第21話

 次の日、王城から迎えに来た馬車にクラリサとメルティの二人は乗り込んだ。

 メルティは、憂鬱でしかない。

 聖女であるクラリサは、白を基調としたデザインのドレスを着ている。

 メルティは、クラリサからの一番古いお下がりの青いドレスを着せられた。

 ファニタの話では、リンアールペ侯爵夫人の授業は聖女であるクラリサの為にメルティが授業を受けるのだと言っていたのに、見栄えはどうでもいいのだろうか。などと、メルティは落ち込む。


 「どう? 少しは自覚した?」

 「え?」

 「私とあなたの差よ」


 このドレスの様に、差があるのよと言わんばかりだ。


 「いい? 予言を見たらちゃんと私に言うのよ」

 「………」

 「ちゃんと返事をしなさいよ!」

 「はい……」

 「まったく。本当なら連れてなど行きたくないのですからね」


 そりゃそうだろうとメルティは思う。

 両親に言われたからと、デートに妹を連れていかなくてはいかないのだから。

 ついて行くように言われたメルティも嫌だった。


 メルティは、予言を見たとしても言うつもりなどない。まあ手を水に浸さな限り見る事はないので、途中で予言する事もないが。

 王城に着くと、ルイス王子が出迎えてくれた。

 クラリサだけでなく、メルティにも降りる時に手を差し伸べてくれたが、それを見たクラリサは、メルティを睨みつける。


 「よく来たね」

 「誘っていただきありがとうございます」

 「レドゼンツ伯爵が、是非にと言うものだからね」


 そう言ってルイスは歩き出す。


 「私も忙しい身なので、近場で悪いけど」


 どこへ行くのかと思えば、訓練所だった。初デートにしては、色気などない。

 初めて目にする騎士達の稽古。


 「ルイス殿下。その令嬢達は」

 「この二人は、レドゼンツ伯爵家の娘、クラリサ嬢とメルティ嬢だ」

 「はじめまして、皆さま」

 「こんにちは」


 クラリサとメルティは、カーテシーで挨拶をする。


 「あぁ、あのレドゼンツ伯爵家……」


 そういう呟きが聞こえると、クラリサは笑顔はそのままにピクリと眉を動かす。

 聖女の祝賀会をドタキャンしたレドゼンツ伯爵家。噂を聞いている者達が、そう言ったのだ。

 メルティだけが知らないので、あのとはどういうと疑問を抱く。

 聖女様がいるという感じの意味ではなさそうだと言うのだけは、わかった。だから不思議でならない。

 まだ伏せられているので婚約者だと紹介できないとして、クラリサを聖女として紹介しなかった事にも違和感を覚えた。

 しかも、クラリサ自らもが聖女だと名乗らない。


 その後、ルイスも加わり稽古を始めたので、二人はただそれを見学するだけ。もしメルティがいなければ、クラリサが独りポツンと見学する事になっただろう。


 「何これ……」


 一時間ほど経って、クラリサが呟く。

 皆真剣に稽古に励む為、声を掛けられる事もない。

 面白くも何ともない練習を見せられ不機嫌なクラリサに対し、初めての練習風景を楽しく見つめるメルティ。

 さらに二時間ほど放置され、やっとルイスが二人に近づいた。


 「もう時間だから送るよ」

 「え……もう終わり?」

 「レドゼンツ伯爵には、鍛錬の見学になると思うけどと言ってあったのだけど、聞いていないかな」

 「いえ……」


 確かにそう言っていた。だが、ルイスまで加わり放って置かれるなど思わなかったのだ。デートコースの一部だと思っていた。

 送ると言われたが、ルイスは馬車までで後は行きと同じで二人で馬車に乗り帰る。


 「どういう事? 承諾してくれたのではないの?」


 イラついてクラリサが言う。

 着飾った意味が全くなかった。


 「……そうよ。あなたがついてきたからだわ」

 「え……」


 そう言われてもついていけと言ったのは、クラリサ達だ。


 「予言もしないし」

 「それは……」

 「口答えしない! お父様達には止められているけど、言わないとあなたは立場を理解しないみたいね!」

 「え?」


 一体何を口止めされているのだろうと思っていると、驚く内容を口にする。


 「あなたは、養女なのよ。私達、本当の姉妹じゃないの」

 「え……」

 「あなたは、覚えていないでしょうけど、私は覚えているわ。突然あなたが増えた事を」


 メルティは、驚愕に目を見開く。

 でも心当たりがあった。あの夢だ。知らない夫妻と男の子。たまに見る夢。もしあれが現実の事ならば、あの人達が自分の本当の家族。


 「気が付いていたでしょう。あなたに対する態度と私に対する態度が違う事を。養ってもらっているのだから感謝なさい」


 クラリサが言う通り、両親がクラリサを贔屓しているのはわかっていた。その理由が、本当の子ではなかったからだったのだと言われ、ショックを隠し切れない。

 言ってスッキリしたのか、少し機嫌がよくなったクラリサは勝ち誇った様に続ける。


 「だから聖女は私なの。あなたは、恩を返す為に私達の言う事を聞いていればいいのよ。いいわね!」


 (そんな……。もしかして、私の家族は――)


 ――亡くなっている。

 ただ預けられたとは考えづらい。


 メルティは、泣き出した。

 その姿を見て、満足した様子のクラリサは、ふんと馬車から見える風景を眺めるのだった。

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