第40話 カードゲーム大会・5

 Bリーグも終わったことで休憩に入る。この後は準決勝を2試合と決勝だけで終わりだ。


 3位決定戦はやらない。割と長時間配信になっているし、商品があるのは1位だけ。そうなるとスケジュール的にも3位決定戦はパスされることになった。


 この大会が終わった後に個人の配信で改めて決着をつけてもいいわけで。何も全部をこの大会で完結させる必要はないのだから。この案件でできた繋がりをこれからも活かしていけばいい。


 俺たち司会陣も水分補給やトイレ休憩をしつつ、FOR3人の通話アプリで準決勝の話をする。


「2人とも、準決勝進出おめでとう。見てた感じプレミもなかったからこの調子で準決勝も頑張ってね」


「うん。でもどっちも経験者の先輩たちなんだよねえ。すっごく強いのは予選見ててわかったし」


「わたしとしてもオーフェリア先輩とは戦いたくなかったなあ。あの神とかどうすればいいの?手札誘発だけで止められる?」


「先攻はどうにか取りたいかな。それで妨害を構えれば神が出される前にどうにかできると思う」


「だよねえ。後攻だとどうしようもできないか。それか手札事故を祈るしかないってことだと運勝負だよね。リリくん、運分けて?」


「運ってどうやって分けるんだか……」


 残り4人のデッキがどれも先攻を取った方が良い構成だ。だから先攻を取りたい。先攻後攻は完全にコイントスで決まるから運でしかない。


 手札もデッキシャッフルが運だからやってみないとどうなるかなんてわからない。そこが運であり、俺が分け与えることはできないものだ。


 俺が一緒にいたら運が向上する、なんていうのは多分迷信のはずなんだ。でも結果が出てしまっている。


 同じ配信に出ると運が向上するというのなら今日の2人の配信にお邪魔するのは無理だけど、そういう意味では今日俺の運がお裾分けされるとしたら同じ事務所にいる吹上先輩じゃないだろうか。


 俺が運を操作しているわけでもないから、俺の変な体質が影響を及ばさないと良いけど。


「コウスケ先輩のバトルも見てたけど、楽園騎士なら相性が良かったりする?」


「ブルーホーン・ドラゴンデッキは融合がメインだし、その融合を最大限使うためには通常モンスターのブルーホーン・ドラゴンをどうにか手札か墓地に送らないといけないからね。まだ戦える隙はあるよ。霜月さんが負けちゃったのは後攻だったのと、手札誘発が1枚もなかったからだし」


「そうなんだよ。『屋敷めのこ』がいれば勝てたんだけど、なかったからそれがね。融合のマジックを止められれば勝てるよ」


「うん、頑張る!エリー、決勝で戦おうね!」


 同期の2人が決勝で戦うことになったらビックリだろうな。どっちも初心者だし、経験者の先輩たちを倒したことになる。一番の新人が案件大会で優勝するなんてエクリプス史上初の快挙だろう。


 案件大会がそもそも初めてだから何をしても史上初が頭に付くけど。


「それにしてもリリくん?わたしたち、君が解説として事務所にいるなんて知らなかったんだけど?」


「そうだよー!映像と音声だけ繋いでるんじゃなくて事務所にいるなんて!そもそも負けなかったら解説しなかったんだって?何にも聞いてないよ?」


「吹上先輩にやってみないって事前に誘われてて、承諾した形。吹上先輩からはトーク力と知識があるからって言われたけど、多分スケジュールとかで消去法で選ばれただけだと思う」


「そうかなあ?司会の2人がいるし、数としては足りてるから消去法で選ばれる?」


「リリくんが評価されたってことだよ。オーフェリア先輩、リリくんの雑談配信とか見て企画任せたいとか言ってたから」


「言ってたねえ」


 吹上先輩、そんなこと言ってたのか。今回の案件は吹上先輩が中心となって会社を巻き込んで大会まで発展させたらしい。案件自体は結構前から決まっていたけど日程とか諸々が決まったのは俺たちがデビューする直前とか。


