第八話 真犯人の正体

 〜東海帝王トウカイテイオウ視点〜


『では、言いましょう。帝王に罪を擦りつけた犯人は、この中に居る!』


 俺に罪を擦りつけた真犯人はこの中にいると言われ、俺は大気釈迦流エアシャカール周滝音アグネスタキオンの方を見た。


「そんな! まさか大気釈迦流エアシャカールが下着泥棒だったなんて、幼馴染が犯罪者だとは知らなかった。警察に連行されても、面会には行って上げるからね」


「どうしてそうなるんだ! 俺は犯人ではない。寧ろ、俺からしたら周滝音アグネスタキオンの方が犯人だぞ!」


「僕が犯人? そんな訳ないじゃないか! 娘の大和鮮赤ダイワスカーレットちゃんを悲しませるようなことをする訳がないだろう!」


「いや、あなたの娘ではないから」


 大気釈迦流エアシャカール周滝音アグネスタキオンがお互いに犯人だと言い合い、大和鮮赤ダイワスカーレットがポツリと突っ込む。


『2人は変態風紀委員だけど、犯人ではないよ』


「「誰が変態風紀委員だ!」」


 ハルウララの棘のある言葉に、大気釈迦流エアシャカール周滝音アグネスタキオンは素早くツッコミを入れる。


 うん、2人ともある意味仲が良いな。


「ゴホン。俺たち男が犯人ではないと言うと、残されたのは女性たちと言うことだが」


 大気釈迦流エアシャカールが愛馬先生、クロ、そして大和鮮赤ダイワスカーレットに視線を向ける。


「俺としたことが、とんだ思い違いをしていたようだな。良く考えれば、一番アリバイの無いのは愛馬先生、あんただ」


「私ですか! 私ではないですよ! どうして生徒の下着を盗んで、それを東海帝王トウカイテイオウ君の鞄の中に入れないといけないのですか!」


 アリバイがない愛馬先生が犯人だと決めつけられ、彼女は狼狽しつつも否定してくる。


『そう、彼女は犯人ではない。そろそろ、変態風紀委員1号で遊ぶのも飽きちゃったし、ここで真犯人を教えましょう』


 真犯人を告げる。そう彼女が言った瞬間、俺は生唾を飲み込んだ。


『犯人は、この私! ハルウララだ!』


「「「「「「何だってええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」」」」」」


 彼女の告白に、俺たちは衝撃を受け、声を上げてしまった。


「おい、どう言うつもりだよ。どうして、お前が俺の鞄の中に、クロの下着を入れたんだ?」


 予想していなかったカミングアウトに驚きつつも、彼女に尋ねる。


『言っておくけれど、クロちゃんの下着を間違えて帝王の鞄の中に入れたのは私だけど、盗んだのは私じゃ無いから』


「はぁ?」


 彼女の言葉を聞き、頭の中にクエスチョンマークが浮かび上がる。


「そう言えば、ハルウララは、帝王に罪を擦りつけた人がいるって言っただけで、私の下着を盗んだとは、一言も言っていないわね」


 何がどうなっているのか訳がわからなくなっていると、クロが先程ハルウララが言ったセリフを反芻した。


 確かに、ハルウララはそのように言っていた。つまり、彼女は何かしらの経緯でクロの下着を入手し、クロと俺の鞄を間違えて入れてしまったことになる。


『では、カミングアウトも終わったところで、彼女の下着を盗んだ犯人だが、アレを裁くことはできない』


「どう言う意味だ?」


「だって、クロちゃんの下着を盗んだのは、人間ではない別の生き物だから」


「何だって!」


 犯人は人間ではないと告げられ、俺は驚く。


 つまり、クロは噂の下着泥棒から盗まれた訳ではないと言うことだ。


『それでは、どうして。私の手元にクロちゃんの下着が来たのか、その経緯を説明しよう。まず、事件現場の女子更衣室は、当時空気の入れ替えのために僅かに窓を開けてあった。そして女子更衣室の上には、カラスの巣がある』


 説明を始めるハルウララだが、彼女の言い分からして、カラスが犯人なのだろう。


『そしてカラスは巣の材料になるものを探し、女子更衣室に忍び込んだ。カラスは光るものを持って行く習性がある。きっと、誰かが光る物を持っていたのだろうね。カラスが侵入したと言う証言も得ているし、その証拠に、窓のさんには新しい引っ掻き傷のようなものがあった』


「私が女子更衣室を出た後に、そんなことがあったんだ」


『カラスが女子更衣室へと侵入したことで、内部ではパニック状態が起き、カラスを追い出そうと着替え中の女の子たちは奮闘したけれど、その時にクロちゃんのロッカーが開いてしまったのだろうね。仕方なく、カラスは戦利品としてクロちゃんの下着を盗んだ。多分、光を反射する何かが付いていたんじゃないのかな?』


「確かに、キラキラと反射するビーズのような装飾がされてあるものだったけれど、うう」


 クロが顔を赤らめて光るものが付いていたことを認める。


 彼女からしたら、公開処刑のような状況なのだろうな。


『戦利品を手に入れたカラスだったが、その時カラスの体には、女子更衣室から投擲されたモブ子の石が当たってしまい、下着を手放してしまった。その後、私の前にクロちゃんの下着が舞い降りたと言う訳だよ』


「なるほどねぇ、それでお祭り娘の下着がハルウララの手元に来てしまったと言う訳ね」


『そう、そして拾った私は下着の匂いを嗅ぎ、クロちゃんの物だと分かったから届けようとした。だけど偶然にも教室に忘れ物をした生徒が入って来てね。このままでは私が下着泥棒だと思われるから、慌てて鞄の中に入れたの。それをついさっき思い出した』


 いや、ぬいぐるみが女の子の下着を持っていたとしても、それだけで下着泥棒だとは思わないだろう。


 つまり、ハルウララがバカをやらかした結果、俺が冤罪をかけられたと言う訳だ。


 もっとも、カラスに入られるような隙間を作っていなければ起きなかったことだが。

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