第6話 襲撃の真相

 光夜がゴブリンを撃退したころ。二都はある場所に訪れていた。

 ユウミに案内され連れてこられたのは衛兵の野営地だ。

 村を守る衛兵達は、本日殆どが不在となっていた。

 何でも大規模な討伐隊を結成の為との事だ。


 村に僅かな衛兵だけを残し、半数以上がこの場所に居る。

 衛兵達の野営地は、簡易的に作られた木材の砦だった。


「へえ。“大規模ば討伐隊”の割りに、ケチな野営地だ」


 二都は鉢巻と袴姿で、野営地の入口に近づいた。

 バチを持ちながら、サングラスをかけながら煙の出るアメをなめていた。


「止まれ。今は重要な期間だ。ようがないなら立ち去ってもらおう」

「怪しいものじゃありません!」

「いや、格好からして怪しい! 祭り帰りのギャングですか?」


 衛兵はからかいがてら、笑いながら二都を指した。

 二都はニヤリと笑いながら、衛兵と話を続ける。


「衛兵長殿にお話があります。急を要するお話です」


 ユウミが衛兵に向かって話す。


「誰かと思えば、騎士のなり損ない様ではありませんか」

「では貴方達は田舎ハズレの村のものですなぁ?」


 衛兵達は明らかにバカにした様子で、二都達を笑い飛ばした。

 ユウミがイラっとするが、二都が手で彼女を制する。


「ええ。高いビルも観光地もない。閑古鳥がいつもなく、あの貧乏くさいダメ村です」

「いや。我々も流石にそこまでは言ってないけど……」

「川でザリガニを取っても何の自慢にもならず、ガキ大将に威張られるあの田舎!」


 二都は涙を流しながら、腕で目を隠した。

 自分の故郷と重なるあの村に、二都は憂いていた。

 開拓しようとする意志があるだけマシだが。


「いつも頑固な親父に囲まれて! タダでこき使われて! めっちゃ口が悪い……」

「分かった! 分かったから! 落ち着け!」


 兵士達は一の嫌味に、百の悲壮感が返ってきて慌てていた。

 

「それで。田舎崩れの芋虫が何の用ですかな?」

「蝶になりに来ました」

「我々にも分かる言葉で、話してください」


 衛兵は嫌味が通じないと分かると、溜息を吐いた。

 ユウミはニヤリと笑いながら、してやったりと思った。


「我々の村が凶暴な魔物、ゴブリンに襲われています」


 二都は十円を取り出しながら、語り始めた。

 その動作に何の意味がと、衛兵は構えた。だが何の意味もなかった。

 二都は十円をコイントスする。何の意味もない行動だった。


「村は焼かれ、住民は殺戮の限りを尽くされています」

「ほう。それはお気の毒に。何でコイン増えてんの?」


 二都は手品で十円を増やしていた。

 衛兵は半分話が入ってこないながらも、嫌味な反応を返した。


「我々は命からがら逃げ出しました。貴方方に討伐を依頼したく、お尋ねしました」

「ほぅ。それはご苦労な事で。ですが困りましたなぁ」


 得兵はふと二都のコインに目を向けた。

 何故か五円玉になっており、思わず目を腕で拭く。

 その隙に効果は一円になっていた。


「我々は今後、大規模な討伐を行います。ゴブリンに対処している暇はないのです」

「そんな……! 村は今にも滅びそうです!」


 ユウミが喰ってかかる様に、衛兵に叫んだ。

 その間に二都とは一円を小切手に変えていた。

 衛兵はニヤケて良いのか、戸惑っていいのか判断に迷った。


「衛兵長は多忙の身です。どうぞ、お引き取り下さい。増えるし……」


 二都は小切手を、手に持てない程の十円をに変えていた。

 溜まった十円を袋の中に詰める。


「それじゃあ村は! 村はどうなるんですか! あそこには大勢の人が!」

「うるさい! あんな小さな村が滅びようと、我々には関係ない!」


 二都はそう言いながら、十円の入った袋で衛兵を殴りつけた。


「ええ!? お前がそれ言うの!?」


 衛兵は頬を赤くしながら、戸惑いで怒りを忘れていた。

 十円が溜まっていたため、かなり痛い一撃をくらわされている。


「どうせ田舎なんて……。都会人にバカにされっぱなしさ!」


 二都は故郷を出て、初めて東京に出た時を思い出す。

 あの時は大勢の者に、田舎者と笑われたものだ。

 

