第40話

 「うむ。二方、揃ったようだな。これから聖女がなのか審議を始める」


 イヒニオ達三人とメルティ達三人が別々に座ると、6人の目の前に腰を下ろした陛下が開廷を述べる。隣には、ルイスも座っていた。

 イヒニオ達は、密かに安堵する。聖女を偽った罪を問われるわけではないからだ。


 「さて、我が息子ルイスからであるメルティと婚約したいと願い出があってな。私は、クラリサ嬢だと聞いていたのでハッキリさせたいと思う」


 陛下がそう言うと、クラリサがキッとメルティを睨んだ。まるで悪いのは全て、メルティだと言わんばかりに。


 「さて、事の発端だがレドゼンツ伯爵。そなたが馬車の細工を見抜いた。それは、娘が馬車に乗るなと言ったからと聞いた。間違いないな」

 「はい。ありません」

 「さて、その後、娘を連れてくるように言うとクラリサ嬢を連れて来たが、彼女がそなたに『馬車に乗るな』と言った娘なのか」

 「はい。そうです」


 イヒニオが真剣な顔つきで頷き言った。

 それを悔しそうにメルティが見つめる。


 「では、クラリサ嬢に聞くが、父親に『馬車に乗るな』と言った覚えはあるか」

 「はい! あります! 言ったのは私です!」


 イヒニオがギョッとする。

 あれほど、連れていかれただけだと言えと言ったのにと思うも、目くばせをする事ぐらいしかできない。


 「メルティ嬢はどうだ? あなたが言った言葉ではないのだな」

 「いえ、私が叔父に……あの方に言った言葉です」


 クラリサが文句を言いたそうな顔をすると、イヒニオがやめろと目で制す。


 「こうなると、どちらかが嘘を言っている事になるな。ではルイス、お前の意見を聞きたい」

 「はい」

 「お待ちください、陛下。それでは、不公平です」


 陛下の横に座るルイスに意見を求めると、イヒニオが抗議した。

 メルティに気があるルイスの意見は、彼女に有利な発言をすると言ったのだ。


 「そう言うな。まずは、どうして聖女がメルティだと思ったのか聞いてみようではないか。ルイスは、メルティが聖女だと言っているからな」

 「……はい」


 そう言われれば、これ以上抗議して止めるわけにもいかない。


 「では。私は、そもそも聖女だとは思っておりませんでした。つまりまぐれなのではと思っていたのです。父上が先走ったと」


 ルイスは、目を細め陛下を見る。そんな風に見る事が出来るのは、親子だからだろう。


 「なので、聖女の祝賀会が中止になりホッとしておりました。しかし、レドゼンツ伯爵からしつこく、いえ何度も娘に会って欲しいと言われ、そのに折れ会う事にしたのです」


 執念と言われ、イヒニオの眉がぴくっとする。いやいや応じたと言ったのと同じだからだ。


 「懲りずに何度も訪れる二人でしたが、訓練所での態度はそれぞれ変わっていきました。と言うより、メルティ嬢がよく騎士と会話するようになったのです。そして、ふと気が付いたのです。彼女がさりげなく言った事により、危険を回避している事に」

 「え……」


 驚きを見せたのは、イヒニオ達だ。声にまで出したのは、クラリサだった。傍に居たのに全く気付いていなかったのだ。


 「偶然では、ないでしょうか」


 イヒニオが引きつった顔つきで言うと、ルイスが首を横に振る。


 「偶然にしては、ピンポイントだったのです。なので私は、メルティ嬢を観察しておりました。彼女は、何かを見定める様に毎回違う相手をジッと見つめていて、そして話しかけておりました」

 「ふむ。どうかね、メルティ嬢」


 メルティは困り顔をするが、こくりと頷くと真顔になる。


 「予言を――」

 「私が、そうさせていたのよ!」


 発言を求められたのはメルティだが、クラリサが叫ぶように発言した。


 「いつもそうしていたの。自宅でもね」

 「クラリサ! 余計な事は言うなと言っただろう」


 見かねたイヒニオが言うも、クラリサは泣きそうな顔で『だって』と言う。


 「だそうだ、ルイス。これでは、わからないな」

 「わかりました。では、もう一人、証言して頂きます。マクシム頼む」

 「はい」


 マクシムもメルティ側ではないかと、イヒニオは言いたいが陛下がじろっと睨むので、大人しく聞く事にする。


 「池の事件の事を覚えておいでですか、クラリサ嬢」


 マクシムにそう振られたクラリサは、驚きに目を丸くする。

 まさか予言をしたと、マクシムも気が付いていたのかと。

 いやそんなはずはない。メルティが予言をしていると知っているから、あの時予言したのではと思ったのだ。

 クラリサを聖女だと思っているマクシムが、メルティが予言をしたなど思うはずもない。そう思いなおし、クラリサは頷く。


 「えぇ、覚えておりますわ。あの時は、私達がご迷惑をおかけしました」

 「よかった。覚えているようだね」


 怪しくほほ笑むマクシムに、まさかと思うも証拠などない。大丈夫だとクラリサは自分に言い聞かせるのだった。

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