静かな王宮

「王も王妃も不在なんて、城の中が静かになるよな」


 わたしは思わず、手に持っていたお盆を落としかけて、キャッチした。


「しょ、将軍!なぜこんなところに!?」


 後宮近くの廊下で出会う。そしてリアン様がいないことを知っていることに驚く。


「リアン様の身代わりしてんだろ?隠さなくていい。陛下が話して行った。留守を頼むとな」


 留守番役とか面白くねええええ!と体の大きいガルシア将軍がいきなり叫ぶ。


「三騎士とセオドアだけ連れてって居残りさせられるとかバツゲームだろ!」


「ガルシア将軍を信頼してのことではありませんか?わたしなどがこんなことを言うのは差し出がましいのですが……」


 わたしが困ったようにそう言うと、苦笑するガルシア将軍。口が悪いわりに実はウィルバート様をとても心配している方だ。


「わかってる。愚痴言う相手を探していただけだ。宰相と将軍くらい残しておかないとな……しかし、王妃まで連れてくとはなぁ」


「連れて行くというよりも無理やりついていったと言う方が正しいかと思います」


「間違いねぇな!」

    

 ガハハハと豪快な笑い声をあげた。


「ところで、アナベル……だったっけな?」


「いちメイドの名をよくご存知ですね」


「そりゃ……まあ……あの王妃に付き合えるメイドだからスゴイと有名だ」


 えっ!?とわたしが聞き返すが、それは置いといてくれと置いとかれる。


「エリックに聞いたが、セオドアと食事に行ったんだって?」


「え?はい。行きましたが……」


 まさかこんなところで、こんな話が始まるとは思わなかった。


「あいつが陛下以外に興味を持って他のやつを食事に誘うなんて、かなり珍しいことだ!」


「たまたま気まぐれだと思います。わたしは一度だけ誘われたきりで、それ以来何もありませんよ。仕事の関係です」


 ガルシア将軍は暇なのか、まだこの場にとどまって言う。


「そうか?セオドアを幼い頃から見てる者としては、すげー進歩だ。奇跡だ。成長だ。そう思う。いちメイドが心を動かすなんて思ってなかった」


 ギュッとお盆を握りしめる。セオドア様の心を私が動かせた?でも……。


「それでも一度きりなんです。そんな特別なものではありません。セオドア様にはもっともっとふさわしい方々がたくさんいます!……失礼します!」


 わたしは後宮へ向かって逃げるようにガルシア将軍の前から立ち去った。


 何も聞かせないでほしい。期待してしまうじゃないですか………え?期待?期待ってなんでしょう!?わたしは何も望んでませんし、望みません。


 彼の心をわたしが少しでも動かせたなら、少しはセオドア様の特別な存在になれた瞬間があったということでしょうか?


 リアン様のいない部屋で一人立ち尽くす。人気のない部屋は寂しかった。


 早くみんな帰ってきてください。なんだか、いつもと違う状況なので、余計におかしいことを考えてしまうのかもしれません。


 早く無事に元気な顔をみんな見せてください……どうか傷一つ無く帰ってきてくれますように。

 

  

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