第28話 事務関連のあれこれと料理企画
エイプリルフールの次の日。24時間配信をやったこともあって次の日はお休みを貰った。ただ1日丸々休むのもどうかと思ってお昼過ぎには起きて昼食を食べた後に提出物もあったので小岩の事務所へ向かう。マネージャーさんにはちゃんと向かうことは伝えてある。
事務所に着いてすぐ、五反田マネージャーが迎えてくれた。
「朝まで長時間配信してたのに、体調は大丈夫かい?」
「バイトを入れていた時は睡眠時間が4時間とかザラでしたし。深夜バイトのお給料を考えると夜働くのが一番良いんですよ。前の仕事はお昼に現場に行けば良かったので」
俳優の練習の開始なんて早くて昼過ぎだ。遅いと夕方から5時間とかってこともある。他の仕事とかもあった人が多かったから集まる時間は自然と遅かった。
そういう意味では24時間配信をやった後だけど6時間も寝ているから体調的には全く問題ない。
まだ若いって言える年齢だからこその無茶だろうけど。30歳を過ぎたら無理かもしれない。
渡すべき物を一式渡して、中身の確認をしてもらってやることは完了だ。インターネットでデータの受け渡しは簡単になったけど、重要なものはやっぱり手渡しが良い。
「はい。確かに。リリ君は提出物もしっかりしてくれるからありがたいねえ。企画とかも二つ返事だし」
「暇なので。専業じゃなかったら無理ですよ。他にも働いている人よりはスケジュールに余裕があるだけで」
俺のやることなんて配信するか準備をするか、エクリプスの仕事で撮影とかインタビューを受けるくらい。兼業配信者じゃないから時間を自由に使えるだけだ。
休みの日はちゃんと休んでるし、趣味の買い物とかにも行ったりしている。この前だって観劇に行ってきたし。
「お休みはちゃんと摂ってくださいよ?配信回数とか時間とか、ノルマなんてありませんからね?」
「もしかして休みが少なくて問題だったりします?」
「リリ君と霜月さんは、その。長時間配信が多いかなあって議題に上がってます。二人とも専業なので企画とかコラボとかもすぐに出てくれますし」
これが仕事だからか、頼まれたら断れない性分なのかホイホイ参加してしまう。
でも企業的にまずいと言われたら休むべきだろう。もう少しスケジュールを考えるか。心配させるのも悪いしな。マネージャーの皆さんもそうだけどリスナーを不安にさせるわけにもいかないし、半日休みでも増やそうか。
やりたい企画やアンケート、それから作った曲を提供したり。逆に事務所側から推されるゲームを教えてもらったり、どういう企画が進んでいるとか、そういう情報交換を行なった。俺も配信者として流行りを知るために情報収集をしているものの、全部を追い切れない。
配信をしてたら調べる時間がない。SNSなども見て面白い話題はないかなと探すけど、自分が触れていない方向性からマネージャーさんたちが教えてくれるから配信のネタになる。そんな方面で新情報があるんだみたいなことも知れるのが良い。
俺が興味を持っていなかった西洋人形のアンティークがオークションで凄い値段がついたとか、それこそ技術が凄いとか。そういうことを話題に出せるだけでも雑談の繋ぎになるからありがたい。
「嫌なことがあったらすぐに言ってくださいね。リリ君みたいな色々できる人が辞めてしまうのはこちらとしても痛手ですから」
「脚本ちょっと書いて、ボイスを録音しただけですよ。あ、昨日は良いタイミングでコメントありがとうございました。ちょうど良かったです」
「企画のためならサクラくらいやりますよ。それに自分がコメントする前に似たコメントもありましたけどね」
エイプリルフールで俺が複数存在していることを表現するために五反田マネージャーにはお願いしたタイミングでこっちが拾いやすいコメントをしてもらった。それを拾って俺の録音の声がおかしなことにならないようにしていたわけだ。
事務所の公式アカウントを使うと仕込みだとわかってしまうので五反田さんの個人アカウントを使ってもらった次第だ。
