第十六話 レース内で起きた出来事
『俺はゲート入りをした後は、何事もなく落ち着いたままゲートが開くのを待っていた。だが、ゲートが開いた瞬間に尻尾を掴まれたんだ。驚いた俺は反射的に暴れてしまい、気がついたらお前を振り落としていることに気付かないで、そのまま走っていた』
ゲートが開いた瞬間に、尻尾を掴まれたのか。それは驚いても仕方がない。だけど。
「誰よそいつ! 悪質じゃない。これは完全なる妨害だわ!」
ダイワメジャーの言葉を聞いた
『やっぱり、私が睨んだ通り、これは事故ではなく事件だった訳だね』
まだ探偵ごっこをしているのか、ハルウララはオモチャのパイポを咥えたまま事件だと結論づける。
「怪しいのは、ダイワメジャーを担当した
「そうだな。今回は知り合いの
いつも担当してくれていた
どっちにしろ、真相を知るには、レース開始直後の映像を調べる必要があるな。
頭の中で思案していると、
「妹よ、どこに行くんだ? トイレか?」
「帰るのよ。あのレースが事故ではなく事件だと知った以上、絶対に犯人を見つけてみせるわ。また明日の夜にでも顔を見せに来るから」
帰宅すると
「それでは、俺もこの辺で帰らせていただきます。お大事に」
「あ、
軽く会釈をして病室から出ようとすると、
兄の言葉に
「
彼の言葉に思わずハッとする。
そう言えば、俺が呼び出された理由はまだ聞いていなかった。彼の落馬の話が衝撃的すぎて、そのことが頭から抜けていた。
「実は、妹が君の話を良くするんだ。君のことを話す時はいつも笑顔で話すんだ。妹を笑顔にさせる存在がどんな者なのか知りたくって、わざわざ呼び出したんだ」
「俺が側にいてやれない時は、妹を頼んだ。妹が落ち込んでいる時には、俺の代わりに支えてやってくれると誓ってほしい」
「分かりました。お兄さんが側に居ない時は、俺が彼女を支えると誓いましょう」
「そうか。そうか。引き受けてくれるか。その言葉を聞いて安心した。今日から俺たちは
サラッと暴力を振るう宣言をされてしまったな。ちょっとシスコン要素のある人なのか? まぁ、友達として気を付けていれば、彼女を泣かせるようなことはないだろう。
それにしても、俺を弟分のようにして接してくれるとは、まるで三国志の劉備たちのようだ。
「さて、誓いを立ててもらったところで、これ以上妹を待たせる訳にもいかないだろう。さぁ、この後は2人の時間を楽しむが良い。夜はこれからだからな」
確かに夜はこれからだが、このまま学生寮に戻るだけなのに、いったい何を楽しめと? それに、彼女は既に病院から出て行っているかもしれないのに。
彼の言葉の意味が分からないまま、俺は扉を開けて廊下に出る。
「やっと終わったのね」
すると
「ねぇ、兄さんと何を話していたの?」
「別にたいしたことは話していない。妹を宜しく頼むと言われただけだ。後、
支えてやる約束関連はなんだか言うのが憚れたため、それ以外のことを話す。すると、何故か
「そ、そう。兄さんが……へ、へぇー」
なんだか彼女の頬が赤くなっているようだが、風邪でも引き始めているのだろうか。
そんなことを思いながらも、俺たちは帰路に着く。
落馬事件に巻き込まれてしまったし、知らぬ存ぜぬではいられないだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます