小屋

猫又大統領

小屋

 目が覚めた。朝を迎える前に起きてしまったらしい。

 瞼をこする手さえ掛布団から出すのが億劫だ。最近は、急に来る睡魔に抗うこともなくベットへ倒れこみ、そのまま朝を迎える。

 もうすぐやって来る、厳しい冬に間に合わせるための薪集めが原因らしい。

 村の人たちもこの時期はみんなそんなもんさ、と口々にいっていた。去年もそうだったのか思い出せない。

 頭は少しぼんやりしているのに目を閉じても、一向に眠気がやってくる気配はない。

 ベッドで横になりながら、建付けが悪いために少し開いたドアから、差し込む唯一の灯りを見る。

 この温もりのある光の正体はきっと母が温まっている暖炉のものだろう。その穏やかな光が照らす床の木目を、ゆっくりと目でなぞる。

 行商を営む母は、真夜中まで準備に費やし、早朝に家を出る。冬になれば商売などできないからだ。

 あの生命あふれる夏山でさえ、冬になればその寒さの前に、平伏すのだから。

 天候の読みを間違えれば……。

 お母さん、とかすれた声でつぶやいた。

 理由もなく咄嗟にでたその言葉を両手で口を思わず塞ぐ。

 こんなことが村の同級生達や下級生でも知られたら、また笑いものにされる。

 僕は年齢の近い村の連中からはマザコンだと思われているからただごとではない。証拠を与えてなるものか。

 冬の山なんかに動じないこの村一番の男になるんだから。

 だが、僕の木目をなぞる目は硬直し、背中にじっとりとした脂汗がにじむ。

 この部屋の床には、盗賊が来たという設定で一人、斧を振り回し空想の賊を退治しているときにできた、ひときわ目立つ大きめの傷がなかった。

 このベットの硬さも、窓の位置も、ドアの色つやも何もかも知らない。

 恐怖心から神経ひとつひとつ覚めるごとに、違いが知れる。恐怖が増えていく。

 僕は頭から布団をすっぽりと被り、考えた。

 ここが自宅ではないこと以外わからない。兎に角この家から飛び出してから深く考えようと決めた。

 いつもは、人知れず斧で空想の悪党たちを山ほど葬ってきた。

 だから素手でも倒せると自信を無理にみなぎらせ、布団の中で小さくパンチを繰り出す。

 僅かに見えるドアの隙間から灯りのほうを伺うために、布団をゆっくりとめくり小さいのぞき穴を作る。

 そこには、差し込む灯りがなかった。

 ドアの前に何かが立って、光を遮っている。はっきりとは陰になり見えない。

 いつからいたのだろう。

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小屋 猫又大統領 @arigatou

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