成長痛と副作用
鐸木
成長痛と副作用
青々しい夏は何処かへ去ってしまった様で、未だ初秋な筈なのに、道草には冬の手垢がついていた。秋が一番好きな季節だったのに、傲慢な冬に奪われ、私は少し不服な心持ちで白く染まる学校への往路を歩いていた。手の指先が悴むので、はぁっ、と息を吐いて両手を擦り合わせた。瞬間、蕩ける様な暖かさが指を包んだが、直ぐに冷えてしまった。ふと、正面を見上げた。素寒貧になってしまった枯れ木は、去年豪勢に咲き乱れていたあの桜の木とは、似ても似つかない程憐れに縮こまっている。老人の腰の様に曲がった幹を、敷地内を囲うフェンスに括り付け、やっとの思いでそこに立っていた。連なる枯れ木は寂れた学校の校舎とよく似合っていて、ずっと前から、地球が生まれる前から、そっくりそのままそこにあったかの様な感じがした。その風景に安っぽい感傷に誘われて、すぐに目を逸らす。
今日で卒業
忌々しい一言が脳にぐるぐると巡る。先生も友達も母も皆んな口々にそう言う。まるで私の次のスタートを期待する様に。私は不安で堪らないのに。北風が不安を煽る様に強く吹き去った。どんどん生徒が学校に吸い込まれてく。皆、一様に不安とも希望ともつかない顔で歩いている。
成長痛なのだろう。乗り越えない未来は無い。どうせなら笑ってしまおう。私は一歩、また一歩と歩みを進めた。
成長痛と副作用 鐸木 @mimizukukawaii
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