君に手向けるぼくらの

浪来 ソウ

1 あの日のこと

「中学一緒だった錦木蓮人、覚えてる?


あいつ、バイクで事故って亡くなったって」



やんちゃ、陽キャ、一軍男子。それが、当時の錦木蓮人に対する印象である。

いつでも人に囲まれていて、いたずら好きでちょっと意地悪。思春期特有のそれは一部の女子には不評だったようだが、彼の周囲の人間の多くは、時折彼の見せる可愛らしい笑顔に惹かれていたように思う。ちょっとしたやんちゃもやらかしも、その笑顔が見られるならまあいいか、と。

彼の交友関係は広かった。が、彼と僕の関係というのはあまりにも浅く短く、一緒に過ごした時間といえば中学一年生の一年間ぐらい。同じクラスの友達。そんな距離感だった。


「壮馬ー、各クラスで代表決めるんだって。委員長みたいな役職でもないし、ちょっと仕事増えるだけだってさ。ジャン負けで決めよ」

一年の一学期、知り合いがほとんどいない状況での委員会決め。最も図書委員とは縁遠そうなチャラい男子は、慣れない一年の教室にて突然僕を呼び捨てにしてきた。はい、としか言えず、言われるがままにジャンケン。

「よっしゃ、勝ちー。じゃ壮馬が仕事全部やるってことで、よろしく」

「聞いてないよそんなこと!」

「はは、壮馬おもしれーね。もしかして本気でやりたくない?」

別にいいけど、と言いかけたところ、もう一人図書委員希望者と思われる女子が遅れてやってきた。

「ごめん、私友達いなくて、顔とか全然わからなくて。錦木君と鈴木君?図書委員希望だよね?」

「そうそう。んー…。あっ、あんた新井でしょ?代表、各クラスで出席番号いちばん若いやつがやるらしいよ。」

息をするように嘘をついたチャラい男、もとい錦木は、僕ににやりと目で笑いかけて、これから一年間よろしくー、と間延びした声で言った。

僕と彼が初めて言葉を交わした日であった。


錦木蓮人は間違いなく人たらしだ。僕の奥深くにあるなにかが、出会って数分の彼の輝きによって柔らかく照らし出されたのを感じた。世界が広がる、とはこういうことをいうのだろう。というか、なによりここまでさらりと嘘をつく人間を見たことがなかった。衝撃だったのだ。しかし、彼の嘘は一種の遊びのようなもので、決してジャンケンに負けた僕を可哀そうに思ったわけではないんだろうな、と思った。それは後になって彼との関わりを通して勘づいた。無邪気でいたずら好き、なんだか憎めない。そういう人間だった。



高校2年生の夏。中学を卒業してから音沙汰のなかったグループチャットは、誰も望まない形で再開されてしまった。突然の知らせに忙しなく動き始めた会話を眺める。

目が文字をなぞっていく感覚がわかる。

今日はなんだか、妙に目がごろついている。

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