「パソコンはないとかアニメで言われるし! どうせ老人ばかりとネタにされるし!」


 二都は悔しさから地面を叩きながら、涙ぐんだ。


「都会に人を集目れば良いとか、心ない事言われるし! 都会人なんて嫌いだ!」

「何言ってんのこの人!? 結局何しに来たわけ!?」


 二都は袋を振り回しながら、暴走を始めた。

 衛兵は止む追えず剣を引き抜き構える。


「島根県舐めんじゃねえぞ! これ島根県で書いたものじゃ!」


 二都は袋から十円を取り出し、衛兵に投げつけた。

 衛兵は剣でガードするが、大勢あるため完全には防ぎきれない。


「痛いって! コイン投げするのやめて!」

「酷い奴らだわ! 彼の心を抉るなんて!」

「誰か衛兵長呼んで! 我々の手には負えません!」


 入口の見張りは大慌てで、野営地の中に逃げ込んだ。

 二都は誰も居なくなったのを確認する。

 

「邪魔者は消えた。燃やすぞユウミ」

「ハイ。赤き光よ。熱を解き放ち、大地を焼き尽くせ。ファラ!」


 ユウミは術式を唱えて、腕を上空に向けた。

 すると彼女の広げた手に、小さな炎が集まって来る。

 集まった炎は一カ所に集まり、やがてスイカ程のサイズになった。


 彼女は魔導士であり、この世界でも上位の魔力を持つものだ。

 その腕を買われて以前はある場所に仕えていたが。

 今は追放されてしまい、村で畑仕事ために魔法を使っている。


 ユウミは腕を振り下ろして、炎を野営地に向かって投げ飛ばした。

 炎は野営地の松明に着弾。同時に大きな爆発をあげた。

 木でできた壁に炎が燃え移る。


「これは何事だ!? 一体誰がこんなぶれいなマネを!」


 他の衛兵より少し上質な鎧を付けた者が現れる。

 顎鬚を生やした男性は、二都達に気づくと目を鋭くさせた。

 二都は負けじと彼を睨みつける。


「貴様ら……! こんな事してタダで済むと思っているのか?」

「まあ人的被害費くらいは出してやるよ。でもアンタの悪行に比べれば可愛いものだ」

「私の悪行だと! この上で無礼を重ねるか!」


 偉そうな態度が、二都は癪に障った。こいつはぶっ飛ばすと、心の中に決める。

 二都はニヤリと笑いながら髭の男、衛兵長と向かい合った。


「実は俺らシスターの下で働いていてね。食事も彼女に提供されているのですよ」

「それが何だ?」

「そこで村の食事情を聴いたんだよ。あの村は肉が中々取れないそうだな?」


 開拓されて100年足らず。農業の村となっていた。

 村人は殆どが農民で、実質自給自足の生活をしているのだと言う。

 食事は野菜と釣れる魚がメイン。家畜は居るが、食用の肉にはありつけない。


 それが村の実情だった。他の町に作物を売ると、自分達の食べる量がなくなる。

 その為早急な開拓と、牧場の整備が必要となっている。

 二都は昼頃、そんな事情をシスターから聞いていた。


「なのによ。今日の夕食は、随分豪勢な肉料理だったぜ。教会は食わなかったけど」

「何が言いたい? 俺は忙しい身でね。手短に頼むよ」

「おいおい。俺らは感謝に来てんだぜ。あの肉は衛兵隊が、村人に寄付したそうだな」


 二都はニヤリと笑いながら、衛兵長を見た。

 シスターは衛兵長を、前から快く思っていなかった。

 その為寄付を怪しみ、二都達に調査を依頼していたのだ。

 

「眠剤入りの肉を、ありがとよ。おかげで村人はぐっすりだ」

「そりゃどうも。おかげでみんな苦しまずに、逝けたと思うけどなぁ?」


 悪びれる様子もなく、衛兵長は認めた。

 自分が寄付した肉には、睡眠薬を混入していた事を。

 腐るから今日中に食べろと村人に指示していた事を。すべてあっさりと吐いた。


「テメェ、自分が何をしたのか分かっているのか?」


 二都は手を鳴らしながら、怒りを露わにした。

 

