彼女をNTRれた俺に、先輩の彼女が寄ってきました

棺あいこ

彼女をNTRれた俺に、先輩の彼女が寄ってきました Ⅰ

1 地獄に落ちるのはたった一言で十分

「いい、超可愛い!! そのポーズ。可愛いよ、奏美かなみちゃん!」

「はい〜」

「やっぱり、奏美ちゃんがうちのモデルで良かった〜」

「ええ、褒めすぎです〜」


 俺の名前は柳連夜やなぎれんや、ごく普通の高校二年生。

 そして目の前には学校一の美少女と呼ばれている朝比奈奏美あさひなかなみ先輩が、雑誌に載せる写真を撮っていた。見た目ではクールなイメージで話しかけづらい人に見えるけど、けっこう優しい人で、こんな俺にも話をかけてくれる。


 とはいえ、一人の時は無表情になるから怒ってるのかと勘違いしてしまう。

 それは仕方がないな。


「…………」


 黒色の長い髪の毛、白くて小さい顔、それに女子たちが憧れる細い体まで……。

 レベルが違う。たまに先輩と目が合うと、すぐ緊張してしまう俺がいた。その大きい瞳がこっちを見るたびに、多分完璧な人って先輩みたいな人だろうとそう思ってしまう。先輩だけ、別の世界に住んでるような気がした。


 だとしても、俺たちの関係はただの先輩と後輩。それだけ。

 それ以上の関係にはならない。

 なぜなら、こんな俺にも彼女がいるからだ。


 綾「今日もバイト〜?」

 連夜「うん。今日もバイト。綾は何してる?」

 綾「私〜。勉強! そろそろ戻らないとね〜。バイト頑張って! あ、そうだ! ?」

 連夜「うん。もちろんだ。綾も勉強頑張って」

 綾「うん♡」


 彼女がいる! こんな俺にも彼女がいる!

 それは、ずっと一人だった俺の人生が変わる瞬間だった。

 生きるために必要だったのは旨い食べ物なんかじゃなくて、彼女と過ごす普通の日常だったかもしれない。恋愛経験が全然なかった俺にこんな可愛い彼女ができるなんて、幸運だよ。


 これだけで生きていけそう。彼女、最高だぁ!!


「うん。これていい、そろそろ戻ろうか! 連夜! 手伝って〜」

「は〜い!」


 真夏、俺は先輩に頼まれて事務所でバイトを始めた。

 こう見えても昨年まで先輩と同じ生徒会だったから、たまに廊下で挨拶をする関係だ。もちろん、それだけだったけど……。この前に「ねえ、バイトしてみない?」って先輩に言われて、なぜかここで働くようになった。


 まあ、ちょうどバイトを探していた俺にはいいチャンスだったけど……。

 なぜ、俺だろう。分からない。


「それ、重いから気をつけて」

「はい〜」


 重い撮影機材を運んだり、一人でいろんな雑務をしたりして、すぐ疲れてしまうけど、綾のことを思い出すと力が出る。

 早く、会いたな……。

 彼女ができてから、ずっとこんな状態だ。


「ねえ、柳くん」

「はい。先輩」

「ちょっと……、ジュースを買ってきてくれない? 今日の撮影長かったし、足も痛いから……今動けない」

「は、はい! すぐ買ってきます! ちょっと待ってください」

「ありがと」

 

 力のない声って言えばいいのか、やっぱり先輩と話すとすぐ緊張してしまう。

 その短い会話で……、体が冷えてしまった。

 そして今日はなんか……、機嫌悪そうだな。


「…………」


 ジュースを買いに行く連夜の後ろ姿を、じっと見つめる奏美。


「先輩! 買ってきました!」

「うん。ありがと」

「…………」


 これ以上先輩と話すこともないから、すぐ機材を片付けて車に乗る。

 そして……、今日はなんと! 久しぶりに綾とデートをする日だから、楽しすぎて待ちきれない! 早く家に帰って、綾と二人っきりの時間を過ごしたい! まだ仕事中なのに、頭の中にはそれしか入っていなかった。


 デート! デートだぞ。早く綾に会いたい!


「なんか、いいことでもあったの? 柳くん」

「え、えっ? な、なんでもないです」

「そう……?」

「…………は、はい」


 まずい。浮きすぎて、先輩に一言言われた……。

 それにさっきからラ〇ンが来てるけど、先輩にまた一言言われそうでじっとしていた。


 返事をするのは帰った後にしよう。

 ごめん、綾。


 ……


「お疲れ〜」

「お疲れ様です〜!」


 次のスケジュールを確認した後、我慢していた笑いが出てしまう。

 この時をずっと待っていたから、綾とのデート!

 そして、ラ〇ンを開いた瞬間———。


 綾「あっ、今日……。ごめんね。お母さんが事故に遭って今病院なの」

 連夜「マジ? 大丈夫? じゃあ、今日は仕方ないね」

 綾「うん……。ごめんね」


 デート、即キャンセル。


「マジかよぉ……。でも、綾のお母さんが事故に遭ったから……。それは仕方ないよな。それでも、綾とのデート……めっちゃ期待していたから……」

「…………」

「はあ……、本当に……しょうがないなぁ」

「なんで、ため息ついてるの?」


 後ろから聞こえる先輩の声にビクッとした。

 また、ミスをしたのかと……。

 てか、先輩は先に帰ったんじゃなかったのか? 先に事務所を出たのを見たのに、どうして後ろにいるんだろう。


「あっ、あ……。あの……、いいえ! な、なんでもないです!」

「ねえ、今から時間ある?」

「あ、ありますけど? どうしましたか?」

「今、タクシー呼ぶからちょっと付き合って」

「えっ?」


 普段なら終わった時に話をかけないけど、俺……なんか悪いことでもしたのか?

 タクシーを呼ぶ先輩を見て、俺はどうしたらいいのか分からなかった。声をかけないといけないのに、「どこに行くんですか?」みたいな簡単な言葉も出てこない。今までこんなこと全然なかったから、先輩が何を考えてるのか分からない。


 そして、二人の間には静寂だけが流れていた。


「…………」


 そういえば、綾と話す時もこうだったよな。俺……、女子経験少ないから……。

 でも、先輩はそれより上だ。


「行こう。柳くん」

「は、はい……」

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