遠ざかっていく距離と心
「お嬢様、具合はいかがですか?」
リアン様は実家であるクラーク家の自室で久しぶりに休んでいた。後宮から出てきて、ウィルバート様とも会えない。
もちろんわたしもセオドア様とは会えない。でもこれで、気持ちに整理がつけられる。変な感情を持たずにすむわ。
「だいぶ良いわ。アナベル、そんなに付き添わなくていいのよ。久しぶりに帰ってきたのだから、あなたも好きなように過ごす時間を持ちなさいな」
だいぶ良いと言う割に、ずっとお食事が喉を通ってないです……。
なんとお父様にも怒られてしまい、クラーク家に置いて置けるかと言われ、治り次第……リアン様はどこへ行くんでしょう?
自由時間をくれたが、静かに傍にいるわたしにフッとリアン様は微笑んだ。
「私が治ったら、どこか田舎でも行きましょうか?でも着いてこなくてもいいのよ。あなたはあなたのキャリアがあるんだから!アナベルはメイド長にだってなれるわ!」
「わたしはお嬢様とずっといます!」
「私は王都にもこの家にも居られないのよ。それが不幸でもないわ。私は大丈夫よ。田舎にでも引っ込んで、本を読み、魚でも釣って、畑を耕すのも悪くないわ」
ほんとにしそうです……リアン様はけっこうたくましいんですよね。前向きになろうとするお嬢様は健気というか、なんだか他の人からしたら馬鹿を見たと笑われるというか。あのまま怠惰に過ごされていても陛下はきっとなにも言わないし、それが望みだったのかもしれません。
でもそれはお嬢様を理解されてません!国がピンチだと思った時、大人しくしているわけがありません。意外とお人好しなんですよ……私の大事なお嬢様は……。
戦をどうにかしようと、一生懸命だったのに、お嬢様にとって大切な愛してる方も居場所も何も残りませんでした。
思わず涙が零れそうになる。でもわたしが泣いてもどうすることもできない。それよりもわたしがお嬢様にできることと言えばなんだろう?と考える。
部屋に花を飾ったり、お嬢様の好きなお菓子を買ってきたりとほんとにささやかなことでしかなかった。そしてお傍にいることです。
「わたしはお嬢様がどこへ行こうとついていきます。一緒に田舎暮らしも楽しいかもしれません」
ありがとうとほほ笑むリアン様は少しだけ涙ぐんでいた。
どんどん遠ざかっていく。本当にこれでセオドア様とも一生会わないだろう。
さようならと心のなかで呟いた。なんだろう。この心の痛みは?息苦しさは?……大丈夫。いつか忘れる。忘れられる。
王宮での生活は思ったより楽しかった。セオドア様のおかげだと思った。不器用で優しい騎士をわたしはいつの間にか想ってしまっていた。
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