第15話
メルティが目を覚ますと、いつもの天井が見えた。
目を覚ましたのを確認した侍女のセーラがイヒニオ達を呼びに行く姿を見送り、そうだったと思い出す。
(そうだ。お城で倒れちゃったんだわ。あぁ、伝えるチャンスを逃してしまったわ。あれからどうなったのかしら)
「よかったわ。また熱を出したのよ」
「体はどうだ。辛くないか?」
両親にまた何か言われると思っていたメルティは、予想外の態度に目を瞬く。
「安心して頂戴。昨日、つつがなく終えたわ」
「………」
「まあ、ルイス殿下との婚約発表はしなかったがな」
「そうなのですね」
メルティの言葉を聞き、二人はニヤリとする。
やはりどうなったか聞いていないのだと。
「これからも協力お願いするわね」
「それでだな。お前のデビュタントなんだが、今年は聖女の件で色々と忙しい。来年でいいだろう」
「え……」
この国の貴族は、12歳から14歳ぐらいの間で
体調を理由になど、のらりくらりと参加する機会を延期させられていたのだ。
「でも……」
「また倒れられても困るからな」
もう普通にしていれば熱を出す事もないが、イヒニオ達はメルティをデビュタントさせたくなかった。
舞踏会に行けば、噂を聞くだろう。
ルイスとの婚約は、すぐに話が白紙に戻ったので噂にはならないだろうが、聖女の件は祝賀会が、ドタキャンになったのだ。
誰が聖女かは、城に勤める者なら知っている者もいる。少なくともレドゼンツ伯爵家の令嬢だと噂は流れるだろう。
耳にすれば、今言ったのが嘘だとバレる。そうすれば、協力はしなくなるだろう。
メルティが、予言をしない事にはクラリサを聖女にできないのだから。
「大丈夫よ。色々落ち着けば、デビュタントできるわ」
メルティは、仕方なくわかったと頷く。
「お姉様は?」
祝賀会が終わり、発表されなかったとしてもルイス殿下と婚約したなれば、自慢しに来ると思われるのに、一緒に来ていないのだ。
今、クラリサをメルティと合わせるわけにはいかなかった。
昨日、城から帰って来るなり、泣き叫び発狂したのだ。何もかもおじゃんになれば、当たり散らしたくもなる。
しかも理由が、メルティではなく自分自身だと言われたのだ。当の本人には、何なのか見当もつかないというのに。
「昨日はよっぽど疲れたのね。部屋で休んでいるわ」
「そうですか」
「今日は、ディナーをここへ運ぶわね」
「はい」
別にダイニングルームで食べられるが、一緒に食べたいとも思わないので従う事にした。
「では、ゆっくり休め」
二人は、部屋から出て行った。
(なんだろう。何だか違和感があるわ)
目を瞑り、それを考えた。
まずは、池での事を何も追及されていない。これが一つ目だ。
いつもなら、お前が余計な事を言おうとしたからこうなったのだろうと、言われていただろう。しかも、助けたはいいが、自分が池に落ち皆に多大なる迷惑を掛けたとも言うに違いない。
次に、聖女の祝賀会の自慢がなかった。
クラリサほどではないが、絶対にちやほやされたに違いなのだから、やっぱり聖女の親は違うわ。などとファニタが言いそうな事だが、それもなかった。
そう、あっさりし過ぎているのだ。
叱られもしなければ、自慢もされていない。
ただ、状況を伝えて行っただけだった。
(何かがおかしい)
だが、おかしいと思っても嘘を言っているとは見抜けていないので、自分に協力させる為に、叱らず自慢せずに去って行ったのだろうと結論づけた。
(あの池の予言は今までなかったわ。水面の大きさとかなのかしら)
発動条件は、右手を一番先に浸す事。映るまで他を浸さない事。つまり見ようと思えば、湯を浴びる時にでも出来るのだ。
池の時は、偶然に条件に合って発動した。しかも、映像だった為、何が起きるかわかったのだ。
あれが、静止画でクラリサが飛び込むところだったならば、わかったところで間に合わなかっただろう。
(それにしても、聖女だと主張する為に池に飛び込もうとするなんて)
聖女として発表されたと思っているメルティは、上手く回避できた事に気づいていなかった。
クラリサが飛び込んでしまっていたら、凄く責められていただろう。ぐらいにしか思っていない。
もしそうなっていれば、聖女としてそのまま世間に公開されていたかもしれないのだ。
(とりあえず、明日にでもアールに相談してみよう。もっと早くそうすれば、避けられたかもしれなかった)
ルイスとの婚約にまで至ると思っていなかったので、勇気がでなかった。こんな事ならもっと早い段階でアースに相談すればよかったと、メルティは後悔するのだった。
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