第8話 先輩との初絡み
記念配信も終わったことで俺は朝の雑談配信(ソラソラ周回)の配信開始前からスパチャをONにしていた。待機の時とかにも投げてくれる人がいるので配信終わりに読むことを義務付けている。朝の配信だと最後まで見られないかもしれないけど、アーカイブには残るからそこで自分のスパチャの読み上げを確認してほしい。
投げられた時はスパチャありがとうとだけ言って、配信の段取りは崩さないようにしている。
今日の夕方配信は『ゲーセンではできないことをやろう』というタイトルで始めた。今ではオンラインゲームセンターというのがあってリモートでクレーンゲームなどができる。獲得した商品は後日郵送してくれるというサービス付きでゲーセンに行くことが億劫な人もゲーセンの商品を手に入れられるサービスだ。
あのガヤガヤした感じが好きじゃないという人向けのサービスが結構人気になったらしい。家の近くにゲーセンがないという人もいるから郵送料はかかるものの交通費を考えたら別に問題ないという声が多いようだ。
今日はそんなゲーセンのオンラインプレイをするわけじゃない。
昔の筐体ゲームをするわけだ。ものによっては今でも筐体が残っていてプレイしたりできるんだけど、俺が今回するのはもうどこのゲーセンでもできないゲームだったりする。
なにせそれは今も稼働中の人気ゲームの、マイナーバージョンなんだから。オンライン対戦ができず、アーケードモードなら最新作をプレイすればよくて、アップデートで遊びやすくなっているゲームをわざわざ古い据え置き機を引っ張り出してまでやる人間は稀だ。
できたらオンライン対戦がしたかったのでSNSで告知をしておいた。これなら持っているプレイヤーは今頃準備をしてくれているだろう。というか、ゲーム会社から許諾が下りるとは思わなかった。最新バージョンはまだ据え置きゲームとして発売されていないが、その一個前は最新ハードで出ている。
俺がやろうとしているのは初代なのでハードすら最新じゃない。それどころか発売されたのは八年くらい前だったりする。そんなゲームは宣伝にもならないからとゲーム会社が許諾を下ろさないことがあるらしいけど、今回は何故か降りた。
理由も書いてあって「最初のゲームバランスを実際に見てもらって最新の環境への進化を宣伝してくれると判断したため」という回答があった。
許可が下りたならやり切るだけだ。
「秘境の里へようこそ、歓迎しますよ。
『また随分と懐かしいものを……』
『ゲーセンまで行ってやってたわ』
『俺はパッケージ版だけ。ゲームセンターだと怖い人が多いから……』
『ああ、台パン煽りカスとか話題になったもんな。あそこ未だに動物園だぞ』
『こわ。とづまりしとこ』
ゲームセンターに良い思い出がない人が多いみたいだ。このゲームというか原作が人気だからかなり列ができるほどの人気ゲームなんだが、分母が多いためにマナーが悪い人間も散見される。それがSNSで拡散されてあそこのゲーセンは近寄らない方が良いとかって拡散されたようなお店もいる。
お店もそれでお客さんの足が遠ざかることを忌避したためによっぽどマナーの悪い客は追い出す宣言をして沈静化を図った。そしてそんな追放された人がゲーセン以外でプレイするためにパッケージ版が発売されたわけだ。ゲーセンに拒否反応が出る人も多かったのでこのパッケージ版もまあ売れた。
ゲーセンでワンコイン払わなくてもずっとプレイできるというのも大きかったんだろう。腕を磨くにはもってこいだ。ゲームセンターで初プレイして玄人にボコボコにされた人も多いんじゃないだろうか。アーケードモードやるなら帰れと恫喝された人もいるらしい。
このゲームが稼働された当初の治安は相当悪かったようだ。今はある程度治ったらしいが、それでもまだ話題になるくらいにはマナーが悪い人がいるようだ。
俺はゲームセンターの筐体周りはタバコを吸っている人が多いので近寄りたくない。タバコが苦手だ。これは配信では話してないかも。
「告知していた通り、できたらオンライン対戦をしたいと思います。部屋を作っていきますね」
『久々にハード引っ張り出したわ』
『そう?割と名作が多いからずっとリビングにあったわ』
『こう見るとグラフィックとかもちょっと粗い?』
『そういやリリ、みなちぇにスパチャ送ってたよな?』
部屋を準備していると昼過ぎから配信をしている水瀬さんにスパチャを送ったことをコメントで言われた。部屋番号を直打ちしていながら答える。
本当は部屋番号を隠した方が良いんだろうけど、このゲームを今起動している人がどれだけいるのかと思って普通に見せている。
「記念配信で同期二人からスパチャをもらったので、二人にはスパチャを送り返します。ちなみにあの後スパチャの内容について二人には説教しました」
『説教したんかい』
『まあ、みなちぇには怒っていい。エリーはナイスとしか言えないからな』
『あの切り抜き、ショート動画としてバズってたわ』
『記念配信も再生数エグいことになってるし、良かったじゃん』
『エリーにも送るの?』
「霜月さんにも返しますよ。この配信の後に霜月さんも配信をするみたいなので送り返します」
特に水瀬さんには怒った。高校生なのにエロいとか言わないでほしい。お金の使い方は自由だからあまり言わないけど、そうポンポン使わないようにとだけ伝えておいた。
霜月さんは高額すぎたから怒った。同期同士でお金のやり取りなんてなんか生々しいと思って、スパチャじゃなくてプレゼントとかにしようという話はした。プレゼントだと高額のものでもいやらしくないのはなんでだろうか。
部屋を作った瞬間、定員が埋まった。最初は2VS2の四人マッチだから俺以外に三人入ってすぐに埋まるわけだけど、観戦者も結構いる。
タイトルだけ考えても人気ゲームだったから集まったんだろう。すぐに機体選択に入る。
このゲームは昔からあるロボットアニメ『駆動戦士ズァーク』シリーズのロボットが各種集まって戦う格闘ゲームだ。シリーズごとの時系列や似た世界線の話など結構突散らかっているが、この中でどの機体が強いかを競えるのはファン待望だったりする。
その割には期待ごとの性能差がかなりあるので、強さランキングでよく使われるTierでランキングが付けられている。
選ぶのはもちろん、ネタ機体。
「さーて、ボコすぞぉ!」
『おまwズァークスルドってw』
『来たな。最初期屈指のネタ機体』
『なんでや!スルドってシリーズでも人気のラスボス機体やろ!』
『格闘オンリーという設定の時点でネタなのに、このドリームVS初期だとマジで格闘しかできないからな……』
『最新ヴァージョンだと護衛機がビームライフルを使ってくれるし、自爆特攻もしてくれるからアシストもあって中々使えるんだけどな』
そう。格闘ゲームだからこそ格闘オンリーの機体って強いんじゃないかと期待されて産み出された悲しい機体、スルド。アニメシリーズではしっかりとラスボスを務めたかなりの強機体なのに、このゲームだとかなり弱い。
格闘ゲームなのに初代は射撃が強すぎるからだ。ビームがかなり曲がる上に、ビームの威力が高い。ガードで全部のダメージを防ぐこともできないし、足を止めたら絨毯爆撃をされる。
格闘ゲームなのに近寄れないゲームバランス。それが初代ドリームVSだったりする。だから射撃オンリー機体が覇権を獲ったりもした。
スルドも接近オンリーなんだから攻撃力を強くしてくれればいいのに、そういう恩恵もない。
しかも。
「このゲームは6000コスト制です。機体ごとにコストが定められていて、撃破されればそのコストを失います。で、スルドはコスト3000。二回落とされたら負けです」
『うわ、懐かしい。コスト1000がいる……』
『上手い人の1000の射撃には勝てないんだよなぁ』
『初代は1000がいるせいで3000を使う旨味があまりない。強い機体はめっちゃ強いんだけど……』
『このゲーム初見だけど、3000のやつはそれなりに強いんじゃないの?』
『いや、このスルドは最弱』
有識者が多くて助かる。
二回倒れたら、しかもパートナーとコストは共有なのでもし味方も3000の機体を使っていたら二人が落ちた時点で負ける。そんな中で3000機体どころか、実装されている機体全ての中で最弱と言われるスルドを使う人なんてほとんどいない。
「もうすぐ試合が始まりますね。このスルドは射撃武器がありません。唯一シールドについたビームソードを伸ばして中距離攻撃ができますが、そこまで伸びない上にビームを切り裂いたりはできないので牽制用の攻撃でしかありません。HPは一応全機体の中でトップですが、移動速度は3000機体の中でドベ2です」
『おそっ』
『格闘機でそれはキツイ……』
『近寄るための機体が遅いってどういうことだよ?』
『ドベは射撃特化機体だからぶっちゃけビリまである』
これってコスト3000の機体の話で、要するにその下のコスト2500とか2000の機体にも速度で負けている場合がある。格下にも追いつけない格闘オンリー機体ってそれだけで縛りプレイだよなあ。
対戦が始まる。パートナーは2000コストのバランス型機体。相手は3000と2500という結構火力型の構成だ。
フィールドはコロニーの中というシンプルなステージだ。各シリーズから有名なシーンのステージがたくさん収録されているが、今回はオーソドックスなフィールドだ。遮蔽物がビルくらいしかないので腕が出やすいステージでもある。
「でも安心!この機体には変形機構があります!素で遅くても、変形して近付けばいいんだよ!」
『なるほど!それなら!』
『おー、ワイバーンみたいになった』
『やっぱ変形機ってカッコいいわ。これはプラモが売れる』
『でもなあ』
真紅の機体を変形させて龍っぽくさせて3000コストの敵に向かう。相手は射撃をしてくるけどどうにか横に避けて攻撃を躱す。
フィールドの半分くらいに辿り着いたら変形が勝手に途切れる。ブースト残量の問題でずっと変形してられないんだよね。
「こういう仕様なのでどうにか近寄って戦います。ちなみに、変形していても最速の機体には追いつけません。というか変形してようやく全機体の中で真ん中くらいの速度です」
『えっ』
『そういう機体なんだよ。マジで遅い』
『最新作ではトップ5に入るくらいの速度になったから十分戦える。変形すれば相手も変形機じゃなければほぼ追いつける』
さて、接敵だ。遅いなら遅いなりにやり方があるんだよ。
クイックブーストという機能がある。一種の緊急回避のようなものだ。それをジグザグに使って射撃を避けながら接近する。これはブーストゲージがかなり持っていかれるのであまり通常時は使いたくないものの、これを使わないとまともに戦えないんだから仕方がない。
接近してから唯一の中距離武器であるビームソードで一撃を与える。ここでよろけた相手に更に接近して弱攻撃を当てる。ここで相手が硬直している間に着地してブーストゲージを半分以上回復させてから強攻撃を方向キーを押して横攻撃、下からの切り上げ。
上空で行動を取れない相手を更に上部から叩き落としをする。この機体でできる限りのコンボを決めた。
だというのに敵は撃破にならない。いくら相手が3000機体だからってこれで落とせないならどうしろっていうんだ。
ダメージを与えたら即離脱。もう一機がこっちにビームを撃ってきた。フレンドリファイアもあるもののダメージはかなり減衰されるので構わず撃ってきたんだろう。
というか、相方が既に落ちているんだけど。
「相方さぁん⁉︎」
『久しぶりだったからダメだったんやろうな。簡単に砲撃食らって落ちてたで』
『っていうか今の何で避けられるんだよ?』
「攻撃予測の赤マーカーが画面の四方向から出るんですよ!それが下に出ていたので真後ろからの攻撃ってことです!っ、危な!」
第三シリーズの主人公機は重量型ズァークとして全ての砲撃が高火力だ。範囲も広いので避けづらいし、ミサイル爆撃もやってくる。
そこにアナザーシリーズの一つで主人公の後継機ズァークが3000コストなことを活かして必殺技の極太ビーム砲を放ってきた。変形モードになってどうにか避ける。
二対一になっていたのでひたすら避ける。その間に味方が復帰していた。遠距離から射撃で援護してくれる。攻撃の嵐が止んだ。
「今だ!」
一気に近付いてHPが低い方の3000機体の方から落とす。もう一コンボをすれば落とせるはずだ。
こっちに接近戦しかないとわかっているからこそ射撃をやめない。それは悪手だぞ!
「はい、そこぉ!」
変形するのと同時にそこそこ長いビームソードで上へカチあげる強襲技がある。変形時に唯一使える攻撃技だ。これを使っても変形状態でコンボができるわけでもなく、他の変形機はここから射撃武器を使えるのにスルドにはない。だから空中で変形を解除してひたすら攻撃を続ける。
「このスルドには全機体の中で唯一、邪魔をされなければ通常攻撃を永久的に出せるメリットがあるんだよ!」
『強攻撃はコンボ中一回しか出せないからな』
『上空で拘束するには上を入力しながら通常攻撃ボタン連打するしかない』
『普通に強くない?』
『通常攻撃は四回以上続けるとダメージが2で固定になるぞ』
『は?』
『コスト1000でもHP300超えばかりだからカスダメージにしかならない。まあ、今みたいなフィニッシュとしては使えるけど、制限時間もあるしかなり微妙』
「よし、倒した!」
ひたすら上方向キーと○ボタンを連打してようやく撃破。
そして着地したところを、ウルトと呼ばれることが多い必殺技が直撃してHPが半分なくなった。
まあ、着地とかブーストゲージがなくなったところを狙うのは基本だ。着地狩りだったか。そこが一番隙があるんだから狙うのは当たり前。
2500の機体は無視する。この機体を倒してもコスト的に勝てない。コストが500残ってしまい、コスト3000の機体が万全で2500の機体がHPを五分の一になって再出撃してくる。連続して倒せればいいけどそうはうまくいかない。それならコスト3000の機体をもう一回倒した方が早い。
必殺技ゲージは、溜まってる!
「当たれ、要塞斬り!」
『ナイスぅ!』
『範囲は縦に長いけど横には広くないから当てるのむずいんだよな』
『威力的に当てられたのは大きい。半分くらいHPを削れるのはスルドの火力的にはありがたい』
巨大化したビームソードで相手を吹き飛ばす。そのまま追撃しようと思って追いかけた。
その時。
『あ、相方落とされてる』
「え、ウソ⁉︎コストがもうない!」
『リリ君、後ろ!』
『二対一だ!』
「やば、避けられない!」
移動速度の遅いスルドでは二体からの集中砲火を避けきれずに残りのHPを全て削り切られてしまった。これで合計コスト7000を失ったので負けだ。
久しぶりの対戦となると操作も覚束ないところも出てくる。ネタ機体としては頑張った方だろう。
「というわけでこんな風に戦っていきます。対戦ありがとうございました。コラムーさん、ipkocさん、相方の山村さんありがとうございます。できたら参加した方が部屋を出ていただけるとありがたいです」
『リリ、4VS4の部屋作らないか?観戦者もたくさんいるし、そっちの方が参加できる人間が多いぜ?』
『リリを除けば七人マッチできるしそっちの方が良いだろうな。観戦者が満杯になってるし』
コメントを見てみると三十人観戦できるはずなのにそれが埋まっている。そんなに今このゲームを起動できる人がいたのか。
確かにそれなら対戦者の人数を増やした方が良いだろう。このゲームは最大八人同時対戦ができる。その対戦モードに切り替えよう。
4VS4は単純に陣営のコストが12000という倍になる。コスト1000の機体を全員が選べば12回倒さなくてはいけないためにかなり梃子摺ってしまう。リスナーが参戦したいというなら枠を増やした方が良いだろう。ということで部屋を立て直すとすぐに対戦者が埋まってしまう。
今からはこのモードで戦うことにしよう。
「さーてと、次はどの機体を使おうか。初代のズァークにしようかな?」
『おん?チームメイトのJohn Smithってもしかしないか?』
『いや、どうなんだろうな。だってそれ、イギリス方面の名無しって意味だからそんなユーザーネームにしてる人なんているだろう』
『名前の後ろに公式マークついてるから本人じゃね?』
『リリ君の先輩じゃない?』
「あ、これやっぱりジョン先輩ですか?」
自ら名無しを名乗っているイギリス人、ジョン・スミス先輩。一期後期組の先輩で設定的にはイギリスが日本に送り込んだ国家所属のエージェントだという。その先輩から対話アプリで連絡が来る。
「リリ君、通話繋げて良いかい?」
「良いですよ」
ジョン先輩から連絡が来たのでそう返信する。アプリを起動させてミュートにしてから音を乗せて良いかを確認して配信に乗せる。
「ジョン先輩、聞こえますか?」
「おっ邪魔しまーす!エクリプス一期後期生、ジョン・スミスだゼ!リリ君が告知してたから参加してみた。俺このゲームやるためにゲーセンに通ってたほどだぞ」
「それはやり込み勢ですね。ジョン先輩は何を使います?」
「マイフェイバリット機体、ズァーク・ファントムを使うよ。コスト3000だけど大丈夫?」
「なら僕はコスト1000のジェイムを使いますよ。援護は任せてください」
「OK、任せた」
突発的に始まった同期以外との初コラボ。
ジョン先輩が使う機体は近接がかなり強いオールマイティ機体なので俺は後方から援護できるズァークの作中でよく現れる量産機を使う。ズァークの随伴機になりやすい、ちょっと丸い流線型の機体だ。ズァークはすらっとしているのにジェイムは防御を意識した機体という設定がある。
ズァークが速度で回避するタイプだとしたら、ジェイムは一発二発受けても戦闘続行する自爆特攻を前提とした機体設計だったりする。ゲームではバランス型だけどトラップを設置したり目くらましのスモークを発生させたりとどちらかというと嫌がらせを目的とした機体だ。
ファントムはスルドの完全上位互換と呼べる機体だ。射撃もできる、速度も速い。亡霊の名の通りステルスもできるブラックズァーク。一定時間無敵にもなれるかなり強い機体だ。スルドを使うくらいならファントムを使った方がいい。そう言われるくらい似通っている上に性能が違いすぎる機体だ。
マッチが始まる。
ジョン先輩はひたすら突っ込む。そこに俺がバズーカを放つ。他の人たちも突っ込んだり援護射撃をしたりしている。
「ジョン先輩、とにかく前線をかき乱してください。こっちも撹乱します」
「OK!暴れるゼ!」
ジョン先輩が前線に上がってきた相手にちょっかいをかけまくる。そこに俺がミサイルランチャーとかで牽制をして足止めをして、その足が止まったところにジョン先輩が強攻撃で敵のHPを削る。俺も近付いた時にはビームサーベルを使って攻撃する。
コストが1000の機体はHPや攻撃力が低いので攻撃を当てても撃破には遠い。かなり攻撃を当てないと倒すまでいかないが、HPを削ってくれる相方がいればサポートとしてはかなり向いている機体だ。いざという時は高コストの機体の壁になりコストを守っていくのも必要なムーブではある。
ジョン先輩はゲーセンに通っていたと言う通り、かなり操作が上手かった。攻める時には攻めて、引くところは引くということを理解しているためにサポートしやすい。
「リリ君ごめん、敵突っ込んで来る!」
「インターセプトします!」
突っ込んで来る相手へ近接攻撃を仕掛ける。俺が目の前に現れたことで相手プレイヤーが先に俺を倒そうとするが、ジョン先輩は俺ごと巻き込む形で射撃を撃ち込む。俺のHPが80を切ったために必殺技を使う。
「ジョン先輩、サヨナラ」
「リリー!」
必殺技で自爆するジェイム。相手の機体を巻き込んでコスト3000の相手を落とした。
ズァークでもある一シーンをジョン先輩と再現しながら、コスト1000なので速攻戦場に復帰した。
「ただいまです」
「情緒がねえなあ」
「ゲームですからね。アニメだと主人公を庇うような名シーンなので気になった人は初代アニメの33話を見てみてください」
「今だとDVDかBD?アニメ配信サイトとかにあるかね」
「確か僕たちのサイトにある公式チャンネルで有料サービスがあったはずです」
「一話だけ見るならそれでも良いかもな」
アニメの宣伝もしつつ、マッチは続く。
相手にも現役プレイヤーがいたっぽいけどジョン先輩が上手かったこともあって勝てた。害悪戦法とも名高いトラップに自爆、スモークという戦い方で格ゲーらしくはないものの、ジェイムという機体はあんまり嫌われていない。それ以上に強機体が嫌われる界隈だからだ。
次のマッチからはジョン先輩は観戦しているだけでボイスチャットを繋げながら試合に口を出す。そこだやれ、とか、避けろとかアドバイスをくれたりとか。
結構な回数をこなしたために負けることもあった。一回も同じ機体を使わずに遊び尽くした。あまり使ったことのない機体もあったので操作が覚束ずミスをして負けた試合もあった。大会とかでもなく遊ぶだけだったので咎められることもない。
三時間程度マッチをしたためにそろそろ解散しようとした際にジョン先輩に尋ねる。
「今日は初コラボありがとうございました。ジョン先輩は何か告知とかありますか?」
「水曜日に案件でアーケードコントローラーの配信があるから見てくれよな。今も使ってるけど、これがあるのとないのじゃ格ゲーの操作に雲泥の差が出るさ」
「アケコンですか。憧れますね。僕は普通のコントローラーでやってたので」
「リリ君も買ってみなよ。格ゲー一緒にやろうぜ?」
「ズァーク以外の格ゲーってやったことないんですよね。ソフトも買ってないので」
エクリプスの中で格ゲーをやり込んでいるのはジョン先輩くらいだ。だから格ゲーでコラボをするとしたら外部のVtuberやストリーマーの人とばかりやっていた。俺が格ゲーをやっていたから気になってこうやって顔を出してくれたんだろう。
アーケードコントローラーは筐体にくっついてるのと似たような操作パネルだ。それをゲーム機に繋いで操作できる。そっちを使った方が格ゲーは良いんだろうけど、格ゲーをやり込まないと買う必要もないだろう。
だからジョン先輩には悪いけど当分買うことはないな。
「ああ、後あの告知が出てたゼ。マーダーウルフのコラボ配信」
「あ、出ましたか。じゃあここで告知します。来週の日曜日の夜、エクリプスの男性ライバー八人全員でマーダーウルフのコラボ配信をします。宇宙殺人人狼とも呼ばれるものですね。詳しい時間はまたSNSで連絡します」
初めての大型コラボだ。土曜日の夜に女性ライバー全員で普通の人狼ゲームをやって次の日に男性ライバーで殺伐とした人狼ゲームを行うことになっている。
徐々に、エクリプスの一員になれているだろうか。なれているといいな。
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