物があった。前世で見ればきっと十字架があるであろう場所に、正五角形の模様がある。そう。ここはこの世界における教会なのだ。


 魔法で唯一治癒能力を持つ神聖魔法の所持者を教会の方で引き取り、一般市民にその恩恵を神の代わりに施す機関としての役割を果たしている。そのおまけとして布教を行う。あっちからすれば逆かもしれないが、この世界のほとんどの人がこの宗教を信仰しているので、もはやどっちでもいい気がするが。


 「実質人が一点に集中してるような話よね」


 国のトップの人は苦労してるだろうなぁ、と痩せこけて頂の部分が薄くなり、今にも倒れそうな、王様(教皇のペット)を思い浮かべて合掌する。


 「寄付っていう名目でお邪魔してみましょうか」


 開放されっぱなしのドアを通る。中に入ってまず目に止まるのは、よくできた四体の彫刻だった。


 (ふぅん。どれがなんの神様か知らないけど、きっとあの神様たちがステータスにある加護を与えてくれた神様なんでしょうね)


 ちゃんとローブとデカめのとんがり帽子を被って魔法使い感を滲ませている男性の神様に、一枚の布だけで体を覆ったような女性の神様に、太い木の幹かなんかに座る女性の神様、そして、細かく筋肉の筋まで彫られている男性の神様の四体。


 そして、扉から続く一つの道の先にはこれまた立派な赤色の正五角形の模様が壁に描かれていた。その下には神官が教会に来た信者に話をしていた。


 (それにしても、ずいぶん大きい気がする。何人入れる?100はいけそう)


 ふらっと周りを見ながら歩く。この教会で勤めているのだろう他何人かの神官が掃除をしていたり、信者さんと話していた。


 少しできていた列の最後尾に並んで、すぐに順番が来た。


 「どうも。今日はいかがなさいましたか?」


 50くらいの優しそうな隣のお母さんっていう印象がある神官さんがいう。


 「えっと、信者じゃないんですけど寄付をしようと思って」


 こちらもしっかりと笑顔で返す。


 「なるほど。そうでしたか。たとえ信者ではなくとも、貴方のような善良な方には必ずや神からの恩恵が与えられるはずです。ひとまず、貴方の心優しき寄付に感謝を」


 私はとりあえず金貨を一枚取り出して、神官さんに渡す。神社のお賽銭に一万円を入れるような感覚で少し勿体なさを感じる。


 「金貨一枚もの寄付をしていただけるのですか!貴方にはきっと神々からの恩恵を受け取れます。それでは、貴方に祈りを捧げます」


 そういうと体を反転させて、赤色の物体に何やらぶつぶつ呟く。そして、2、3分くらいだろうか。とりあえず待っていると、


 「この地を作り、我々正義たる人々に力を与えし神々からの恩恵が在らんことを」


 もうおかえりなさって構いませんよ、と言われたので教会を後にした。


 (なるほど。あのお金は私が思ってたような寄付じゃなくて、教会に対する寄付になるのかな?)


 孤児とかどっかの被災地のために使ってくれないかなぁ。


 教会で金貨一枚という大金を無駄にした私は、さほどそのことは気にせず再びぐるぐる街中を見て回っている。そして、その中で一箇所気になるところを見つけた。というか、ここには今日行ってみたかったのだ。


 モンスターという脅威がいる時点で、異世界には冒険者という職業があるに違いないとそう考えていた。なので、そういった者たちをまとめる冒険者ギルドがあるとも。


 木製で荒っぽく削られて『冒険者ギルド』と書かれた看板が立てられた建物の前に立つ。中からは笑い声がよく聞こえてくる。そして、外には掲示板のようなところに貼られた紙を見ている剣や槍のような武器を持った、そして鎧やローブを着た人たちがいる。


 (私が騎士みたいな格好してたら問題ないと思うけど、今の私なんてただのみずみずしい肌持ったキュートなガールだしね)


 こういうことを常日頃から言ってたら、きっとあのイジメは、エスカレートしてたな。でも、あいつらよりは顔はいいと思うけど。懐かしい記憶に想いを馳せながらギルドの中に入る。


