第三話 とある休日の帝王の競馬ゲーム③

『ゲートが開きました。おっと、スケベニンゲンが出遅れましたが、それ以外はまずまず揃った出だしです』


 ゲートが開き、一斉に競走馬たちは走り出す。


 このゲームは、オートで進行するので、プレイヤーはただ結果を見守るしかない。霊馬競馬のように、アビリティを使って一発逆転なんて言うことにはならないので、育成時のステータスで、ある程度の勝敗は決まってしまう。


『先頭はツイホウキシュとレイバショウカンが競り合っております。その後ろをキララカサブランカとサンキューコアラ、そしてスピークチャート』


『2馬身離されてズールペッパとヒースアンティネアが追走、外からオービアジャスミンが追いかけてきます。その後ろを好位に付けたのがユーナライ、その後方をブレーブパレードが様子を伺っている感じか』


『それから1馬身差でビューパージュペルとネココネコロガールが追走。ウーリーロングは後方に位置取りしております。その後ろをエンディアベッピン。オイルアンクシャスとニージョジョ。2馬身離されてリーヴハイツ。その後ろをスケベニンゲンが追いかける展開となっています』


 リーヴハイツは追い込み馬だ。序盤は後方の位置取りで良い。


 ポイントは、最後の直線で追い抜ける様に、上手く外枠に移動できるかがポイントだろうが、そこは騎手の能力に任せるしかない。


 でも、一つだけ心配なことがある。いつもは実在する騎手にリーヴハイツを任せているが、今回はプレイヤーの娘である唯だ。


 彼女は騎手歴3年でG I3勝させているとはいえ、彼女の技術力はまだまだこれからと言うような評価だ。


 今回の対戦相手はNPCではなく、プレイヤーが育てた馬たちとの競争だ。


 上手く騎乗する馬の能力を引き出してくれると良いのだけど。


 それにしても、最後方にスケベニンゲンが追いかける展開になっているとは、まるで競走馬たちが変態に追いかけられているように思えてしまう。


『各馬、最初のカーブを曲がり、これから偽りの直線、フォレスストレートに差し掛かります。最後方にいたスケベニンゲン、ぐんぐん追い上げてきた』


 いつの間にか、スケベニンゲンが先頭集団に入ってきていた。


 ここで速度を上げてきたと言うことは、それなりにスタミナを持っていると言うことなのだろう。


 俺のリーヴハイツも追い越し耐性に入った様で、内から外へと移動を始めている。


『ここで先頭はスケベニンゲンに変わりました。リードは1馬身』


 最後方にいたあの馬がまさか先頭に立つとは。今度は何かをミスしてしまい、みんなからの制裁から逃れようとしているように見えてしまう。


『さぁ、偽りの直線、フォレスストレートを抜け、最後の直線に各馬が入ってきます。先頭はスケベニンゲンのまま逃げる。まだ逃げるスケベニンゲン。逃げ続けるスケベニンゲン』


