好きなもの、書きたいこと、伝えたいこと

御愛

選べる立場に僕は居る、はずだった


 好きなものを三つ言うとしたら、梨と明太子と散歩。


 書きたいことを三つ挙げるとしたら、愛と孤独と平等。


 伝えたい事を三つ挙げるとしたら、人が幸福になれる言葉と、人と共にある事の素晴らしさと、空想する事の楽しさだ。


 でも、僕は今まで、ほとんどそんな想いを綴っていないし、言葉にしていないし、他人に伝えようとしていない。


 僕は何をしていたのだろうか。


 初めはただ、ふと思いついた物語があって、言葉があって、それをなんとか形にしたくて、書き始めたらその楽しさを理解してしまって、というような風だった。


 それがいつしか、自分が書いたものを人に評価されたくなって、人に評価される作品を読んで、それを真似て自分でも作ってみて、でも結局長くは続かなくて、そんなサイクルに放り込まれていた。


 だんだん自己嫌悪になって、長く筆を取っていなかった。


 楽しいという思いだけで書いてもいいだろう、と心の中では呟いている。自分が思いついた好きな事を書いて、作品にしても良いだろと。


 でもいざそれを他人に見せて、さぁどうだと言葉をもらう時、それが批判の言葉であったらと思うと、怖くて身動きが取れなかった。


 ただ物語を書き留めて、ストックを続けているだけでは、自己満足にもならなくて、鬱屈した思いが溜まるだけだった。


 書きたいものを書きたいように書いて評価される。


 自分がそんな特殊な人間であるという実感などは、当然のように無かった。


 他人と比べても、パッとしない。努力すら出来ていない。理由を並べて、殻に引きこもっているだけの凡才だった。


 でも凡才なりに、書きたいこともあった。


 だから、人に見せずに書き溜めたのだが、後で見返した自分が吐き気を催すものばかりだった。


 下らないという言葉をあと何千と並べても足りないくらいの産業廃棄物達が目の前にズラリ。もしもこんな文章が評価されていたら、首を吊っていたと思われるようなものばかりだった。


 そんなものを量産していた自分が、ただただ信じられなかった。



 普通の物語だったら、こんな前置きから、前を向いた言葉に繋げたと思うが、生憎これはフィクションではない。


 フィクションであったらどれだけ楽であった事だろうか。


 自分はまだ迷っていて、承認欲求と羞恥心の板挟みにあっていて、そんな自分を情けなく思っていて、目の前にあるものすら見えずにいて、絶望している。


 スマートフォンに涙が反射する。自分の落とした影に、画面の光が存在感を放っていた。その中に自分の情けない顔が映ると、次の文字を打ち出すのを辞め


 

 

 

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