王妃様のメイド業務はブラック!?
わたしの主な仕事は王妃であるリアン様が常に快適で安心して、お過ごししてもらうことである。
そう……それがたとえ『怠惰にゴロゴロ1日を過ごしたい』という望みであったとしても叶えて差し上げなければならない。
「クッションのカバー変えてくれたの?洗濯したから、イイ香りがするわ〜。幸せ〜」
スリスリとクッションに頬ずりするリアン様。一国の王妃様で、クッション1つで幸せになれるのはお嬢様だけじゃないでしょうか?と思いつつも、お茶の用意をする。
温度良し、カップの汚れも無し、お砂糖は使わず、そのままの香りを楽しまれる。苦みが出る前に葉から琥珀色のお茶を注いでいく。蒸らす時間にも注意する。
「アナベルの淹れてくれるお茶はいつも変わらず美味しいわ」
クッションとお茶を手に入れたお嬢様は本を開く。しばらく静かに控えていたが、室温が上がってきた。
静かにサッと動き、窓を開けて換気する。心地の良い風が入ってくる。お嬢様が本を読みつつ、ウトウトしてきた。幸せそうな寝顔は幼い時と変わらない。
こんな怠惰に過ごされてて良いのでしょうか?陛下に呆れられてしまわないでしょうか?と時々心配になってしまうものの、本人は怠惰スタイルを変えることなく、呑気なものだった。
夜、仕事を終えるとメイド達は自室へ帰る。わたしの同室のマリーに話しかけられる。
「王妃様の『怠惰に過ごしたい』目標は今日は達成できたの〜?」
マリーは赤毛でちょっとそばかすがある人懐っこい可愛い人だ。私は茶色の長い髪を少し古い鏡台の前で、丁寧にとく。
「お部屋でお過ごしになられて、何事もなく平和でしたから、怠惰の目標達成はしたのではないでしょうか?」
「あーあー、良いなぁ。あたしも貴族に生まれて、そんな生活してみたかったー」
バフッとベッドに寝転ぶマリーナ。
「でも王様はなぜ、そんなのんびり屋の王妃様がいいのかしら?一人しか娶らず、寵愛してるって話でしょ?そんなに素敵な人なの?」
「そうですねぇ。わたしにとっては世界一大切な主人ですね。陛下はリアン様のどこに惹かれたのか、わたしにはわかりませんけども……」
そんなにアナベルは王妃様が好きなの!?と驚くマリーナ。今度、王妃様付きに推薦してよ!と頼まれる。
だけどリアン様は心を許したメイドでなければ基本的には傍に置かない。しかしマリーなら裏表の無い人で嘘もつけないし、悪い人ではないのは確かだから推薦しても良いかもしれない。
「本来なら家からメイドを連れてくることって許されないでしょ?それを曲げてまでアナベルはいるものね。王妃様からすごく信頼されてるのよね!よし!あたしも信頼されるようにがんばるぞー!」
……その彼女の決意は3日後には挫けていた。
「なんなの!?怠惰にすごすって聞いていたのに……すっごく忙しかったんだけど!?」
「たまたまですよ。怠惰な日もありますよ」
ゴロゴロ怠惰を目指す王妃様だけど、リアン様は事件とあれば首を突っ込まずにはいられない性格だから、なにかと忙しくお過ごしになられてるたまにある。今日のマリーはリアン様に命じられて、王宮と後宮を行ったり来たりしていた。
情報が欲しいのよ!とリアン様は言って、図書室の情報屋クロードのところへ何度も書類を取りにマリーは行っていた。リアン様は夢中になると我を忘れる。『まだ!?』とか『書類足りないわよ』と急かしていたから、マリーは駆け足だった。
「何回行ったと思う!?もう足がパンパンよ!」
マリーは通常業務に戻りたいと嘆きだした。そしてそれはまだ続く。
「外交相手の国の名産品、地理、歴史、文化って……毎回調べてるの!?」
部屋中に広げられた本を踏まないように歩くマリー。
「そうですねぇ。相手国を徹底的に頭の中に叩き込むらしいです。あっ!そこの本踏まないでくださいね。広げてありますけど、お嬢様なりに配置決めてあるみたいですから、1ミリも動かしてはいけません。お嬢様がお風呂から戻られたら、次は夜の読書の時間の用意をしますからね」
「そこまでしなくていいでしょ!?ニッコリ笑ってれば良いんじゃないの!?それに夜は王様のお相手とかしなくていいの!?」
「戦でもするのかってくらいお調べになってますね。地図とか地形とかも必要なのでしょうかね?……わたしも謎なんです。そしてリアン様がなにかに夢中になってる時は陛下もご遠慮してます」
「はあ!?陛下の゙方が気を使われているのーっ!?」
「なぜかそうなんです。陛下はご遠慮なさらなくても良いと思うのですが……もうそろそろお風呂からでますから!早くしましょう!」
「は、はいっ!」
息をきらせつつ、ベッドに新しいシーツをかけようと頑張るマリー。
……けっきょくマリーは普通のメイドに戻り、わたしに言う。
「あんな風変わりな王妃様のメイドの仕事をこなせるのはアナベルしかいないわっ!」
「わたしにとっては褒め言葉です」
思わずニッコリ笑って答えると、おかしいわよ!?とマリーにドン引きされてしまったのでした。
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