第5話 もっと君を知りたい

 シスコン辞める発言を撤回した翌日。俺は渚と一緒に登校する事にした。彼女の朝の弱さはどうしようもないので、俺が登校時間を遅らせた。


「お兄ちゃんと一緒に登校できて嬉しい♡」


「喜んでくれるのは俺も嬉しいが、腕にしがみ付くのはちょっと…」

いろんな人がジロジロ見ているぞ。


「そんなの気にしなくて良いじゃん。悪い事してないんだし♡」


妹なのにメンタル強いな。俺が弱すぎるだけかも…?



 一緒に下校するために校門で待ち合わせる約束をしてから、昇降口あたりで別れる俺と渚。その後いつものように教室の自席に向かうと、水寺さんがスマホを観ながら席に着いていた。


「おはよう荒波君。いつもより遅いね」


「今日から妹と一緒に登校する事にしたんだよ。そのせいだ」


「そうなんだ。どうして今まで一緒じゃなかったの?」


「…中学のトラウマかな。一緒に登校してるのを、当時のクラスメートにからかわれた事があったんだよ」


「ひどい人がいたんだね…」


「だが、いつまでもそれに縛れるのは嫌だからな。何とか踏ん切りをつけたんだ」


「そっか。妹さん喜んでくれたんじゃない?」


「だいぶな。正直照れ臭いが…」


「兄妹仲良くしたほうが良いよ。私にも妹がいるんだけど、同性だからつい口を出しちゃって…」


「水寺さん妹いるの?」

初めて知ったな…。


「うん。真由まゆっていうの。学年は中3だよ」


「へぇ~」


水寺さんとこんなに話せるとは予想外だ。昨日の渚の件がプラスに働いて良かったぞ。…そういえば、何で彼女は自分の席にいるんだろう?


普段は好口さんの席あたりにいるはずなのに…。俺は早速そのほうをチラ見した。あれ? まだ登校してないのか。


「薫ちゃん…好口さんは今日体調不良で休みなの。だから暇してて」


だから俺とのおしゃべりに時間を割いてくれたんだな。


「良い機会だから荒波君の事もっと教えて。私の事も教えるから」


「ああ…」

妙に積極的なような気がする。考え過ぎか?



 それからというもの、休憩時間に話をする俺と水寺さん。常時話してる訳ではなく、結構途切れたり間が空いたりしたが、会話量自体は多かった印象だ。


昼休みは別々に弁当を食べた。1人でのんびり食べたかったから声をかけなかった。水寺さんも同じ気持ちだから誘わなかったんだろう。



 そして放課後。校門に向かうと、既に渚は待っていた。


「悪いな、待たせちゃったか?」


「そんな事ないよ。あたしも来たばかりだから」


この返答って結構王道だが、本当に来たばかりのケースはどれぐらいなんだろう? なんて事を、2人並んで歩いている時に考えていると…。


「今日の水寺さんどうだった?」

渚がよくわからない事を訊いてきた。


「どうって言われても…」


「いつもと違った事なかった? どんな事でも良いから」


渚は何を気にしてるんだ? 意味が分からないが、一応言っておくか。


「いつもより俺と話してくれる時間が多かったな。まぁ、彼女の友達が欠席したせいなんだけど…」


要は暇つぶしだ。仮に明日も好口さんが欠席しても、同じようにはならないだろう。


「本当にそれが理由なのかな?」


…さっきから渚の態度が意味深なので、この際しっかり訊いておこう。

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