第25話
「わぁ。大きなお屋敷」
見上げた屋敷は、この国で一番大きなお屋敷だ。
そうラボランジュ公爵家だった。
リンアールペ侯爵家に行くものだと思っていたが、ラボランジュ公爵家に向かっていると聞き、メルティは驚いた
「いらっしゃい。お待ちしておりましたわ」
「お久しぶりです」
出迎えたのは、ラボランジュ公爵夫人と息子のマクシムだ。
ラボランジュ公爵夫人は、灰色の髪にマクシムと同じ紺の瞳の素敵なご婦人だった。
「お世話になります」
中へと通されダンスホールの横にある休憩室にて、まずは雑談となった。
美味しい紅茶を頂く。
「まずは、今日は基本の確認をした後、二人で踊ってもらうわ」
「「はい」」
メルティとマクシムは声を揃え返事をした。
まさか、ラボランジュ公爵邸に行くとは思っていなかったメルティは、かなり緊張していた。
玄関に行くまでに見えた庭園は素晴らしく、さすが公爵家だと感心しながら中に入れば、ダンスホールまでありビックリだ。
そして、いたたまれない気持ちになっていた。
格の違いもあるが、自分がみすぼらしいの一言に尽きる。
三人は、この屋敷に相応しい服装だ。メルティだけ、着古したドレスで浮いていた。
もしかしたらラボランジュ公爵夫人やマクシムに、なぜこの様な令嬢を呼んだと思われているのではないか。そう思うと、リンアールペ侯爵夫人に申し訳なく思う。
「では、始めましょう」
リンアールペ侯爵夫人の手拍子に合わせ、ステップを踏む。
(えーと、こうだったかしら……)
「………」
ここまで出来ないとは思っていなかったリンアールペ侯爵夫人は頭を抱える。
「メルティ嬢、最後にダンスを踊ったのはいつかしら? 二年前?」
「えーと、8年程前です」
「え……」
指折り数える姿を見せたメルティの答えに、三人は驚いた。
ダンスの授業は、授業内容としては最後に教えるものだ。なので普通は、デビュタントをする年齢の12歳かその前の11歳に行う者が多い。8年も空けば踊れなくなるだろう。
「これは、一から教えた方がよさそうね」
「まあ、それならご協力致しますわ」
ラボランジュ公爵夫人もやる気だ。このホールを練習場として貸すと言ったのだ。
「では、今日は基礎をみっちりおこなった後、最後に踊ってみましょう」
「はい。宜しくお願いします」
メルティは、真剣に取り組んだ。デビュタントまで時間がないのだ。期待に応える為にも習得しなければと、夢中になっていた。だから一人増えている事に、休憩まで気づかなかないでいた。
「精が出るね。お疲れ様」
「ルイス殿下!」
ルイスに気が付いたメルティは、驚きの声を上げる。
すっかり忘れていたが、今日の予言は彼とダンスをするものだった。なので、これからルイスとダンスを踊る事になるのかと、ドキドキする。
(いやダメよ。お姉様がいないとはいえ、婚約者がいる男性とダンスの練習をするなんて。でもリンアールペ侯爵夫人が良いと言えばいいのかしら?)
水分補給をしながら休むメルティは、そんな事をぼんやりと考えていた。
「そうだわ、マクシム。あなた、ピアノを弾いてくれないかしら」
ラボランジュ公爵夫人が、ふと思いついたように言う。
「え? それってダンスの曲ですか」
「そうよ」
「では、メルティ嬢の相手はお母様がなさるおつもりですか」
「いるでしょう。ルイス殿下が」
メルティがギョッとする。リンアールペ侯爵夫人ではなく、ラボランジュ公爵夫人が言ったからだ。
「私は構わないが、メルティ嬢はどうだい?」
どうしてここに居るのかわからないが、練習相手になってくれると言う。
「あの、婚約者がいても練習相手ならダンスをして宜しいのですか?」
「え? 君、婚約者いたの?」
ルイスが驚いた顔つきをする。いや、この場の全員がそうだ。
「ま、まさか! ルイス殿下の事です。お姉様の婚約者なのですよね」
「は? 誰がそのような事を」
「あ! すみません。これ内緒でしたね」
「もしかして、レドゼンツ伯爵がそう言ったの?」
ルイスの問いに、そうだと気まずそうにメルティが頷いた。
「確かにそういう話は出たけど、白紙に戻ったよ」
「え!?」
メルティは、信じられないと言う顔をルイスに向ける。
「そもそも婚約の話は、父上が先走っただけだから。レドゼンツ伯爵が事故を未然に防いだ事で、聖女ではないかと周りが騒ぎ息子と婚約をとか言い出す者がいたらしく、焦った父上がクラリサ嬢を聖女に認定して、私と婚約させようとしたんだ。でも、この前の事件で全て白紙になったよ」
そうルイスに説明を受け、やっと違和感が何だったのか気が付いた。イヒニオ達がルイスとの婚約や聖女の祝賀会の事を語らない事や、聖女だとクラリサが騎士に自己紹介をしなかった事がしっくりときたのだ。
「え……では、お姉様は聖女としてお披露目はされていないのですか?」
「あぁ。だから逆にレドゼンツ伯爵家は聖女だと偽ったという噂が流れたんだ」
「はい!?」
そんな噂が流れていたなど知らなかったメルティは、白紙に戻ったと聞いた以上に驚いた。
「何も知らされていなかったんだね」
「どうして、君に嘘を教えていたんだろう」
マクシムの疑問の言葉に、メルティはぎくりとする。
聖女ではないとなったのなら、そのまま流れた方がいい。メルティは、そう思い何も言わない事にしたのだった。
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