 そこで吹上先輩も司会に加わってゴートン先輩とドロッセル先輩も参加者兼司会として大会に出る予定だったらしいけど、俺がウィザード&モンスターズを趣味欄で提出していたからこの大会のためにスケジュールを空けておいてくれとデビュー前に言われていた。


 案件なので優先してスケジュールを抑えていたのでそこに負けたらという条件付きで解説をやるのは問題なかった。というか、企業のコンマイさんの方から初心者応援という側面からFORの残り2人も組み込みたいと打診があったようだ。


 それはあのカード剥き配信を見て追加を考えたらしい。


 その前提から解説の2人の負担を減らすために追加されただけだと思うが。


「今回のとその話は別なんだろうか?」


「多分別じゃないかな?オーフェリア先輩、結構いろんな企画やってるみたいだし。他の男性の先輩とかも巻き込まれてるみたいだよ?」


「わたしたちも座談会とかに呼んでもらえたから、その辺りのフットワークはかなり軽いと思う。けど本当にお嬢様だからむしろ警戒心が薄くないかなと心配になるけど……」


「だよね〜。あたしより歳上だけどおっとりしてるし、恋話すっごく好きだし、心配になるよ」


 吹上先輩は配信外で話してもキャラクターそのものだった。あのお嬢様キャラは宗方先輩の普段の口調のように割と素なんだろう。元々のキャラが濃ければ演じる必要もないから、ちょっとしたスパイスを足せば良いだけなんだろうな。


「あ、そろそろ戻るね。コイントスで負けても最後まで諦めないこと。1枚のドローでひっくり返すなんてよくあることなんだから」


「ちゃんと応援しててよね」


「リリちゃん、祈っててね!多分運が良くなるから!」


「うん。祈っておくよ」


 最後にそう言って通話から外れる。最後に水分を一口含んで配信室に戻る。


 これからのスケジュールを最終チェックして配信の準備をする。


 時間になって配信を戻す。蓋絵から元の画面に戻して声も載せる。


「というわけで休憩は終わりだ。これから準決勝の第1試合を始めていく、んだが……。コメント欄が荒れてる?」


『リリ、俺っこだったのか』

『あの2人には素を出して私たちには見せてくれないの?』

『罰として今度の配信、俺限定な』

『別に僕でも良いけどなあ』


 何で本性の一人称がバレてるんだ?ポロっと漏らした?


 いや、それなら休憩中に誰かしらが指摘してくれるはず……。


 そう思ってるとスマホが振動した。何だろうと本番中ではあるものの緊急事態かもしれないと思って見て良いかとウチの事務所のスタッフにアイコンタクトを取ると頷いてくれたので画面を見る。


 そこには水瀬さんからメッセージが。


「ごめん!さっきの休憩中の会話、配信に載っちゃってた!」


「ああ〜……。まあ、これからは俺も混在ということで。何か今度お詫び配信をしましょう。それで手打ちとさせてください。今は大会中ですし。水瀬さんはこれを聞いてたら深く反省するように」


『それはそう』

『みなちぇもまだ新人だから怒らんといて』

『ずっと配信枠取ってるからなあ。ミュート忘れたんだろ』


 致命的な発言はなかったはず。スタッフさんに調べてもらって俺はそのまま配信に戻る。


 水瀬さんは2試合目だからそれまでにメンタルを直してもらおう。


 1試合目は霜月さんが先攻を取れた。盤面も最善ではなくても結構しっかりとしたものができていた。


 そのはずなのに吹上先輩はその妨害を突破した。


「『ロストソウル・ジャマー』⁉︎デッキを20枚も裏側除外しなくちゃいけないかなりのリスキーカードだぞ⁉︎」


「いや、ゴートン先輩。この盤面だと初手に『ロストソウル・ジャマー』は最適解です。フィールドのカードの効果を無効化にして発動も不可能にする。しかもあのカードの発動は止められません。その代わり使用したターンに勝利しなければ強制敗北というかなりのデメリット効果もあるんですが……」


