第三十二話 カワカミプリンセスには負けない
〜
「カワカミプリンセス! あなたには負けないのだから!」
私は声を上げながら1位争いをしているカワカミプリンセスを追いかける。
騎乗しているローブデコルテに鞭で叩き、速度を上げるように促す。そして全速力に近い状態になるように指示を出した。
絶対に負けられないわ。あんなことを言われてしまった以上、私は絶対に負ける訳にはいかない。
最後の直線を走る中、私は第4コーナーを曲がる前に起きた出来事を思い返す。
「いくら馬同士が交配関係であり、史実だったとしても、同じ名前の人間を交配相手と言うようなクレイジーな方は、お近づきになりたくないですわ!」
けれど彼女は当然の反応のように拒否をする。
チッ、あの変態を押し付けることに失敗したか。でも、当然の反応と言えば当然の反応でしょうね。もし、今ので『素敵な人』なんて言ったら、自身の耳を疑うところだったわ。
「そう言えば、騎士様のお名前を聞いてはいなかったですわ。わたくしは真名を明かしましたが、騎士様の真名を教えてくれません?」
「それは無理だ。せっかく真名を教えてもらったところ悪いが、俺は真名を明かすつもりはない。それは俺に取って不利益となることだからな。だが、相手から何かしらの行為をしてもらったのにも関わらず、自分は何もしないと言うのは失礼だ。だから二つ名の方だけは教えておこう。俺の二つ名は――」
「7センチのトラウマよ!」
二つ名が【7センチのトラウマ】なんて格好悪いもの。きっと彼女は幻滅するはず。
でも、完全に嘘ではない。エアシャカールは
格好悪い二つ名ではあるが、嘘ではない。
「7センチのトラウマ……と言うことは、騎乗しているエアグルーヴが真名と言う訳ではないのですね。素晴らしいですわ!」
「え?」
素晴らしいと言い始めた
何が素晴らしいの? だって【7センチのトラウマ】なんてダサい二つ名なのよ? まぁ、勝手に私が作っただけなのだけど。
「多くの霊馬騎手が契約できるのは、名に縁のある霊馬1頭が基本になっています。2頭以上と契約できているのは、霊馬騎手のエリートである証拠! ますます、わたくしの騎士様になって欲しいですわ!」
彼が別の馬とも契約していることを知った彼女は、興奮気味で声を上げる。
しまった。幻滅させようとしたのに、逆効果となってしまった。
このままではまずいわね。なんとかして幻滅させないと色々と障がいとなってしまうわ。
私は必死に頭を使い、彼への興味をなくすようにならないかと考える。
すると、あることを閃いた。
本当はこんなことは言いたくないのだけど、背に腹は代えられないわ。
一度深呼吸をして覚悟を決めると。握っている鞭の先端を
「今言った7センチとは、馬のことではなくって彼のあれのことよ! 最大でも7センチしかないの! 彼はそれがトラウマなのよ」
「そんな訳があるか!」
私の言った発言に対して、直様
ああもう! どうして私の作戦に協力してくれないのよ! 私は貴方を籠絡させようとする悪女から守ってあげようとしているじゃないのよ!
直ぐに作戦が破綻し、心の中で叫ぶ。
『小僧! 小娘たちの言葉に翻弄されるな。お前の判断ミスが勝敗を大きく分けるのだぞ』
「分かっている。くそう。こいつらの近くにいるとペースが乱れてしまう。さっさと前に出るべきかもしれないな」
どうやら私の発言が敵を惑わすための作戦だと思われたようで、エアグルーヴが注意を促してきた。
そうじゃないの! 別に貴方の邪魔をしようとしたつもりではないのよ! どうしてやる事成すことが裏目に出てしまうのよ!
思い通りに上手く行かない展開に、心の中で嘆いてしまう。
「もう直ぐ最終直線ですわね。そろそろ本気の勝負をかけさせていただきますわ。もし、わたくしが1着でゴールした場合、騎士様にはわたくしの騎士様になっていただきます。カワカミプリンセス、行きますわよ」
『
『ここでカワカミプリンセスも上がって来た! 先頭はメジロラモーヌのままだが、ダイワスカーレットに並ぶ!』
一気に加速してダイワスカーレットに並んでしまった。でも、負ける訳にはいかないわ。あの女が1着を取ってしまったら、
「ローブデコルテ加速よ!
ローブデコルテに鞭を打ち、アビリティを発動して加速させる。
「絶対に負けてなるものですか!」
私は声を上げる。前に進んだことで、視界の端に
「カワカミプリンセス! あなたには負けないのだから!」
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