仕事優先のメイドと騎士

 今日はお祭りの日だった。メイドたちはこの日はどこか浮かれていて朝からソワソワしている。


 でも私は浮かれない!今日もリアンお嬢様のために働きますよ!と気合をいれる。


 しかし当のお嬢様から言われてしまう。


「えっ?アナベル行かないの!?今日は街のお祭りでしょう?行ってきたら?私は早めにベッドに入って読書をするから気にしないで」


「そっと抜け出したりしませんよね?」


 やりかねないお嬢様だ。しかし屋敷のときとは身分と立場が違う。後宮から陛下の許可なく出ることは罪にあたり、厳罰がくだされる。


「しないわよ。さすがにウィルバートに怒られるわ」


「本当にやめてくださいよ?やはり心配なので、眠るまでお傍に……」


「大丈夫よ!お祭りよりも今、読んでる本の方が気になるんだから!ちゃんと大人しくしているから、いってらっしゃい!」


 お嬢様のこと信用してないわけではないんですけどねぇ……これまで起きたいろんなことが脳裏に浮かぶ。お転婆という言葉が過ぎるほどなのだ。


「では、早いですが、失礼します。おやすみなさいませ」


 しかしあまりにしつこいのも嫌がられてしまうだろうとお辞儀し、退室した。ヒラヒラ~と軽く手を降ってるお嬢様が……怪しすぎるんですけど……。


 心配しすぎでしょうか?とため息をつきつつ、メイド用の区域まで来た。


「お祭りにアナベルは行かないの?広場で夜のダンスが始まるわよ!」

  

 服を着替え、お化粧をしたメイド達とすれ違う。


「アナベル行かないの?一緒に行く?」


 そうメイド仲間のマリーから声をかけられる。


「いいえ、やめときます」


「もう仕事ないんでしょ?終わったんでしょ?」


「ええ。でもリアン様のこと気になりますから」


 仕事熱心ねぇとやや呆れた感じで去っていく。


「行かないなら、これ片付けておいてくれない?」


 他の人から夕食の食べた片付けを頼まれる。良いですよと返事をするとヤッターと下働きのメイド達は喜んで出ていく。ポツンと一人になり、お皿やカップを片付けることにする。


 コック長のところへ洗ったお皿を片付けに行くとそこには……えっ!?


「セオドア様、ここで何をされてるんです!?」


 厨房で老齢のコック長とワインを開けていたセオドアが驚いているわたしを見た。


「見てのとおり、酒を少し飲んでいる」


「ここで……ですか?お祭りには行かれないんですか?」


「皆は浮かれすぎている。警備も手薄だ。陛下になにかあればと思い、ここで待機している」


 コック長がハハッと笑う。


「陛下に祭りへ行ってこいと言われたのに、頑固にここに居座っているだけだろう。それに陛下は並大抵の腕前のやつじゃ倒せない。相当強いと聞いてる」


「仕事を優先するのは間違いじゃないだろう?アナベルはなぜ片付けをしている?それはメイドではなく下働きの者たちの仕事だろう?」


「お祭りにいく予定がなかったので……私もリアン様のことが心配で……」


 そう言って食器を置くと、コック長がアハハと笑い出す。


「似たもの同士で、祭りへ行ってきたらどうだ?王様と王妃様は二人を行かせるために仕事を免除してくれたのだろう?その御心に添わずしてどうする!?」


 わたしとセオドア様は思わず顔を見合わせた。

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