「ブッ!」


 いかん。思わず吹き出してしまった。ゲームとは言え、実況者が平然とスケベニンゲンを連呼する光景は、笑いを誘ってきやがる。


 レースの結果を見守っていると、後方から俺のリーヴハイツが速度を上げ、最終直線へとやってきた。


 すると、馬と騎手の動きがスローモーションとなり、その後通常通りの速度でゲームが進行する。


「よし、勝負どころが発動してくれた」


 最終直線に馬が入ると、今の様な演出が起きる。


 馬や騎手の能力が低いと発動しない場合もあるが、今の演出が入ると、最終直線で速度を上げてくれるのだ。


 これが発動するかどうかで、1着を取れる期待値が変化する。


 絶対に1着を取れると言うものではないので、最終的には運となるが、発動してくれるだけで安心感が違う。


『先頭はスケベニンゲン、その後ろをリーヴハイツが追いかける。その差は1馬身』


「行け! リーヴハイツ! そのまま差せ! あんな珍名馬なんかに負けるな!」


 ゴールが近くなり、思わず声が出てしまった。


『残り200! 先頭はスケベニンゲン、粘る。まだ粘る。リーヴハイツ、万事休すか』


 俺のリーヴハイツが差しきれないだと! どれだけ化け物なんだ。あの馬は。


『ゴールイン! 凱旋門賞を勝利したのはスケベニンゲン! 2着、リーヴハイツ。3着ネココネコロガール』


「嘘だろう。俺のリーヴハイツが負けるなんて。セーブ&ロードを繰り返して作った無敗の絶対王者が、あんな珍名馬なんかに」


 おかしな珍名馬に負けた俺は、ショックでしばらくの間放心してしまった。


 スケベニンゲンのプレイヤーって、いったいどんなやつなんだろうか。


ショックを受けていると、画面が切り替わる。そして秘書との会話パートに入った。


『リーヴハイツは残念な結果でしたが、あのスケベニンゲンと競り合って宿舎は大盛り上がりでした。この2頭は良いライバルになりそうですね』


「スケベニンゲンとライバルになりたくねぇ!」


思わず声を張り上げてしまった。







 〜ハルウララ視点〜






『やった! やった! スケベニンゲンが勝った! さすが私が育てた馬だ!』


 育てた馬が勝利してくれたことで、嬉しくなった私はその場で飛び跳ねる。


「もう! ハルウララ! 私のデータで変な名前の馬を作らないでよ! しかもスケベを冠名にしているせいで、これから誕生する馬の名前は全てスケベから始まってしまうじゃない!」


 喜んでいる中、クロちゃんが声音を強めて叱ってきた。


 実は、クロちゃんにお願いして彼女のゲームで遊ばせてもらっていたんだ。


『なるほど、全てスケベから始まってしまうのか。最後がスカーレットならスケベスカーレット、マーチャンならスケベマーチャン。クロならスケベクロになる訳だね』


 全ての馬がスケベから始まる。


 もし、そんな馬が名牝系や系統産駒となってしまったら、カオスな世界観が誕生してしまうだろうね。


 まぁ、そんなパラレルワールドも面白いかもしれないね。ゲームだから、いくらでもパラレルワールドは作り放題だ。


 やろうと思えばこの私、ハルウララが名牝系になることだってできる。


「このデータは消しておくわね。もう、最初から遊ばないといけなくなっちゃったじゃない」


 クロちゃんの言葉に、衝撃を受けてしまう。


 データが消される。つまり、スケベニンゲンが消える。


『待って! それだけはしないで! スケベの後にニンゲンって言葉がランダムで選ばれるなんて奇跡、もう二度と起きないのかもしれないんだよ! 一生分の運を使ったかもしれないんだから、それだけはやめて!』


「こんなことに、一生分の運なんて使わないでよ! 何を言われても、セーブデータは消すから」


『お願いだから許して! 一生のお願いだから』


 私はスケベニンゲンと言う存在が居たと言うことを、後世まで残したい思いで、必死に争う。


「一生のお願いって、何度でも言えるのよ。そんなので利いてあげる訳がないでしょうか」


「セーブデータのスロットに空きがあるじゃない。新たにそっちで再始動すれば良いでしょう!」


「私のゲームに、スケベなんて言う冠名があること自体が嫌なの」


「お願い! お願い! 今度帝王がクロちゃんと2人きりで遊べる様にセッティングしてあげるから!」


「て、帝王と2人きりで遊ぶ。それってデート?」


 お、この反応。まずまずと言った感じだね。よし、このままゴリ押しだ!


 その後、私はクロちゃんを口説きまくって、どうにかスケベニンゲンのデータを死守することができた。


 ふぅ、危ない、危ない。帝王を犠牲にしても、スケベニンゲンが存在していたと言う証を後世まで伝えなければね。

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