 「おぉ」


 思わず感嘆に尾の声が漏れてしまう。


 左には酒を片手に自分の冒険談を意気揚々として語る酔っ払いたち。右を見れば、のんびりとくつろいでいる者から、仲間と思われる人たちと真剣に何かを話している冒険者がいた。左右で天国と地獄くらいの差がある。ちなみに前の方には冒険者はもちろんいるが、受付カウンターのようになっており、見た目のいい女性がにこやかに待っている。


 (よくこんな魔境で勤めようと思ったわね。冒険者が消えることはないだろうし、安定はしてるけどなぁ。あの酔っ払いの相手をするのかぁ)


 横目で元気一杯の子供な大人を見る。原因はアルコールだけど。


 (うん。あれの相手は無理ね。返事せずに無視して、その結果殴りにかかってくる。そして、カウンターを決める、と)


 脳内デモンストレーションで、顔面や鳩尾への一撃はもちろん、男の尊厳に蹴りを入れるその様は簡単にイメージできた。そして、その後にしっかりと足を洗うところまで。


 (ガイエルくらいのは結構いる気がする。かなり腕が立つ人も混ざってるみたいだけど)


 私がくる前にレクに次いで強かったガイエルのことを思い出す。純白龍の犠牲者の1人で、不幸中の幸いとしては奥さんと死別することはなかった、これくらいか。死ぬ前には愛していたであろう子を失い、その仇を取ることすら叶わなかった。


 (きっと私よりもつらかった。いや、絶対にそうよね)


 「よう、嬢ちゃん。こんなところで何してんだ?」


 二週間は過ぎたであろうことをつい昨日のように感じ、どこかに痛みをを感じていると、左の方から声をかけられる。そっちを見ると、髪を薄く剃った厳ついおっちゃんがいた。ただ、身につけているが膨らんでいるように錯覚してしまうくらいの筋肉を持っていて、背丈は190cmはあるのではないだろうか。


 「最近この街に来たの。だから色々見てるのよ」


 「なるほどなぁ。でも、こんなところ何もないぜ。他に面白い店なんて山のようにあるだろ。多分」


 「おぉい!お前ら見ろよ!あの、ベッシュがナンパしてるぜ、ナンパ!」


 「ははは!やめとけ!ビビられて逃げられるだけだぞー!」


 冒険者ギルドに設けられた酒場スペースからヤジが飛んでくる。こっちに向けている笑顔は口元が引き攣っており、確かにこのままではビビられて逃げられる。そもそもこの人なかなかの実力者だし。


 「嬢ちゃんごめんな。ここにはああいう奴がそこらじゅうから湧いてくるんだよ。ちょっと締めてくるわ」


 そう言い残して、ふらふらと酒場の方に向かっていく。それ気づいたヤジを飛ばしていたものが、やべっ、と席を立って逃げようとする。しかし、


 「おいおい。誰も逃げることなんて許してないぜ」


 一瞬で2、3mの間合いを詰めて、その頭をがっしり掴む。


 「へ、へへ。お、親方ぁ。世の中には、あの、冗談っていう言葉がありましてですねぇ、へへ」


 顔を青くしながら、ベッシュにいう。が、


 「ふっ。冗談は言っていい相手と、ダメな相手がいるんだぜ?」


 片手で頭を握ったまま、足を一歩前に踏み込んで、身を低くし、懐に入って、拳が鳩尾に入った。


 「ぅぐぉ」


 べちゃべちゃと殴られた冒険者の口から何か出てきた。


 そして、それはベッシュの頭に降りかかる。


 「ぅ、ぐっ、お、おやか『お前、もう、喋んな』う、ごぉ」


 喋るたびに口から何か出てきて、それが付着する。若干キレ気味だったのが、完全にキレて、口から追加のものが出てくる代わりに、相手を気絶させた。ちなみに、周りはそれを面白がって笑ってる。汚いのを被ったベッシュとアホなことをした冒険者の両方にだ。


 「仲がいいようで何よりね」

 

 また別の日にお邪魔しようと考えた私は冒険者ギルドを後にした。


 

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