「強制敗北もそうだけど、裏側除外ってことはもうこのバトル中に使えないでしょ?このターンに勝つためにはデッキからサーチしないといけないけど、必須カードがこれで除外されてる可能性が高いと」


「はい。どこまで展開ができるか、ですが……。スパイラルで展開は予選と同じですね。あ、『死の契約者ケルビム』⁉︎まずい、霜月さんそれ止めて!『屋敷めのこ』は⁉︎」


 さっきから連発される極悪カードの嵐で何が起こるのか察した俺は思わず叫んでしまった。スパイラルは悪魔族のカテゴリー。召喚条件が合致してしまっている。


 悪魔族モンスターが3体フィールドに必要だったのに、特殊召喚で全て出せてしまうスパイラルは都合が良すぎるカードだ。なぜアレを予選でやらなかったんだ。


 ゴートン先輩も悪名高い『死の契約者ケルビム』を知っていたからか、顔を青ざめさせていた。


「私、あのカードを知らないんだけど何がまずいの?」


「アレは召喚した自分のエンドフェイズ時にLPを16000払うというデメリットがあります。なので少し回復した程度では焼け石に水ですね。で、本命の効果ですが……。5枚ドローした中から通常召喚できないモンスターを召喚条件を無視して召喚できます。ただし、神属性と光属性を除きます。なので『救世神savior』は出せないんですが……」


「いると思うか?リリ」


「確実に。あ、吹上先輩が更に『追放者の隠し札』を使いましたね。またマイナーカードを……。これは自分の除外されているカードが15枚以上なら相手に1ドローをさせて自分のデッキから好きなモンスターをデッキトップに置くことができるカードです。これはデッキ操作なので『屋敷めのこ』では止められません」


 霜月さんが1枚引いて操作が吹上先輩へ。


 吹上先輩が持ってきたのは『復讐神ゴーズ・ファントム』。神の名前が付いているけど闇属性だから『死の契約者ケルビム』の適用範囲内だ。


 いやいや、何枚の神のカードをデッキに入れているんだ?デッキが60枚だから目的のカードが引けない可能性はかなり高く、片方ずつの必須カードがあってもどうしようもできない。今回の手札が先攻だったら妨害も構えられなくてどこかで止まっていたかもしれない。


「『ゴーズ・ファントム』はな。召喚条件は置いておくが、攻撃力5000で相手のフィールドのモンスターの数まで攻撃ができる。しかも守備表示でも貫通ダメージ付きだ」


「今計算しましたけど、ダメージは7700ですね。そこに『ケルビム』がいるので……」


「8000に届いちゃうわけ⁉︎オーちゃん、どんな鬼畜デッキ組んでるの⁉︎」


「これで『救世神savior』も入れてるんですよね?SPデッキもかなりかつかつのはずなのに……。『ケルビム』の効果が発動しましたがそのままドローをしたので霜月さんには手札誘発がなさそうです」


 そして出てくる『ゴーズ・ファントム』。こんなごちゃ混ぜ神デッキがどうして回るんだ?


 運が良いのは吹上先輩の方では?


 そのまま霜月さんは火力によって蹂躙されてそのまま敗北。リスクのあるカードを使いすぎているけど、噛み合ったらすごいカードではある。


 そのコンボカードが全て初手で揃っていないとどうしようもできないはずなんだけど。


 2試合目はミュート忘れのポカが響いたのか少し長い試合になりつつもミスというか初心者だから対処がわからなくてコウスケ先輩が勝利。


 まあ、本当の一人称バレはVtuberにはよくあることだし問題ないだろう。さっきの会話もただのアドバイスだったし、炎上はしないはず。

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