8 デート
そして、土曜日。今日は綾とデートをすることにした。
デートの日を土曜日に決めたのは朝比奈先輩から連絡があったからだ。「今週の土曜日、月島颯太が例のホテルに泊まる予定だよ」って、なんでそんなことまで知ってるのかって聞いてみたら、すでに予定があった朝比奈先輩がわざと月島先輩とデートの約束をしてそれを破ったって言ってくれた。
というわけで、あの先輩は予約したホテルをキャンセルせずそこに泊まる。
どうせ、朝比奈先輩じゃなくても一緒に行ける女はいるから。そこを狙っていた。
「久しぶりのデート! ドキドキするぅ!」
「そうだね。今日はカフェ? あるいはショッピング?」
「私、ちょうど新しい洋服が欲しいな〜と思ってたけど!」
「じゃあ、洋服を買いに行こう」
「うん!」
待ち合わせの場所から遠くないところにある大型ショッピングモール、そこで綾とショッピングすることにした。てか、綾の浮気を知っているこの状態で一緒にデートをするのは意外と難しい。そういえば、俺は今までどうやってデートをしたっけ? なぜか、思い出せない。鼻歌を歌いながら可愛い洋服を見ている綾に、俺は何も言わずそばでじっとしていた。
そして、あのネックレス……。またつけたのか。
「これはどー?」
「上のはいいけど、そのスカートは短くない?」
「どこ見てるのよぉ……! 連夜くんのエッチ!」
「ええ……」
「ねえ、私可愛い?」
「うん。可愛い」
オフショルに短いスカートか、いくら夏だとしてもあんな服は…………ちょっと。
付き合ったばかりの頃にはあんな服よりワンピースの方が好きって言ってくれたけど、知らないうちに好みが変わったみたいだ。それもあの人のせいかな……? いちいち気にするのはよくない癖だけど、結局……あの服を買うのは俺だからな。
デートをする時にかかる費用はいつも俺が払う。
割り勘とか……、お金のことでいちいち考えるのも面倒臭いから、俺が払うことにした。それからか……、欲しい物ができた時はよく俺の方をじっと見つめる。何も言わず、じっと俺の方を見ていた。今みたいに———。
そうやって、ずっと洋服代と食事代を払っていた。
「本当にいいの?」
「うん。プレゼントしてあげる」
「嬉しい! やっぱり、私の彼氏は最高だよ〜。へへへっ」
「合計、一万七千六百円でございます」
「はい」
今まで全然気にしてなかったけど、綾はこんなにたくさん買ってたのか。
まあ、バイトを始めた理由も結局綾のためだったから……。俺は好きという感情に囚われて……、ずっとそれから目を逸らしていたかもしれない。綾の笑顔が好きだったから、ずっと彼女を喜ばせたかった。
相変わらず、可愛いな。
「ひひっ、ありがと〜。連夜くん、本当に大好き!」
「うん」
「あっ。私! お腹すいた……」
「じゃあ、そろそろ時間だし。帰る前に夕飯を食べようか? 俺、いい店予約しておいたから行こう」
「本当に〜? 嬉しい〜」
予約した店は、先輩が教えてくれたあのホテルから遠くないところにある店。
綾の好きそうな高級レストランだ。
「へえ〜。ここ、私知ってる! いいの〜? 連夜くん」
「うん。綾、こんな店好きだよね?」
「うん! めっちゃ好き! 嬉しい! 連夜くん、最高だよ〜」
その笑顔、俺は綾のその笑顔がめっちゃ好きだった。
それを見るために、ずっと頑張ってきたけど……。綾は今日あの人にもらったネックレスをつけて、見たこともないハンドバッグを持ってきた。高級ブランドに詳しくない俺にも分かるほど、それは有名なブランドだった。あれは普通の高校生が買える物じゃない。なら、誰かにもらったことになる……。
また、あの人か……?
「うーん!! 美味しい! この店のステーキ、すごく美味しい!」
「そう? よかったね」
そろそろ、あれを言い出す時間だ。
すごく緊張している。
馬鹿馬鹿しいけど、俺はステーキを食べる綾の可愛い姿に……また今まであったことを否定しようとしていた。もう終わりって知ってるのに、俺以外の男と浮気してるのも知ってるのに……、愚かなことばかり考えている。それでも……、俺がこれを言い出した時に綾が「ない」って答えてほしかった。たった一言「ない」って———。
「…………」
「どうしたの? 連夜くん」
「あっ、うん。俺さ……、今日……土曜日だし。もうちょっと綾と一緒にいたいなと思って…………。この後、予定ある?」
「…………」
その話にさっきまで笑みを浮かべていた綾が一瞬真顔になる。
そして、二人の間に静寂が流れる。
「…………えっと」
そうか、言えないのか……。知っていたけど、やっぱりそうなるのか。
「今日はちょっと……」
「時間も遅いから、綾の家に行きたいけど……それもダメか?」
「あっ、あの……。家に行くのもちょっと……」
「これから約束でもある?」
「なんか、今日しつこいね……。連夜くん」
「俺はただ……綾と一緒にいたいだけなのに、どうしてそんなことを言うんだ?」
「しつこいよ! とにかく、今日は……ダメ。また今度にしよう」
「そうか。うん、分かった」
そしてスマホをいじる綾、二人の間にまた静寂が流れる。
……
食事を終えた後、なぜか俺と手を繋ぐ綾。
「い、いきなり大声を出してごめんね。でも、今日は本当にダメだから……。駅まで送ってあげる!」
「えっ? いいよ、一人で帰れるから。綾はその……これから約束あるだろ?」
「駅まで……一緒に行きたい」
「…………」
すぐ先輩のところに行くつもりだったけど、駅まで送ってくれるのか。
普段はこんなことしないだろ?
「今日……すっごく楽しかったよ! 連夜くん」
「うん。俺も楽しかった」
仕方がなく駅まで一緒に来たけど……、まさか改札口までついてくるとは。
もしかして、完全に帰ったのを確認したかったのかな……? 怖い。
「気をつけてね。バイバイ〜」
「うん。綾も」
俺たちはそこで別れた。
そして———。
「すみません。電車に乗っちゃってちょっと時間がかかります」
「そう? 確かに、あのお店はホテルから遠くないところにあるから……自分の目で確認しておきたかったかもしれない」
「はい。あの、月島先輩は…………」
「今、ホテルの前でスマホをいじってる」
「分かりました。約束の場所で会いましょう。先輩」
「うん」
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