五反田さんだけのコメントを拾っていたらアーカイブを見直した際にバレてしまうので他の社員さんも手伝ってくれたらしい。後でお礼を言っておかないと。
色々と情報交換をしたところで、最近のリスナーのアクティブ状況からもうちょっと女性向けの配信をしてみてはいかがだろうかという提案を受けた。リスナーの男女比だが、男性7割で女性3割らしい。
男性配信者としてこの女性リスナーの数はかなり多いらしい。そもそもVtuberの視聴者層からして男性の方が多いので女性リスナーを獲得するのは難しいらしい。女性先輩方に至っては女性が1割という人もいるようだ。誰のことかは教えてくれなかったけど。
基本は男性ばかりが視聴者になって、女性リスナーをどれだけ獲得できるかで跳ねるかどうかが決まるらしい。
「女性向けってどんなことすれば良いんですか?」
「男性で多いのはボイス販売とかセリフ読み上げとかですかね。前配信でやった奴、かなり好評でしたよ。あれの再生数は雑談枠ではかなり高いので」
「ああいうのが好きな人が多いんですね。ボイスが売れるんだから、それはそうか」
「というわけで少し女性向けの配信の例を見てみましょうか」
男性ライバーの女性から評価された配信というのは動画チャンネルの解析画面から色々見える。最大視聴数とか、どんなコメントが多かったとか、男女比とか。
そういうデータを見ていって参考になったところで、今日の最後の議題について語る。
「箱外のライバーさんからのコラボ打診、ですか」
「ええ。この人となら配信をしても大丈夫だろうと大きく評価されたためですね。特に動物系アバターの方からが多いです。あそこまで忠実な動物型のアバターの方はいませんからね」
「ほとんどは霜月さんや水瀬さんのように、動物要素もある人型が多いですからね」
それが主流で、動物型にすると3Dの身体を作る時に頭身が苦労したり、体毛とかのクオリティがノウハウの問題で低くなってしまうらしい。あとはやっぱり人型の方が王道なので表情とかも見やすいし甘い言葉を囁かれるなら人型の方が良いという話だろう。
そういう前提を考えるとタヌキアバターのリリとしてのセリフ読み配信がウケたのはアバターを見ずに中の人を見ているのか、それともタヌキが人様の真似をして滑稽だと思ったのか。エゴサをするとやっぱりまだ否定的な言葉を投げかけてくる人はいるからな。
けどこういうエンタメだからこそ否定的な意見が出るのはわかっている。どれだけ有名で落ち度のない人でもアンチは生まれてしまうものなんだから。
一番近い業種だとお笑い芸人だろうか。ちょっとしたことでニュースになったり発言を切り抜かれたりというのは似ている気がする。昨今はVtuberもニュースサイトで話題になることも増えてきた。世間でもVtuberという存在が認知され始めた証拠だろう。
「できればエクリプスの全員とコラボをしてから外の方と関わる方が悪評とかは出ないんじゃないですかね?」
「いくらウチの人数がそこまで多くないとはいえ、全員とコラボをするのは難しい……。ああ、今日、ちょうど良い企画をやっているのでコラボをしちゃいましょうか」
「はい?今日?」
この後時間は空いているかと聞かれて、配信はしない予定なので空いていると答えると五反田マネージャーはどこかへ電話をして移動することになった。
歩いて迎える場所のようで、二人で歩いて向かう。貸出用のスタジオのようでエクリプスが長期契約をしている場所ではないらしい。俳優業でも練習用のスタジオや撮影用のスタジオを借りたりするのでそういうこともあるだろうなと思ってついていく。
「何かの撮影ですか?」
「そうですね。ライブではないので収録になります。食事企画ですね」
「ああ、料理をするからいつものスタジオじゃないんですね」
エクリプスにある配信用のスタジオでは料理なんてまともにできない。だから大人数で食事ができるスタジオを借りたんだろう。
「メンバーはどうなっています?」
「毒味係が
「毒味係って……」
「変なものは作らないだろうけど、企画立案者の亜麻井さんが毒味役って譲らなくてね」
「そうですか……。霜月さんもいるんですか?」
「ええ。やっぱり気になりますか?」
「まあ、同期ですし」
事務所で大々的にデートって言葉を使ってしまったからか、事務所の人が全員俺と霜月さんのことを気にしている。それにそのあとの霜月さんの態度が明らかに俺を意識してしまっている言動なために霜月さんの気持ちに気付いている人ばかりだ。
俺もまあ、察してしまったし。
かといって俺的にはちょっと恋愛には距離を置きたい気持ちがあるので、俺から突っ込むつもりはなかったりする。
多分男性経験がなさすぎてアヒルの子の刷り込みのようにたまたま助けてくれた男の俺に懐いているだけのような気もする。だからもしかしたら冷静に物事を見直したら俺のこともなんとも思わなくなるかもしれない。
あとはデビューしたばかりで同期が付き合ってるとバレたらとてつもなく炎上しそうだ。そういうリスクマネジメント的な意味でも現状付き合うわけにもいかないだろう。
スタジオについたものの、すぐに挨拶をすることはなかった。というかもう撮影が始まっているらしい。霜月さんが料理をしている様子からもう始めているんだろう。
「リリ君、こっちこっち」
スタッフさんに呼ばれる。何だろうとついていくとそこにも台所があった。しかも何やら使いかけの食材が置いてある。何だろうか、これ。
「リリ君、この余った食材で何か作ってくれない?」
「え?俺が作るんですか?」
「食材が余っちゃってねえ。ざっくり用意しちゃったから余りそうでね。僕たちのまかないを作ってくれないかい?」
「俺の適当な男飯で良いなら」
野菜がそれなりに、それと魚が多いな。で、調理器材が大体のもの揃ってるな。あっちの部屋が多分メイン調理場でこっちはサブ調理場なんだろう。たぶんやらせに使える場所。料理番組で実際に作った人は別人だった、みたいなことはよくあるらしい。
アイドルとかのイメージ戦略のために代行をしている番組もあるのだとか。その辺りは事務所側と番組で協議をしているんだろう。
鍋もあるから鍋にしよう。鶏ガラがあるから鶏ベースの汁を作って、この魚の余りはつみれにでもすれば良いか。
手を洗って料理をし始めるとスタジオの霜月さんと目が合った。あ、と声も漏らしていた。該当箇所はカットされるだろう。
配信で会ったことのある先輩もいるとはいえ、このメンバーの中で一番驚いた相手は宗方先輩だ。あの人アバターの姿のまんまだった。白髪で後ろで結っていることも、顔の感じも和服を着ていることも全部一緒。まさか本人をただアニメ調にしただけの人物だなんて思わなかった。
霜月さん以外の女性陣は話すことも初めてだ。全体チャットで挨拶をしたことはあっても、配信上で話したこともない。配信は一通り見たことがあるから声は知っていても、実際の人物像は知らない。
ユークリム先輩は二期後半組で、セブン先輩と同期。悪魔とのハーフらしくてコウモリのような羽と細長い尻尾が生えているアバターだ。毒味役に選ぶのは関係者にしようとして男性陣が選ばれたんだろう。
下手したら俺が呼ばれていた可能性もある。
「リリ君、これも余ったって」
「卵とネギ、ウィンナーですか。全部入れても良いですね」
「何か足りないものある?」
「ご飯は余ってます?それと調味料一式みたいです」
「今ユークリムさんと霜月さんがチャーハンを作ってるから、ご飯は余るよ。調味料は基本何でもあるね」
「わかりました。じゃあ下味をつけていきますね」
アレンジチャーハンか。焦がしたりしなければそこまで変なものはできないはず。
どんなチャーハンを作ったんだろう。
「完成!旨辛味噌炒めチャーハン!」
「栄養たっぷりになるように茄子と豚肉ともやしと白菜がいっぱい入ってるよ!さあ、地獄のような辛味をご照覧あれ!」
「地獄って言ったな?いくら私が同期とはいえその物言いはなんだ?」
「ほうほう。ゆーくりむ嬢、霜月嬢。もう食べて良いのでござろうか?拙者味噌には目がない江戸っ子なもので」
「どうぞどうぞ、宗方おじいちゃん!辛いから気ぃつけてね」
ユークリム先輩が宗方先輩のことをおじいちゃんと呼ぶのは何故だろうか。日本人でまだ若い風貌なのに白髪だからだろうか。雰囲気は確かに老成しているようにも見えるけど。
食材の追加で茄子ともやし、白菜が来たのでもやしと白菜は鍋に入れる。あと油があったのでそっちで揚げ物を同時並行で作ろう。茄子なんて揚げればそれだけで美味しいんだから。
亜麻井先輩と真崎先輩はチャーシューと低温チャーシュー、それに鶏肉の低温調理をしたものと焼いた鶏肉や刺身などの魚も複数用意して、それら全てに衣をつけて揚げるというめちゃくちゃ凝った揚げチャーシュー丼を作ったらしい。そのおかげで油があるわけで。
チャーシューも余っていたらしいけどスタッフさんが美味しくいただいたようだ。揚げない方が美味しかったとのこと。揚げ物ばかりはバランスが悪いと思ったのかご飯と揚げ物の間にキャベツの千切りも入れていたらしい。
鶏肉は鍋に入れるものと揚げるものに分ける。これ経費で食べられるからってスタッフがバカみたいな量を買ってきたんじゃないだろうか。そうじゃないとライバー6人分にしては食材が多すぎる。
アクをすくいながらおじや用のご飯の準備をする。あとはつけ汁だけどぶっちゃけ既製品のポン酢で良いだろう。揚げ物用に天つゆはいるかもな。その辺りは皆さんのお好みで。
チャーハンを食べ終わった宗方先輩とセブン先輩が感想を言っている。とにかく辛くて味噌の味がほとんどしなかったこと。もっと辛さを控えれば美味しかったのに、という感想だ。
料理企画なんて美味しくても美味しくなくてもキャラ付けから乖離していなければ評価されやすいらしい。今回の女性陣4人は料理が得意じゃないのにアレンジをしたために、評価が微妙でもそれはそれで美味しいらしい。
アクももう出なくなったので少し取り皿によそって味見をする。うん、薄味だけどこんなものだろう。食べてきたものがどっちも濃い味だったみたいだし、最後くらい薄味でも良いんじゃないだろうか。濃くしたいならつけ汁でどうにかすれば良いと思うし。
「ん?スタッフさんが追加で持ってきてくれましたね。これ、揚げ物?」
「また揚げ物?いくら私がサイボーグだからといって、摂取油の限界量はあるのだぞ?」
「茄子の揚げ物は嬉しいでござるな。どれ、早速」
「いやいや、これ誰が作ってくれたんですか〜?わたくしたち以外にも参加者が?」
「サプライズゲスト?どーぞ」
亜麻井先輩と真崎先輩に呼ばれて、スタジオに入る。顔合わせをしたことがないためにすぐに自己紹介しないとスタッフとしか思われないだろう。
「お疲れ様です、皆さん。3期生の絹田狸々です。事務所にいたら引っ張ってこられました」
「リリ君、お疲れ様。揚げ物作ってくれたの?茄子と唐揚げかな?」
「そうですよ、霜月さん。あとは、これをどうぞ」
鍋つかみを手につけて一番大きなテーブルの真ん中に鍋を持っていく。それと同時にスタッフさんが取り皿やガスコンロを持っていってくれたのでガスコンロの上に置く。
カメラさんが近付いてきてブツ撮りをする準備ができたので、ディレクターさんの指示と同時に鍋の蓋を取った。湯気が出つつもその中身が見えて「おお〜」とライバーから声が上がった。
「シンプルに鶏ベースのお鍋です。ご賞味ください」
「え?リリさんもこのアレンジ勝負に挑戦されますの?」
「そうなったみたいです。味付けとかは自分でやったので一応アレンジ料理になるかと」
亜麻井先輩はよく台本にない行動をされたのに反応できるなあ。こういうサプライズは多いんだろうか。配信なんて生配信ばかりだからアドリブにも強くなったんだろうか。
結局こういうのは慣れと経験が物を言う。
全員が自分の取り皿に中身を入れて食べていく。ちなみにつけ汁には既製品のポン酢と適当に作ったゴマダレもある。
「うん。優しい味だ。ほっとすると言うか。料理はこれくらいで良い。女性陣には是非ともこれくらいの謙虚さを持っていただきたい。最初に私は言ったぞ。料理はレシピ通りが美味しいと」
「濃い味ばっかりだったから胃に染み渡るでござる。うむ。この魚のつみれもまた絶品な」
「鶏ベースのはずなのに刺身も入っていて、それが邪魔してないというか。なんで?リリっち、ユークリム・ロゼリーヌ・ワカナが命じる!この秘密を洗いざらい吐け!」
「なんでも何も……。ラーメンとかでも鶏と豚のダブルスープとか魚介豚骨って言葉があるじゃないですか。鶏って結構何でも合わせられるんですよ。魚の臭みさえ抜いてしまえばそこまで邪魔をしないので。味は薄めですし、つみれは生姜を入れて臭みを消して、刺身は軽くお湯に通して火を入れているので臭みは薄まってると思います」
飲食店の厨房で働いていたこともあったので何となくの知識はあった。飲食店のアルバイトだとまかないが食べられるから一食分食費が浮くこともあって重宝していた。高校の時は深夜に働けなかったから卒業するまではずっと飲食店で働いていて、その時に個人店だったからかお店の人が色々と教えてくれた。
今日は時間がなかったから昆布で出汁を取らなかったけど、そこまでやればもっと美味しくできたはず。自分一人の料理だと凝るつもりもないからこういう風に食材を自由に使っていい状況じゃないと料理をちゃんとしようとも思わないけど。
「え?絹田君も合わせて審査するんですか?じゃあ宗方君とKP7君はこの鍋も考慮して判断してください」
「あ、おじやも用意しましたけど食べなくて大丈夫ですか?」
「り、リリ君……。これ以上はオーバーキルだよぉ」
霜月さんがやめてと首を横に振る。スタッフさんがすぐにカンペを用意して「僕たちが食べるからライバーにはあげちゃダメ!」と書いていた。
そんなに食事に飢えてるんですか。スタッフの皆さん。いや、自分たちが食べることを想定した量を買ってるんだし、前の二つが濃すぎてあまり食べられなかったというのもあるのかもしれない。
こっちに持ってきたのは半分の量で、もう半分はスタッフ用に残してあるのに。
女性ライバーの手料理ななんてファンからすれば羨ましいだろうに、それを拒否して俺の料理の方を食べたがるなんて。そんなに濃かったんだろうか。
「スタッフさんが食べたいそうなので我々におじやは無しだそうです。それでは宗方君から発表お願いします」
「うん?リリ殿以外ありえないでござる。他の料理は濃すぎて素材の味が何もわからぬ」
「……じゃあ、KP7君は?」
「リリ。忖度なしに一番美味しく食べられた。最初の揚げチャーシュー丼は下味が濃いし揚げてるから脂っこいし、丼のご飯にもチャーシューのタレがビタビタにかけられていて牛丼の汁だくより酷いことになっていた。チャーシューに謝れ。チャーハンは辛すぎるせいで痛みばかりだ。まあ、チャーハンはパラパラだったし、茄子ともやしのおかげで若干中和されていて食べられないこともなかったから、2択だったらチャーハンだったな」
「よっしゃあ!同期愛の勝ちぃ!」
「いえ、ユークリム先輩?負けてます、あたしたち」
宗方先輩の即答で進行をしてくれていた真崎先輩は拗ねて、ユークリム先輩はセブン先輩の辛口コメントから希望を見出していたけど霜月先輩に突っ込まれていた。
カオスな現場だな。
「一応聞くけど、スタッフの皆さんは?」
「リリ君」
「リリ君しか勝たん」
「俺は辛いの好きだからチャーハンもありだった」
「おじやうめえ。リリ君で」
「卵がまたいいアクセントになってて。これ今度コラボカフェに出しましょう」
「鍋なら大量生産もできそうだし、おじやもシンプルだからな。採用」
「なんかお上の方でとんでもない計画が進んでいますわ⁉︎」
「これは負けを認めないといけないわね。というわけで勝利者は絹田君です」
拍手をもらうけど、これ他の二つが奇抜だっただけだよな?
