ep.17 真価!!

 「ハァ…ハァ…

このままじゃヤバイ

ウチ、殺される!!」

エミは、ひたすらに廊下を走る。


「うわぁ!!」

前から走ってきた藍と体がぶつかった。

「どこ見て走ってんだよ!!」

「ぶつかってきたのはアンタでしょ!

私は急いでるの、どいて!」

藍は、走り去っていった。

「なんなんだよ…

んなことより、ウチも急がなきゃ!!」


「舞…舞ッ!!」

藍は、騒ぎを聞きつけて屋上へと急ぐ。

「待ちなさい!」

その先に、鳴が立っていた。

「或葉さん!

そこをどいて!舞を探してるの!」

「この先の屋上は危険よ!行かせないわ!

それにあの生徒、大野井舞はクリーチャーなんたらとかいう銃で人を沢山殺した上に、施設から逃げてきた危険な生徒よ

そんな奴に簡単には会わせない!」

「お願い!そこを通して!」

「駄目よ!生徒会長として、生徒を危険に晒すわけにはいかないわ!」

「ならば、力ずくでも!」

藍は下着を繋いでロープ状にしたものを取り出し、それで鳴の首を締め、床に倒れさせた。

「うぐっ!!」

「待ってて、今行くから!」



 「がああああああああああああああああッッッッ!!!!」

叫び声を上げる藜崋。

するとコブラが彼女の皮膚に潜り込み、そこから彼女の身体が変型していった。

腕が肥大化し、掌が銃口のように変わる。

口からは牙が伸び、下半身はさながら蛇のようになり、体色の一部が青紫色に変わった。


「なっ…

なんじゃありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

皐は驚く。


「とうとう、銃の真価を発現させた者が現れたようだな」

黒コートの女が言う。

「お、お前…」

壱が彼女を睨む。

「宿主との融合係数が一定値を超え、ついに宿主と完全に同化することができたということだ!

こうなると、いくら貴様でも、銃と宿主の分離は不可能だ!!」


「マジかよ!?

壱、試しにやってみろよ!あのシャボン玉のやつ!」

皐が壱に言う。

「最初ッからアイツを救うことなど考えてない

アイツは何人もの人間の命を…

そして心を奪った、人間のカタチをしたバケモンだ

あんな姿、アイツにはお似合いだろう!」


「グヘヘヘへへ、コロス、オトメガハラ!!」

彼女は、もはや理性を失いかけている。

「倒してやる!それだけだ!」

壱は、幻影を見せて攻撃しようとする。

「グオオォ、ガアア!!」

だが、壱は蛇のような下半身で弾かれてしまった。

「ぐああぁ!!

…くそ…幻影が効かない!!」


「グラァァァ!!ガァァァォ!!」

コブラと融合した藜崋は、凄まじいスピードで動き回りながら、手から攻撃を次々と放つ。

「速すぎる!流石のミーでも追いつけないよ!」


「フハハハ!

予定より早くなるが、手間が省ける!

ここで先ずはクリーチャーガンハンター二人を始末というわけだ!!」

黒コートの女が笑いながら言う。


二人は苦戦している。

さらにそこに。


「グハハハハ!!

ぶっ潰してやる!!」

舞が割り込んできた。


「アイツ、見覚えがあるが…

何故ここに…?

どういうことだ!?」

彼女を見て黒コートの女は驚く。


「あの子は…

百瀬先生が言ってた逃げ出した生徒って、舞のこと!?」

と、奈緒。


「大変なときだってのに、今度は何だよ!?」

皐も困惑する。

「アイツは、前にも私が戦った事がある相手だ

今持ってる銃に、以前手にした銃の能力が付加されてる、強敵だぞ!」

「ンなこと言われたって!!」


「オラァ!!」

舞は爆弾蟻型の弾を蜘蛛の巣のように広げて放った。

「防げ!!」

壱は皐に命令した。

「お、おう!!」

皐は、イーグルの羽根を体の前に動かし、風のバリアーを生み出して攻撃を防いだ。


「何だ、あの攻撃は!?」

と、黒コートの女が驚く。


「とにかく、あの蟻酸に当たるな!当たったらお終いだぞ!」

「とりあえずヤバイやつだってのは分かったぞ

だがな…」

「こういう状況になるほど、燃えるんじゃなかったのか?」

「…だああ!

