第10話 隣町に到着

「やっと到着しましたね!」


 二都とユウミは3日の旅の末。隣町モドルカナに到着した。

 モドルカナは商業の街である、アルクカナよりも店が充実している。

 道は石畳で整備されており、行きかう人々の姿も見える。


 ユウミは旅の疲れを癒す為、宿屋を探していた。

 ギルド設立より前に、まずは体調を整えておかなければ。

 二都が気にしているので、あまり心配かけたくない。


「二都さん。宿屋見つけましたよ。二都さん?」


 ユウミは二都の姿が消えた事に、気が付く。

 先程まで隣を歩いていたはずなのに。

 知らない町で迷子になるほど、彼は愚かではないだろうが。不安である。


「うおお! 都会に出たせいで、発作がぁ!」


 二都は道のど真ん中で、蹲っていた。

 地面を叩きながら、胸を押さえている。


「都会人の田舎者を蔑む目線がぁ! 全員ブチ殺してぇ!」


 二都は頭を抱えながら、発作に耐える。

 田舎育ちの彼は、都会人の事があまり好きじゃなかった。

 その為東京ではたまに来る発作で、良くチンピラをボコっていたものだ。


 二都が頭を地面に打ち付けている。額から血を流しながら、爪で頬を引っ掻く。

 その様子を心配して、一人の少女が彼に近づいた。

 大きな盾を背中に背負い、青い髪の毛をショートにした少女だ。


 二都の背中をすすりながら、発作を抑えようとした。

 彼は少しだけ落ち着いたのか、暴走が収まり始める。


「だ、大丈夫ですか? 具合が悪いのですか?」

「ちゃいますねん! 都会人の嘲笑う目線が、俺にダメージを与えるねん!」

「ここ言うほど都会じゃないし……。冷ややかな目線で見られていますよ……」


 大人しそうで真面目な少女だった。二都の言葉に真剣に付き合っている。

 ユウミは二都に近づき、同じ様に背中をすすった。

 魔法を使って水を精製する。水を熱でお湯に変換。

 二都の顔面に思いっきりぶっかけた。

 

「大丈夫ですよ、お嬢さん。これは田舎特有の発作です」

「いや、何で熱湯かけたんですか!?」

「発作はお湯を欠けて、3秒後に収まります」


 熱湯をぶっかけられた、二都はキリっとしながら立ち上がった。


「本当に治った!? 熱くないんですか!?」

「ああ。西の人間は熱湯に耐えられるよう、鍛えられているからな」


 発作が収まり、二都はいつもの調子を取り戻した。

 戸惑う少女に笑顔を向ける。


「心配してくれてどうも。都会にも君の様な人が居たんだね」


 二都は膝をついて、涙を流した。

 ハンカチで涙を拭きながら、頭を下げる。


「うおおおん! 親切にされたのは人生で64回目だぁ!」

「よく覚えていますね!?  でも基準が分かりません!」

「お礼にこのきゅうりのサンドイッチをあげる!」


 二都はカードの力を解放し、即座にサンドイッチを作った。

 具材はきゅうりとマヨネーズのみという、シンプルなつくりだ。

 渡されたサンドイッチを見ながら、少女はキョトンとしていた。


「ええっと……。これは?」


 この世界にサンドイッチと言う文化が、存在しなかった。

 その為初めてみる料理に、少女を警戒を露にする。


「大丈夫。作り方は俺にも分からないから」

「ええ!? じゃあどうやって作ったんですか!?」

「勘。だから味の保証は出来ない」


 少女は一層、警戒心を強めた。

 だが見た事ない食物への好奇心が、恐怖に勝る。

 軽く一口食べる。マヨネーズときゅうりの風味が、生地にあう。


「意外と美味しいです……」

「そうか。俺の方はマズかったけど」

「いつの間に自分の分を!? しかも中身が唐辛子!?」


 二都は唐辛子のサンドイッチを、食べていた。

 あまりの辛さに、口から炎を吐き出しそうになる。

 

「おお! 体がメラメラする! 温まる!」


 二都がその言葉を呟いた直後。何処かで破裂音が鳴り響いた。

 その音に驚いて、近くの馬車を引いていた馬が暴走を始める。

 猛スピードで少女の方へ走り出した。


「危ない」


 二都は少女を飛ばして、馬車の軌道から外した。

 代わりに二都が馬車の突撃範囲に入る。

 二都は2枚のカードを取り出して、異能力を解放した。


 両手をクロスさせて、突撃する馬車に備える。

 馬車が二都に直撃する直前。彼は馬の頭上へ飛んだ。

 そのまま馬車を引くロープへ、手刀を向ける。


「スキルフュージョン」


 二都はロープを切り、馬の手綱を引いた。

 馬を宥めながら人に当たらない様に、指示を出していく。

 馬が外れた馬車は、建物に真っすぐ建物に向かう。


「馬は助けて、人は助けず」


 馬車は勢いよく、建物に突撃。崩壊した。

 乗っていた人間が瓦礫の下敷きになる。


「ぎゃああああ!」


 悲鳴をバックに二都は、裏路地へと逃げた。

 顔が割れない様に、マスクをかぶる。


「見捨てたぁ!?」


 少女のツッコミが入るのは、その数秒後だった。

 二都は馬から下りて、マスクを被ったまま表に戻る。


「大丈夫ですか!?」


 馬車の下敷きになった人を、二都は救い出した。

 幸い軽傷で済み、瓦礫から人が出てくる。


「あの人凄い、白々しいですね……」


 少女は立ち上がりながら、二都に冷たい目線を向ける。

 馬車の乗客は気づかなかったのか、二都にお礼を言っていた。

 

「君も大丈夫か?」

「はい。けが人は出たみたいですけど……」

「大丈夫、軽傷だ。唾つけて治療した」


 ユウミは思考を巡らせる。先程破裂音がした。

 あれは馬を興奮させるため、誰かが仕組んだものだろう。

 だが町中で馬を暴走などさせて、一体誰が得をするのだろう?


 ユウミは一つだけ、可能性に思い当たった。

 目の間の絵の少女をに怪我をさせるためだ。

 馬に轢かれて、大怪我を負わせようとしたのだろう。


 実際目の二都が居なければ、自分は怪我をしていた。

 目の前の少女が何者なのか、興味を持った。


「ユウミ。そろそろ行かないと、宿屋の部屋が埋まるぞ」

「あ! そうでした!」


 ユウミ達は本来の用事を、思い出した。

 少女の事は気になるが、今は自分達の目的が先決だ。


「あの、宿屋に用があるのですか?」

「うん。旅の疲れを癒す為にね」

「ならご案内しましょうか? 目的地は一緒ですし」


 ユウミはその言葉で、少女が町の人でない事に気が付いた。

 少女を訝し気に身ながら、背負っている盾を見つめる。

 相当の代物だ。村の衛兵見習い、アリスが持つ剣と同等の価値があるだろう。


 アリスが持つ剣には、特別な力が秘められている。

 ならば目の前の少少女の武器も同じのはずだ。

 大人しそうに見えるが、只者ではない。ユウミは彼女への興味を強める。


「二都さん。折角だから、案内してもらいましょう」

「そうだな。まだ助けてあげたお礼をしてもらってないし」


 二都は少女の同行を許可する。ユウミは彼も同じ様に考えだろうと思った。

 少女の正体を探り、この騒動の真実を探ると言う。


「まずは自己紹介からだな。俺は二都。世界を旅する究極の引きこもりだ」

「外に出ているじゃないですか……。私はアオ。イロドリ家の長女です」


 イロドリと言うのが少女、アオの姓なのだろう。

 この世界で苗字を与えられるのは、貴族だけだ。

 ユウミにも苗字はあるが、今は語る事が許されない。


「私はユウミです。魔術師をやっています」


 だから彼女は名前だけを名乗った。

 自分はまだ家の名前を口に出して良い、状況ではないのだ。


「オーケー。自己紹介も終わったし。案内宜しく」

「はい。こちらに来てください」


 アオは戦闘を歩き、二都達を煽動した。

 怪しい動きを見せれば、即座に焼き払う。

 ユウミはその覚悟で術式の容易をしていた。


 隣の二都は全く警戒する素振りをみせていない。

 それが余裕からなのか、単に何も考えていないからなのか。

 いや違う。彼はアオの本質を既に見抜いているのだろう。


 ユウミには何故か、その事が理解出来た。

 まるで昔から彼を知っているかのように……。


「なあ。この町の衛兵大会って、そんなに凄いのか」


 歩きながら二都が、アオに問いかけた。


「何故私に聞くのですか?」

「参加者だろうからな」


 ユウミとアオは同時に、目を見開いた。

 アオは一度も大会に参加すると言っていない。

 彼女の反応から、それが正解なのはユウミにも理解出来た。


「どうしてそれを?」

「町に慣れている。整備されたばかりの武器。特訓で擦れただろう靴」


 二都はアオを観察した結果を、彼女に告げた。

 彼女は鍛錬を積み、強さを得た戦士の一人だと判断。

 その兵士が態々辺境近くの町に来る理由は多くないだろう。


 あまりにも準備万端過ぎるその身。

 二都は大会参加の為に、整えて来たのだと推理した。


「ここは小さな町ですが、大会の規模は大きいです」


 アオは大会参加者である事を、否定も肯定もしない。

 代わりに二都に、高いの重要性を語った。


「ここで優勝すれば、王都で開かれる聖騎士大会への、推薦がもらえます」


 聖騎士団は毎年、大会の優勝者を更に試験を行い入団させている。

 名誉ある聖騎士になる道のりは遠いのだ。

 大会は各地で行われている。その中でもこの町の大会は大きい。


「試すには打ってつけってって訳か……」


 二都は貰った推薦状を、確認した。

 ローブの人物は、自分を試すと語っていた。

 ここで優勝して力を示せば、あの人物の期待に沿える。


「まあ、穏やかな大会になりそうはないな」


 二都は背後に倒れる馬車を見ながら、そう呟いた。

 この騒動が意図的なものである事は、誰の目にも明らかだった。

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