第15話15歳編②

 カルマン達は滞在している宿屋を飛び出し、宿屋のすぐ近くにある広場でカルマンとジュリアが向かい合う。そして、2人の間に入るかのように、ヨハンが立つ。

「勝負は1時間以内に相手がギブアップを宣言する、もしくは相手が武器を落とした時点で、勝敗を決める!!!異論はないな?」

「えぇよ!!!」

「構わねぇぜ!!!」

 ヨハンの言葉に、2人はそれぞれ大剣を杖を構える。ヨハンが自身の杖を地面に激しく突き立てると、カルマンはジュリアに飛び掛かり、ジュリアはまるでカルマンの太刀筋を見切ったかのようにかわす。


「カンッ!!!」

「カキンッ!!!!!」

 カルマンの方も、ジュリアの放つ強力な攻撃魔法や速度低下魔法を的確に回避する。その様子に、ヨハンは集まってきた野次馬と共に思わず息を呑む。


「見なくてもいいのか?」

「えぇ、勝負は見えてるもの。」

 しかし、セレーネは何を思ったのか、広場を離れ、宿屋に戻ろうとする。元々セレーネはジュリアの事を快く思っておらず、正直なところ、「彼女がいなくなれば勇者様は自分の事をちゃんと見てくれるだろう」と考えている。カルマンの本音を見ずに、自分の思い込みに過信しすぎているのだろう。


『この勝負、きっと勇者様が勝ちます!!!だから、私が見るまでもないわね…』


 そう思いながら、宿屋の途中にある露店で魔法具の類を眺めはじめた。しかし…


「ボコッ…」


 セレーネの背後を横切る魔導師の青年が持っている葉巻の灰が、セレーネの足元に落ち、セレーネの足元からセレーネの姿を模した黒いスイーツのまがい物・カオスジャンクが現れ、広場の方へと飛び出してしまったのだった。だが、セレーネ本人は魔法具を見る事に集中しており、自らの影が混沌のまがい物を生み出してしまった事に気づいていない。


「危ないっ!!!!!」


 混沌のまがい物の存在に気づいた、広場の野次馬達が叫んだ刹那、カルマンの背後からカオスジャンクは、勝負の真っ最中のジュリアをいとも簡単に掴み、持ち上げてしまった…

「な、何なん?この怪物は…」

 身体の自由を奪われたジュリアは、辛うじて自由となっている足をばたつかせるが、その拍子に持っていた杖を落としてしまう。


「カラン…」


 大事な勝負の真っ最中に入ってきた邪魔者に、カルマンが黙っているワケもなかった。彼の脳裏には、3年前に未来の世界で出会った女勇者が浮かぶ…


『3年前の俺は、彼女が水あめのカオスイーツに捕まった時…黙ってみているしかできなかった…けど、

 は違う!!!』


 1人の少年勇者が両目を見開いた刹那、カルマンの全身は黄金のオーラをまとい、助走をつけてカオスジャンクに飛び掛かる。


「ジュリアから離れやがれ!!!!!」


 カルマンが大剣を大きく振り上げると、大剣は大きな炎をまとい、光の速さで巨大な混沌のまがい物に斬りかかった。斬りつけられたカオスジャンクは瞬く間に魔法少女の拘束を解いてしまい、魔法少女は黄金のオーラをまとった幼馴染の腕に着地する。

「アデュー!!!」

 勇者がそう言いながら大剣を振り下ろすと、カオスジャンクは光の粒子となり、広場から消え去ってしまった。混沌のまがい物が消えると、カルマンをまとっていた黄金のオーラは一瞬にして消え去る。

「開始10分で杖を落としてもうたから、ウチの負けやな…」

 がっかりしたような表情でそう告げるジュリアに対し、カルマンは黙って首を横に振る。


「俺は勇者モンブランから、スイーツを作る事と剣技、そして人間界の事しか教えられてもらってねぇ…だから、俺には想いを寄せている相手なんかいねぇ。それに、あの巫女に関してはただの足手まとい!ヨハンのいとこじゃなかったら、真っ先にパーティーから追い出してたよ。」


 ジュリアを見つめながら淡々と話すカルマンに、ジュリアは大きく目を見開き、呆然とする。

「偶然巫女そっくりのカオスジャンクが出現したとはいえ、あんなの勝ったとは言わねぇ…俺の反則負け!!!そうだろ?ヨハン…」

「あ、あぁ…確かにあれは確かに、反則…行為だ。」

 幼馴染の勇者の突然の敗北宣言に、僧侶の少年は彼に同意するしかできなかった。

「今夜の船で、俺達はパンヌークに向かう…だから、次に会う時は賢者として会いに来いよ?」

 そう言いながら自分に背中を向けるカルマンに、ジュリアは今にでも泣きそうな表情を浮かべつつ、ぎゅっと杖を握りしめる。


「言われなくても、賢者として会いに行ったるわ!!!…アホ!!!!!」


 カルマン達が広場を去った刹那、ジュリアは両目から大粒の涙をこぼしながら、2つでまとめていた三つ編みを解く。解けた三つ編みからは、カルマンと同じ炎のような赤い髪が現れ、そよ風になびく。


「「賢者」は元々、「勇者」やった…そんな勇者はのちに賢者となり、双子の兄弟が生まれた。1人は勇者となり、もう1人は賢者…そして、その勇者と結婚した者、賢者と結婚した者は姉妹…それがウチの母様とカルマンの母様まで続いた…」


 カルマンの母・ペネロペと、ジュリアの母・ナタリアは、シュガトピア国王ベルナルド3世と前妻のリサとの間に生まれた双子の姉妹で、カルマンとジュリアはいとこ同士なのである。そして、カルマンの祖父で、勇者モンブランの夫であるロジャーの妹は、ジュリアの祖父と結婚している。


 早い話、勇者と賢者は「配偶者同士が兄弟姉妹」という不思議なつながりが続いているのであった。シュガトピア王国では、宗教上の理由から4親等内での婚姻は禁止されており、カルマンとジュリアが仮にお互いの事を異性として想っていても、決して結ばれてはならない間柄なのである。


「憎いわ…自分の血筋が…想っている相手と結ばれへんなんて…」

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