「あんな小さな村が焼き払われた所で、誰も何も思わんよ」

「だろうな。そうやって寂れて、潰れた村は何処にでもある」


 二都の故郷も人口減少によって、危機的状況にあった。

 漁業を継ぐ者が居なくなり、若者は全員都会に行く。

 残された老人が、コンビニもない島で余生を過ごす。


 そんな状況に罪悪感を抱きながらも、二都も都会に出た。

 玉ねぎ星人が襲撃されるまでは、手伝いに帰省したりもした。


「だがな。目的が見えないんだよ。ゴブリンを利用して村壊して。お前の目的は?」

「ふん! 我々とて、こんな田舎を守る衛兵隊になど守りとぉないわ!」


 ゴブリン達は衛兵の目をすり抜けたのではない。

 衛兵がわざと進軍させて、殺戮を計画していたのだ。


「俺のシナリオはこうだ。ゴブリン達に村を滅ぼさせる!」


 まるで武勇伝でも語るかのように、衛兵長は悪行を話し始めた。

 二都は怒りを拳に宿しながら、嘲笑うように彼を見つめた。


「これで我ら衛兵隊はお役御免! この田舎から解放される」

「そうか? 村を守れない失態をしたなら、島流しにでもされそうだがな?」

「どうかな? ゴブリンの進撃を防いだとなれば、我々は寧ろ賞賛されるだろう!」


 わざとゴブリンに村を襲わせる。村人が全滅した後で、ゴブリンを討伐する。

 衛兵隊の力を見せつけると同時に、邪魔な村を滅ぼせる。

 衛兵長にとっては一石二鳥だった。ユウミが殴りたい衝動を、グッと我慢する。


「テメェらは自分が昇進したいために。村一つを滅ぼしたってか?」

「名誉ある我らの為に犠牲になれたのだ。命に価値を付加した事を、感謝して欲しい」


 ニヤニヤと笑いながら、二都達を見下す衛兵長。

 二都もユウミも話しを続けるために、腹の炎を収めた。


「貴様らの様な世間知らず。我らの為に命を投げ出すのが相応しい!」

「ふぅん。ちなみに俺らが見た限り、ゴブリンは二十を超える数だったが?」

「なんだと……?」


 衛兵長は笑みを引っ込めた。


「ゴブリンは、この数で倒せる程雑魚なのか? それともアンタらが強いのか?」

「ちぃ……。残念だが我らでは三匹が限界だな」

「だろうな。どうやら利用されていたのは、そっちのようだ」


 二都はトランシーバーを取り出した。異世界では携帯が使えない。

 その為通信はトランシーバーで、行っていた。

 装備はそのままだった為、二都達は専用のトランシーバーを持っていたのだ。


「こっちは確認取れた。そっちの様子は? まだ戦闘中か?」


 二都が無線を飛ばしたのは、当然光夜だ。

 初めてみるトランシーバーに、衛兵長は首を傾げた。


『終わってますよ。ちょっと脅したら、全員帰宅しました』

「何だあれは? 人の声が……? 新しい妖術か何かか?」

「ご苦労様。こっちも直ぐに片付ける」


 驚く衛兵長を見て、ユウミは少しだけ優越感を抱く。

 自分は既に見ているので、特に驚きはしない。


「残念だがアンタらの計画は壊れた。たった今、俺の後輩が、ゴブリンを退けたぞ」

「それも村に入る前にね。私達が何も手を打たないとでも思ったの?」

「くっ……。そんな馬鹿な……。見習い達でゴブリンを止められる訳が……」


 衛兵長はここで顔をしかめた。

 二都達はしてやったりと、笑みを浮かべる。


「悪かったな。アンタから情報を引き出す為、嘘の情報を流させてもらったぜ」

「そんなはずは……。ゴブリンを騎士以外が止められるはずが……」

「嘘だと思うなら、村に向かえば良い。まあ行かせる気はないけど」


 二都は拳を握りしめて、構えを取った。


「正直、クズ野郎で安心したぜ。ぶっ飛ばすのに躊躇がいらないからな!」

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