わかったよ!やればいいんだろ!?」


「ジャマァ、ズンナアァァァァ!!!」

舞も含めた一同に、藜崋が襲いかかる。

「何だこの化け物は!?気持ちわりぃ!!」

舞は、藜崋に攻撃を浴びせた。

その攻撃によって彼女の肉体の一部が溶解した。

だが。


「グヘヘヘヘヘヘ…」

失った肉体の一部を再生した。

「なッ…!?」

舞は困惑した。


「銃と完全に融合したせいで、あんなことが…」

と、皐。

「グヘアァァァァァ…」

藜崋は口と両手を前に出し、力をそこに溜める。


「舞!避けろ!!」

壱は叫んだ。

舞は藜崋の前に立ったまま動かない。


藜崋は、淀んだ紫色の毒液を光線のように放った。


「私の妹に手を出さないで!!」

そこに何者かが飛び出し、舞に飛びついたまま転がり、舞を守るように体を差し出した。

それによって、藜崋の攻撃は不発になった。


「離せよお姉ぇ!

あの化け物はアタシ一人で十分だ!」

「もうダメよ!

これ以上、他者の命を奪うなんていう罪を重ねるなんて!

何より、アンタを死なせるわけにはいかないのよ!!」

「嫌だ!アイツをぶっ潰す!

どうせアタシに居場所はもうねぇんだ!

だからみんなぶっ潰すまで、アタシは止まらねぇ!!」


「もう、いいだろお前」

二人の元に、壱は歩み寄りながら言う。


「お前も辛かっただろうな、散々利用されまくって」

「なっ、何なのアンタは?」

藍が聞くと、壱は返した。

「この子を救う者だ、覚えておくといい

さて、もう一度やり合うか!」


「ンなこと言ってる場合かよ!

コイツの始末が先だろ!」

皐は藜崋の猛攻に苦しめられる。

「それもそうだが、この子のことが…

よし、頼むぞバク!」

壱は、バクを舞へ向ける。

そして、壱は、以前真山好美に対してそうしたように、舞の心理空間に入り込んだ。


舞の心の中では、彼女は無言でしゃがんでいた。

その目から、涙が零れそうになっていた。

「お姉ぇ…

こんなアタシを、あんなにも大事に思ってくれてたなんて

あんなにも、必死にアタシを守ろうとしてくれてるなんて…

アタシ…どうお礼すればいいかわかんねぇよ…」

「お前だって、本当は姉の命なんて奪いたくないし、これ以上誰も殺したくないんだろ?」

壱が話しかけた。

「なんでお前が、アタシに構う…?」

「私とてお前に深入りするつもりはない

ただ、お前が本当にやりたい通りにするべき…

そう伝えるためだけに来たんだ」

「アタシが…本当にやりたいこと…」


「ぐるるる…」

現実世界での舞は、必死に歯を食いしばり、クリーチャーガンの意識の支配に抗おうとする。


「どういうこと?あれ?」

と、奈緒。

「おそらく、壱が彼女の心を開いたんだ!」

皐はこう答えた。


バクの主な能力は、相手の脳を刺激することで、幻を見せたり対象の姿を別のものに見せる他、シャボン玉を射出し、対象を包むことでクリーチャーガンの力を弱め、宿主から分離させることが可能、というものだが、他にも重要な能力がある。

それは、クリーチャーガンに操られた人物の心理空間に入り込むという能力だ。

これによって、語りかけた相手を一種の催眠状態にし、相手の純粋な心を呼び覚ますことができるのだ。


藜崋の放った攻撃が、藍に当たりそうになった。

その攻撃を、舞が防いだ。

「お姉ぇに手を出す奴は、アタシがぶっ潰す!!」

こう言いながら舞は攻撃を続けるが、ことごとく避けられた。


「ゴロズ、ヴォトメガバラ!!」

藜崋は、再度標的を奈緒に定め、さっきのような攻撃を浴びせようとする。


「やぁっ!!」

そこに藍が近づき、ロープ状に繋げた下着で藜崋の体を縛った。

「ヴゥゥゥゥ!!」

「みんな!今のうちにこいつを!!」


「よしわかった!

壱!一緒に行くぞ!」

「待て!皐!

あれを見ろ!!」

壱は、舞が藜崋に突進していっているのを見た。


「お姉ぇ!!離れろ!!

さもないと死ぬぞ!!」

「舞!!

