第51話
「大丈夫かい?」
真に受けたメルティは、こくんと右隣に座るルイスの問いに頷いて答えた。
(どうしよう。世間から見たら犯罪者の親族なのね)
「私は、このままルイス殿下と婚約して宜しいのでしょうか。言われるまで私、気づけなくて……」
「何を言っているんだい? 良いに決まっている。そもそもダメなら婚約など成立していないよ」
「そうよ。言ったでしょう。それなら私も同じと」
案じる様にメルティの左隣に座りつつ、ラボランジュ公爵夫人が言う。
「でも、ラボランジュ公爵夫人は、血が繋がっていないわけですし……」
イヒニオとメルティと血縁者なのだ。ラボランジュ公爵夫人とは違う。
「あのね、彼らは爵位も剥奪され刑に服す事になったけど、貴族ならこんな揉め事はしばしばある事よ」
「え? しばしば?」
驚いて顔を上げたメルティに、そうだとラボランジュ公爵夫人は優しい笑顔を作る。
「今回の事は、契約不履行によるもので、殺人とかではないわ。しかもレドゼンツ家内の揉め事よ。彼が男爵位を剥奪されたのは、今回の契約不履行の賠償金を支払えないからよ。爵位を国で買い取り、借金の肩代わりをしたの」
「そう言う事。刑罰で取り上げられたわけではない。とても残念な事だけど、あれぐらいでは普通爵位は取り上げる事は出来ない。その家系の揉め事だからね」
メルティは、目を瞬く。凄い事だと思っていたが、そうでもないらしい。
「たぶん、あれで犯罪者の親族だという事になるのなら、私はどの令嬢とも結婚できないよ」
「まあ、大げさね。でも、それぐらい足の引っ張り合いは起こっているって事よ。これからは、あなたが伯爵の当主よ。それは、ルイス殿下と結婚した後もね」
「はい。ありがとうございます」
「任せなさい。小娘だと舐められないように、きっちりと教え込んでさしあげますわ」
リンアールペ侯爵夫人が、自信満々に言い、みんながうんうんと頷いた。
「では、落ち着いた所でこれを受け取ってくれるかな?」
「え、これって……」
カパッと開けた豪勢な箱の中には、エメラルドがちりばめられたブレスレットだ。
「本来は、婚約時にはネックレスを送るのが恒例だけど、君の場合すでに立派なモノが胸元にあるからね。だからブレスレットにしたのだけど、受け取ってくれるだろうか」
「はい。ありがとうございます」
ルイスは、メルティの左手にブレスレットを嵌めた。
「綺麗……」
「よかったわね。メルティ。今回の事でもう、あなたに変な事を言う者はいないとは思うけど、用心はするのよ」
「私の婚約者になったのですから、護衛は王家から派遣される。心配ないさ。来年には兄上も挙式を上げる。だから再来年にすぐに私達も……」
「……はい」
ポッとメルティは顔を赤らめる。
「はぁ。僕達がいるのわかってる?」
「わかってるさ。君も早く伴侶を見つけるといい」
「あー、はいはい」
ちょっとムッとして、マクシムは返す。
こうして、少しいざこざはあったが無事に婚約式は終了した。
その後メルティは、良き妻、良き当主になるべく、自分磨きに精を出す。
――そして、二年後。
「おめでとう!!」
あっという間の二年間だった。
メルティとルイスは皆に祝われ、結婚式を執り行う。
もう犯罪者などという視線を向ける者などいない。
「あっという間でしたね、ルイス様」
「私には、少し長かったけどね」
「え?」
「いや何でもない。私もレドゼンツ家の一員として、君を補佐し一緒に歩む事を誓うよ」
「ありがとうございます。生涯宜しくお願いしますね」
「あぁ」
メルティを見て艶めいた赤い瞳が、アクアマリンの瞳をとらえた。見つめ合う二人の唇は重なり合う。
ルイスがギュッと、メルティを抱きしめた。
「私が居る限り、君に降りかかる火の粉は払うから安心してね」
ふとメルティは、ラボランジュ公爵夫人の言葉を思い出す。
『あの子は、少し重いかもしれないわねぇ。まあ愛されてるって思って受け止めてあげてちょうだい』
何となく意味が分かった気がするメルティだった。
「うふふ……」
「何?」
「ううん。何でもないわ」
またふと思い出したのだ。
今日見た予言の事を――。
それは、彼の寝顔だ。
メルティは、これからの事をドキドキしながらそして、ワクワクしながら彼に身を預ける。
彼の寝顔を見れるのは、自分だけの特権だ。
同じ事を彼も思っていた。
「ラボランジュ公爵夫人の様な家庭を築きたいわ」
「え!? 彼女をお手本にする気? 私はちょっと……」
「ほんわかして良いと思うけど?」
「ほんわかね。君にはそう見えるのか。私は、ずっとこのままの君でいてほしいのだけどね」
そう言って、ルイスは額にキスを落とすのだった。
メルティは諦めない~立派なレディになったなら すみ 小桜 @sumitan
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