第28話 村の崩壊と逃走 1

 「俺たちではあいつを倒すことができない。だから、せめてもの抵抗をして、誇りを持った戦死ができるようにする、それでいいなんだな?」


 ヘルガは悔しさを見せることなく、純白龍をただ見つめながら言う。律儀なことに、こっちが話している間に相手は一切動くことなくじっとこっちを見て待っていた。きっと、ゴブリンやオーク、C,B級のモンスターをフルかに超えた知能を持っているのだろう。だから、私たちの最後の会話を邪魔するなんて野暮なことはせず、静かに待っていたのだろう。果たして本当にそこまで考えているかどうかは要審議だが。


 「ええ。そう言うことね。とりあえず、残った2人の騎士にどう言うかはヘルガの采配に任せるわ。あんたの部下でしょ?」


 「ああ、わかった。己が主人を守るための死と考えれば、きっと同じ意見になるだろう」


 「そう。それじゃあ、あいつを長い間待たせっちゃたしね。いくわよ」


 身体強化とスキルをフルで使用していく。


「グギャォォォォ!」


 鼓膜を突き破るような大声量で吠える。


 (確かに私たちに勝ち目はない。でも、何もせずに死んでも、もっとダサいだけ。いろんなものを守れなかったことに加えて、何もできずに死亡なんて最早生きる価値を見出せるとは思えない。絶対に、傷の一つでもつけてやる)


 「っぐ、あっぶないなぁ」


 間一髪のところで魔力のブレスを避ける。何回かこの攻撃を見てきたので、このブレスを撃つまでにどれくらい時間がかかるのかはおよその検討はついている。私程度でも、予備動作にいち早く気づけたら避けられる。そして、ブレスを回避した後、再び空中に飛んでいき、体を一回転させる。それに合わせて私の方に尻尾で攻撃してくる。


 「いや、身軽すぎでしょ!」


 予期していなかった攻撃に反応が遅れる。


 「っやば」


 重量と速度を考えても、食らえば相当な致命傷となる。


(どうする?魔法の展開はギリギリ間に合うか。でも、耐えられる?だめだ。考えるな。いけると信じて、やれ!)


 防御魔法でも最弱の無属性の防御魔法を展開しようとした時、


 「マルチエクスプロージョン!」


 私と純白龍の間で光と闇の魔法が衝突する。


 (あ、やばいやつだ)


 「魔壁まへき!」


 一瞬使うのをやめようと思った魔法をすぐに使う。多分、私がどうにかすると考えて放った、フェーリが使っていた相性の悪い魔法同士をぶつけることで引き起こす爆発、ものなのだろうが、せめて声の一つはかけてほしかった。


 そして、ドゴォォォンと大きな爆発音が鳴り響く。今の間に距離を取流ために、後ろにさがろうとした時、砂埃の中からスッと純白龍の顔が出てくる。あまりの動きの早さ、そして地面が多少抉れる爆発を食らった上で平然と獲物を捕食できるその強さに、動きが止まってしまう。普通なら一旦距離を取りたいところではないのだろうか。そこを突進してくるとは。


 (ちょっと甘く見てたかも。これ、生物じゃないわ)


 迫り来る純白龍を呆然と眺めていると


 「フンっ!」


 ヘルガともう1人の騎士が左右から飛んできて、純白龍の顔面に向かって剣を振る。しかし、まるでそれがわかっていたかのように、先回りして騎士の方を見ていた。ヘルガの剣が純白龍の後頭部に直撃すると同時に、開かれた大きな口が騎士を一口で、飲み込んだ。純白龍の口内から、あぁぁ!と悲鳴が聞こえてくるのと同時に、剣を食べている音か、それとも騎士を食べている音かわからないが、ゴリっ、と咀嚼音も聞こえてくる。口から赤い血を垂れ流し、時々口から何かの破片をこぼしながら、騎士を食べる純白龍から反射的に距離をとる。


 そして、食べ終わった純白龍はゆっくりこっちの方に顔を向ける。おそらく、ヘルガの方を食べることもできたはずだ。こちら側としては完全に不意を突いたはずの一撃のつもりだったので、ヘルガといえどもなす術はなかっただろう。しかし、あえて騎士を食べたのは、私たちのことを遊んでいるのだろう。そもそも、相手が始めから殺す気があったのなら、もう私たちはとっくにこの世に存在していない。わかっていたが、純白龍にとっては私たちをじわじわ追い詰めて最終的に全員を捕食する遊びであり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。改めて、それを認識すると体が小さく震え出す。自分もあいつの胃の中に取り込まれるかもしれないという恐怖心。こっちは命懸けで戦っているのに、相手は遊びにしかすぎないという、この圧倒的差に対する恐怖心。そして、今すぐにでも死んでしまう可能性があるという恐怖心。正直、私たちは生きていながらも、死んでいるという矛盾した状態であるといえる。


(スゥー。落ち着きなさい。最初からわかってたことよ。そう。私たちは死ぬ。わかってたこと。今、私が生きているのは、自分がカッコよく死ぬため)


 体の震えはおさまらないが、それでも、剣の柄をギュッと握りしめる。


 「俺が先に切りかかる。隙を見て、攻撃しろ」


 静かに、低い声で言う。


 「わかった」


 ダッとヘルガが純白龍目掛けて身体強化を使わずに走る。


 「亡者の黒手ブラックハンド・オブ・デッド


 騎士の詠唱とともに、地面から黒い手のようなものが生えてきて、純白龍の足や尻尾に巻き付く。しかし、純白龍が少し暴れるだけで消えてしまう。しかし、少しの間でも意識がヘルガ以外に向いたため、簡単に距離を詰めることができた。しかも、今は地上にいるので直接攻撃をしやすい状況だ。純白龍は瞬時に今までよりも火力の低く、攻撃範囲の広いブレスをヘルガに向けてはなつ。予備動作も少なかったが、経験から予測したのかは知らないが、身体強化を使って、攻撃を受ける前に、攻撃を受ける範囲外のところに移動する。


 (なるほど。相手も賢いから、ちゃんと時間が経った後にどのあたりにいるかの予測がおおよそできるわけだ。だから、あえて身体強化を使わずに、ブレス攻撃が来ると考えて、それを避けれるようにしたわけか)


 私よりもはるかに場数を踏んでるのがこういったことからもわかる。まだまだ未熟だたわけだ。


 そして、純白龍がヘルガの方に注意を向けて、なぜか最初からマークされていた私の方から意識を外す。


(今ね)


 身体強化を使って、純白龍の方に向かう。すると、


「発光源!」


 騎士が光の玉を純白龍のヘルガを追う視線の先に生成する。


「グギャオオ!」


 よほど目が痛かったのか、大きく吠える。完璧な隙ができた、そう思い一気に距離を詰めて、自慢の鱗に傷を入れようとした直前だった。再び純白龍の口に魔力が集中するの感じる。


「リンカ!気にするな!チャンスは今しかない!」


 ヘルガが叫ぶ。そして、


 「グガァァァ!」


 「いけぇ!」


 純白龍がブレスを放つのと同じタイミングで、剣をふるう。そして、


 「あああああ!」


と騎士の悲鳴が上がる中、パッキ、と私の剣が折れる音が耳に入る。私の攻撃した場所を見ると、わずかに浅い傷ができていた。


(よしっ!私の剣、よくやった!)


 そう多少の満足感を感じていると、その私がつけた浅い傷が、勝手に治っていった。


 「え?」


 予想をしていなかった事態に驚愕していると、ブンッ、と風を裂く音が真横から聞こえてくる。その正体を見ようと、顔を横にする前に体の左から、強烈な衝撃が私を襲った。


 「あ、っぐ」


 私の体が空を舞い、わずかにこちらを見るヘルガが確認できた。だけど、そんなことを意識できないくらいに


 (痛い。痛い、痛い痛い痛い!っぐぅ)


 視界が滲んで今は周りがよく見えない。これほどの痛みは初めてだった。体の左半分は一切感覚がないように思えるぐらいに痛い。もし、このまま体が空を飛び、地面に着いた暁には、血が散らばるのはもちろん、体から骨が剥き出しになったりするのだろうか。


 (はは。こんな状態でもそんなの考えられるって、笑える。まぁ、ずっと地球にいたらわからないことが体験できたんだし、いい人生だったよね)


 もう痛みは一周回って何も感じなくなった。というよりも、死を目前にして色々と諦めたから感覚がなくなったのかもしれない。今となってはどっちでも変わらないけど。


 (あぁ、どんどん世界が遠くなっていく。もう、視界が滲んでよく見えないし、全身に力が入らないや。あぁ、終わった)


 私の力のはいらなくなって勝手に閉じていく瞼のせいでもう何も見えない。


 「さようなら」


 最後になんかどっかから声が聞こえてきたような気がする。それと少し私の周りで魔力の流れを感じた。だから、なんだって話だけどね、、、、














 「間に合ってよかったですよ。リンカさん」


 

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