どうするつもりなの!?」

「いいから早く離れろ!!」


「アイツ…あの野郎を道連れに自爆する気か!?」

と、皐。

「止めるな!

アイツなりの、償いだ」

壱が、皐を制止して言う。


「グアッ!?

テ、テメェェェェ…!!!!」

舞は藜崋に抱きつき、エクスプロージングアントを起点に高熱を発生させる。

藜崋はせめて周りの人物を道連れにしようと、分身のコブラを放った。


「アイツ…

最後の最後まで卑劣な真似を…」

と、奈緒が言う。


「やらせねェよォォォッ!!」

皐がスケボーで高速移動しながら、コブラを全て撃ち落とした。

「壱!

ユーは被害を最低限に抑えろ!!」

「わかった!」

壱は、舞と藜崋をシャボン玉のバリアで包んだ。


「ハァァァァァァァァ!!!!」

舞の放熱が最大限に達し、さながら『ジバクアリ』の異名を持つ爆弾蟻の如く、蟻酸を撒き散らしながら藜崋と共に爆散した。

「グヘアアアアアアアアアッッッ!!!!」


「危ない!!」

奈緒が、藍を抱きかかえ、爆発から遠ざけた。

「舞ーーーーーっ!!!!」

シャボン玉のバリアによって、周りへの被害は抑えられた。


「お姉ぇ…

ありがとう…」


「もう訳が分からん、引くか」

こう呟きながら黒コートの女は退散した。


「やったのか?」

壱が、爆発の跡を確認する。

そこには、肉体がボロボロになりながらも、かろうじて生きていた藜崋がいた。

どちらにしろ命が尽きる寸前の状態だ。

もはや言葉も発することができない彼女だが、殺してくれと懇願しているようにも感じられた。


「どうするんだ、壱」

皐がこう訊く。

壱は無言で藜崋にバクを向けるが、引き金を引けずにいる。

「いくら非道で最低な存在だとしても、結局は人間だ

私には、殺すことはできない

ましてや、こんな虫の息な状態では…」


その時、壱の頭部が桃色に光った。

「!?」

皐は驚愕する。


一瞬意識を失って俯くと、バクの銃口を藜崋に向け、再度頭を上げた。

「藜崋ちゃん

死んでよ」

壱はこう言い、バクで藜崋の頭を撃ち抜いた。


「…はっ!!」

壱が意識を取り戻すと、彼女の目に藜崋が骨も残さず蒸散する様子が見えた。

「こ、これは…

私がやったのか!?」


「いや、よくわからんが…

どうやら、圭の怨念が、ユーに憑依したように思えた」

皐が答える。

「憑依だって?

そんなオカルトチックな話、誰が信じるってんだ?

私は疲れたから帰る、そして寝る」


「あなた、名前は?」

「3年の大野井藍、舞の姉よ

舞はどうなったの?」

藍は奈緒の話に答え、立ち上がると周りを見渡して言った。

「それは…」

「まさか、死んだって言うんじゃないわよね?」

「でも…」

「あなたがなんて言おうと、私は信じないから!」

藍は周りを必死に見渡し、舞がいないか探す。


「…舞!

生きてたのね!?」

藍の目の前に、確かに彼女の姿が映った。

「お姉ぇ…

こんな不甲斐ない妹で、ごめんよ」

「いや、悪かったのは私の方よ!

じゃ、一緒に帰りましょ」

藍は、彼女と共に去っていく。


奈緒の目には、藍以外に誰も見えていなかった。

「また、壱の仕業ね?」


「今日も屋上からスゴイ音してたけど、クリハンのみんなかな?」

グラウンドで陸上部の活動をしている侑が言った。

「絶対そうっすよ

今日も頑張ってるっすよね」

同じく陸上部の絢瀬は、こう返した。


「そこの二人!ボケっとしてない!」

上級生の部員に注意された。

「「はいっ!!」」

他の部員たちが、そんな二人を見て笑った。



 「そろそろ、摂取時期ね」

茜が、抗体の入った箱を持ってクリーチャーガンハンター拠点の教室に入った。


そこに。

「それ、頂戴」

エミが強く扉を開け、入ってきた。

「あなた、何?」

「その注射使ったら、あの銃みたいなやつ持っても大丈夫なんだよね!?」

「何でそんなことを?」

「生徒会のお嬢様みたいな人から聞いたんだよ」

「そう、あの人が…

でも、これはクリーチャーガンハンターの分だから

あなたみたいな関係のない人には渡せないの!」

「いいから早く!」

エミは箱に入った数本のうち一本の注射器を手に取った。

「あぁ!勝手に!」

「よし、これで操られる心配はないね

待ってろ、黒い女!!」

「返してよ!」

「やーだね!」

エミは茜の体を押しのけ、逃げていった。


「岸間さん?