なぜか勝ってしまったけど進行は真崎先輩がやっていたものの企画は亜麻井先輩だったために最後は亜麻井先輩が占めていた。
「亜麻井先輩、真崎先輩、ユークリム先輩。初めましてリリです。今日は突然参加して、アドリブで対応していただいてありがとうございます」
「はい。亜麻井です。よろしくお願いしますわ。まあ、こういうこともよくありますから。わたくしも一年近く配信を続けていれば慣れますわ」
「真崎です。エクリプスのスタッフさんはサプライズが好きだから。こういうことをされる側になるので気を付けてくださいね、絹田さん」
「ユークリムだよ。いやー、君がエリーちゃんの言ってたリリ君か。背高いねえ」
自己紹介をし合って、身長に触れられる。170cm後半あれば成人男性の平均身長は超えているから高い方だろう。セブン先輩は170cmくらいだし、宗方先輩は160cmくらいに見える。その男性二人と比べると高い方だろう。
女性陣では真崎先輩だけ160cmくらいで他の人はもっと小さい。そうなると俺は高い部類になる。
「り、リリ君!あのチャーハンは企画用のアレンジだからね⁉︎わたしもっと普通に料理できるから!」
「社会人の頃は自分でお昼は弁当を作っていたって前に言ってたじゃないですか。だから霜月さんの料理の腕は疑っていませんよ?それにチャーハンは食べていないのでどれだけのものかわかりません」
「食べなくていい。そこの悪魔が馬鹿みたいに豆板醤を入れていたからな」
霜月さんが慌てて訂正をしてくるけど、こういう企画ではやりすぎるくらいがちょうどいいというのを知っているので別に料理が下手だとかは思わない。
そして霜月さんの態度から周りのライバーはあら〜という態度を取っていた。全体チャットの一件もあるし、これ本当にライバーにも知られ渡ってるな。
変に拗らせたくないから鈍感なふりをしていようか。
それとセブン先輩は恨みがましいとでも言うようにユークリム先輩を睨んでいた。睨まれたユークリム先輩は口笛を吹きながら外方を向く。
「リリ殿、馳走になった。絶品だった」
「そこまで褒めていただくほどのものじゃないですよ。……宗方先輩、ライバーとしての姿とそっくりですね」
「リリ君もそう思うよね?わたしも今日会ったんだけど、そっくりすぎてびっくりしちゃって!」
「宗方さんに初めて会う方は皆そんな反応をされますわ。わたくしも最初は驚きましたし」
「母上がそのままで行こうと仰ってな。そもそも拙者はライバーになるつもりはなかったのだが、社長殿が人数が足りないからなれと要求してきたのでライバーになった次第。これはこれで新鮮で面白いでござる」
宗方先輩のこの話し方、多分素だ。どうやったらこの現代日本でここまで昔風の性格になるんだ?
それに社長に要求されてって、俺みたいなデビューの仕方をしているこの人はライバーになる前は何をしていたんだろうか。
今日でコラボした人が三人も増えた。このままなら外部コラボをしても良さそうだ。ただ女の人はちょっと避けよう。女性とのコラボも箱内だから許されている節があるし。またアンチが暴れまわったら面倒だからな。
「あ、リリ君。ウィザーズ&モンスターズのデッキって持ってきてる?この後真崎先輩とユークリム先輩と事務所でやろうとしてるんだけど」
「持ってきてますよ。前にコウスケ先輩に持ってこいよって言われたので事務所に来る時は持ってくるようにしてます。ルール説明ってしましたっけ?」
「なんとなくはわかるけど、できたら教えて欲しいな」
「わかりました。じゃあやりましょうか」
さすが人気のカードゲーム。今月に事務所内で案件かつ大会をやるから練習をしたいんだろう。
まずは厨房の片付けをしてからだ。その後事務所でゆっくりやろう。スタッフさんも手伝ってくれたことと最終チェックはスタッフさんがやってくれるとのことだったので厨房を片してゴミを捨てて事務所に戻った。
「けぴな殿。あれで霜月嬢は本当に恋心を隠しているのでござるか?」
「本人的にはアピールのつもりではないんでしょう。それにリリも気付いてなさそうなので」
「現代の人間関係は複雑でござる」
「なんか本当に、宗方さんって現実離れしてますよね」
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