第十六話 嘘だろう!そんなバカな!
〜新堀学園長視点〜
『ここで3番手だったホッコータルマエが一気に追い抜く! エスポワールシチーを躱し、先頭に躍り出た!』
「いっけー! ホッコータルマエ!」
ワシは本日行われるかしわ記念のレースを見て、単勝がけをしていたホッコータルマエを全力で応援していた。
「いっけー、いけいけゴーゴー、タルマエ! おっせー、押せ押せ、押せ押せタルマエ!」
まるで甲子園の応援の如く、いつもよりも声を上げる。
このまま行けば、ホッコータルマエが1着を取って馬券が的中し、更に帝王が敗北してワシの経営する学園に転入する。まさに良いことずくしだ。
ホッコータルマエとハルウララの差は2馬身、ハルウララ如きが0.4秒の差を縮めて勝ちに行くことは不可能だ。
ホッコータルマエとは格が違うのだよ。生まれながらにして持った転生の才能がな。
このまま行けば間違いなくホッコータルマエの勝利でゴール板を駆け抜ける。そう思っていた。
だが、ゴール直前に、ホッコータルマエに騎乗している観光大使がいきなり落馬をしやがった。
「はぁ?」
思わず声が漏れてしまう。衝撃の出来事に、開いた口が塞がらなかった。
あいつ何をしている? どうしてゴール直前で落馬なんかした?
ゴール板に鼻がとどいた段階で落馬したのなら、まだ許される。だが、ゴール板に届くまえに落馬したのであれば、失格となってしまう。
「くそう。こうなったら最悪の事態を考えた方が良い。馬券が外れたとしても、帝王を負けさせろ!」
最悪の事態を考え、大きく息を吸い込む。そして息を吐くと同時に言葉を吐いた。
「いっけー、いけいけゴーゴー、シチー! おっせー、押せ押せ、押せ押せシャア!」
ホッコータルマエが失格となった場合のことも考慮し、今度はエスポワールシチーとシャアを応援する。
「かしわ記念3勝の実力を見せろ! エスポワールシチー! 生前の無念を晴らす時だ! まだ勝負は決まっていないぞ! シャア!」
ワシは2頭の馬を全力で応援した。
だが、ワシの応援は彼らには届かなかった。
画面越しにも分かる。僅かの差でハルウララが前に出ていた。
『エスポワールシチー、ハルウララ、シャアの3頭が並んでゴールイン! しかし僅かにハルウララが前に出ました。さぁ、判定の結果はどっちになるのか、ホッコータルマエか、それともハルウララか』
実況者の言葉で確信した。ハルウララが2着(仮)となった。ホッコータルマエに騎乗している観光大使が、落馬していたタイミングでゴール板にとどいていなければ、失格となる。
頼む、今回ばかりは普段信用していない神にも祈らせてもらう。ホッコータルマエが1着であってくれ!
『えーゴール前の写真判定の結果、ホッコータルマエに騎乗していた騎手がゴール前で落馬していたことが判明しました。そのため、順位を一つ繰上げ、ハルウララが1着となります。払い戻しの際はお気をつけください』
「くっそー!」
ホッコータルマエが失格となったアナウンスを聞き、声を張り上げて頭を掻き毟る。
「観光大使! テメー! どうして落馬なんてものをしやがった! 落馬しなければ勝っていただろうが!」
怒りの感情が爆発して思わず声を張り上げる。今回の敗北は納得できない。勝っていた勝負を自ら投げ出す様なものだ。
直ぐにタブレットを操作して公式サイトにアクセスし、先程のレースを見返す。
そしてホッコータルマエに騎乗している観光大使が落馬するタイミングで一時停止し、スロー再生で何が起きたのかを確認する。
目を大きく見開き、些細なことも見逃さないようにした。すると、あることに気付く。
こいつ、何か布切れの様なものを取ろうとしていないか? まさか、あの布切れを取ろうとして落馬しやがったのか?
「ふざけるな! たかが布切れ1枚のために、ワシの馬券を紙屑にした上で、帝王の転校の邪魔をしたと言うのか!」
衝撃の事実に、再び声を荒げる。
「これは許されない行為だ。観光大使には、戻ってきたら、6日間の停学処分だな」
本当は30日間の停学処分と行きたいが、それはさすがにやり過ぎだろう。他の関係者から苦情が来るかもしれない。
あれが事故による落馬であれば仕方がないとワシも思う。だが、あれは故意による落馬だ。競馬界において、故意の落馬は八百長疑惑を発生させてしまう。
変な噂が立ってワシが動き辛くなるのは避けたい。だからこそ、6日間の停学処分とし、騎乗停止させるしかない。
これは仕方がないことだ。別に馬券を外し、帝王の転校を阻まれた腹いせにやっていることではないのだ。
あくまでも世間的な問題に発展させないための処置にしか過ぎない。
「くそう。せっかく抽選を弄って帝王を勝率0パーセントの枠番にしたと言うのに、台無しではないか。だが、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。次に切り替えるとしよう」
次に帝王が出走するのは
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