なんであんな事を…?

しかし困ったな、貴重な一本が取られちゃった」

こう呟く茜のもとに、何者かが現れた。


「お前がそうか

瑪瑙ヶ崎めのうがさき女子大学の米田 あおいの妹、米田茜。」

現れたのは、黒いコートの女だった。

「今度は何!?」

「お前と会うのは初めてか

この姿ではな」

「あなたは、一体…」



 「ねぇ陽奈、どーすんの?

アンタの大事な実験体、やられちゃったみたいだけど?」

樹里が、陽奈に訊く。

「あれだけの成果が得られれば、もう十分さ

彼女もよく頑張ってくれた、感動モノさ!」

「フフ、威勢のいいこと

ま、頑張ることね」

こう言って樹里は去っていった。

「どんどん楽しみになってくなァ…

ボクの最強部隊で、ヤツらを葬るのが…」



 その日の夜、学生寮の繭の部屋に、壱、奈緒、繭、ゆかりの四人は集まっていた。

「じーだん"〜ぎい"でよ"ぉ〜」

繭はゆかりに泣きついている。

「あたし、試験で赤点取っちゃって〜先生に怒られちゃったんだよぉ〜〜〜!!!

折角頑張ったのに、何でかわかんないけど直前になって頭の中が何もかも吹っ飛んじゃってさぁ…

どゔじでな"の"ぉ"〜〜〜!!!」

「まあまあいおたん、落ち着いて、元気出して

また今度頑張ればいいからさ」

ゆかりは必死に慰める。


「しかし、にわかには信じ難いわ

壱が、テストで高得点だなんて」

奈緒が言う。

「ま、私だってやる時はやるってことだ」

と、得意げになって言う壱。

「直前まで全然やる気ない感じだったのに…

もしかして、カンニングでもしたんじゃないでしょうね!?」

「そんなことするか!ちゃんと私の実力だ!」

奈緒の言葉に反論する壱。


「ますます怪しいわ

聞けばアンタ、不思議な力を持つ変な銃を持ってるらしいじゃない

その力で、なんか卑怯な真似をしたんでしょ?」

繭も、壱を疑って言う。

「だからちゃんと私の力で解いた

答えが勝手に、頭の中に浮かんだんだ!」

「訳のわからないことを!!」


「それよりもさ、月岡ちゃんのそのパーカー、かわいいよねぇ〜」

ゆかりが突拍子もないことを言った。

「しーたん、こんな時に何言ってんのよ…」

繭が呆れる。


「これか?

何故かずっと、家のクローゼットの中にあるヤツだ

別に大したことはないんだがな」

「しかし壱のそのパーカー、変わったデザインよね

右の袖に半分こしたハートみたいなマークがあるなんて、何かペアみたいなものを想定してるようなデザインじゃない?」

奈緒が、彼女の着ているパーカーを指差して言う。

「ペアだって?

バカみたいな話だな

私のこのサイズ、お前に合うはずないだろ」

「べッ別に私が着るなんて言ってないでしょ!?

…まァ、ちょっとだけ着てみたい気もするけど」

「やめろッ着れなくなるわ!」

こうして、いつも通り口論を始める二人。


「フハハ、バカバカしいわ

もう、何もかもどうでもよくなったわ」

その様子を見た繭が言った。

「やっぱりいおたんはこうじゃなくっちゃ」

ゆかりは柔らかい表情で言う。

「だからいおたんはやめて!あの二人がいるんだから!!」


この時、寮の近くに、謎の少女がいた。

「あの子を退学にさせるわけにはいかない

あの子を危険に晒さないために…」

少女はこう言うと、立ち去って行った。

彼女は、ピンクのパーカーを羽織っていた。

左の袖が引き千切られており、露出した左腕に包帯が巻かれていた。


彼女のパーカーは、壱が着ているものと特徴がほぼ一致していた。



To be continued…

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