平穏が旅立った、売れっ子タレントの日常。─1度きりの女子高生を満喫させて!─

白ゐ眠子

第1話 二ヶ月遅れの転入学。

「はいはい、皆。静かにしてね!」

「今日も神山こやま先生のおっぱいは揺れに揺れてますね! 揉みまくりたい!」

「はいはい、伍朗ごろう君。すかさず先生にセクハラしない」

「へーい。すんませんでした(棒)」

「反省の色が無いからあとで反省文ね?」

「えーっ!? そりゃないよ、せんせーい!」

「あんたのは自業自得でしょ。普段からセクハラするから目を付けられているのよ!」

「あ、ちげぇねぇわ。反省します!」

「本当に出来るのか不安でしかないわ」

「「「あはははは」」」


 この日、私の勤務する私立高校へと、とある事情を抱えた女子生徒が転入してきた。


「さて、今から、転入生を紹介します!」

「え? 転入生だって!?」

「このクラスに?」

「少々、遅すぎない?」

「入学式から二ヶ月過ぎたよ?」

「その子って、素人かな」

「素人かも? 急に決まったならね」

「あー、それは災難だね。どっちかな?」

「男の子なら私が手取り足取り」

「女の子ならおっぱいを育てたい!」

「それはあんただけでしょ!?」

「お前と俺達を一緒にするな!」

「静かになさい! 呼ぶから。入ってきて」

「失礼します」


 私が呼んだ子は、黒すぎるほどの黒髪をおさげに結った瓶底眼鏡をかけていた地味女子だ。

 背丈は百六十センチと校内の女子の中では高身長だったが、それ以外は平凡と呼んでも差し支えないほど地味な容姿をしていた。


「えっ」

「地味過ぎない?」

「ほ、本気なの?」


 クラスの生徒達は揃って目が点。

 気持ちは分かる。疑われても仕方ないもの。

 このクラスは校内の複数ある学科の中で唯一見目麗しい生徒が揃っているからね。


「あの容姿で、この芸能科ってマジ?」

「あー、売れない系かな? ほら稀に居るし」

「売れないが、高校卒業資格は得たい的な?」

「そんな感じ」


 酷い言われようだが、それが彼らの真実であり現実なのだから仕方ない。とはいっても、この中でテレビや雑誌に出るような子は少ないけどね。大半が駆け出しであり、時間を持て余しているから学校に通う子達なのだ。

 つまりは同類である。

 教師の言葉とは思えないだろうが、私の仕事は彼らの精神面をカバーするために存在するスクールカウンセラーなので、思っている事を口に出さないだけ、マシというものである。

 これも一応、言い訳させてもらうなら、かつての同僚には悪いが、これは私の性格上の言葉なので真に受けないでほしい。


「それじゃあ、自己紹介してもらえる?」

「はい。地方から出てきました白石しらいし栞里しおりと申します。しばらくの間は不慣れが目立つとは存じますが、よろしくお願い致します」


 社会を知っているからそれなりな挨拶が出来るのね。他の学科だとここまで出来ないけど。


「ありがとう。ちなみに、白石さんは通勤の関係上、地方との行き来が困難になったとの事で今回上京してきたそうです。これらは彼女の所属する事務所から聞いていますので」

「へぇ〜、フリーじゃないんだ」

「あんなので事務所に所属かよ」

「地方で売れて出てきた子かしら?」

「その可能性が高そうだな」

「でも何処の事務所だろう?」

「大手ではない事は確かよね」

「私は興味ないから好きにして」

「最後まで言わせなさいよ。もう!」


 続きを言う前に言葉を被せてきたから言えなかったじゃない。まぁいいわ、どうせこの子はこの中に埋もれてしまうでしょうから。


「それではホームルームを始めたいから、白石さんは。そうね、家嶋やじま研壱けんいち君の隣に座ってもらおうかしら。家嶋君、手を上げて」

「俺? はいはい、こっちで〜す」

「彼の隣に向かってもらえる?」

「は、はい。分かりました」


 一応、困った時は相談してねと伝えているので、それまでの仕事は他科のみとなるかな?


「着いたわね。ではホームルームを始めます」


 ホームルームは当たり障りない連絡事項とか中頃に行われる中間考査の話を伝えていった。


「転入してきた白石さんにとっては少々酷ではあるのだけど、その点だけは留意してね」

「分かりました」


 この辺は転入時にも説明があったと思う。

 だからこそ頷いた白石さんだった。

 ここで問いかけられても困るしね。

 担任とはいえ専科の教師とは違うし。

 私はその際に忘れていた件・・・もとい先ほど出来なかった任命を済ませる事にした。


「それと、校内案内も家嶋君にお願いしようかしら。どうせ暇でしょう?」

「俺!? なんで!」

「白石さんを気になったように見ていたから」

「お、俺は見てませんよ」

「前からは丸見えなんだけどね」

「うぐっ」


 そう言い訳するならジロジロ見ない。

 特に女子は男子の視線には敏感だからね。

 でも、白石さんは気にも留めていないわね?

 あの子は少々視線に敏感になってもいい気がする。顔と胸に穴が開くくらい見ていたし。


「あはは、そんなにイヤなら代わろうか?」

「イ、イヤではないが、何故に俺?」

「この中で女性の扱いに長けていて、暇そうだからじゃない? 若手俳優の研壱君?」

「俺、そんなに長けていないんだが」

「暇そうにはツッコミを入れないのね」

「・・・」


 何はともあれ、女子達から揶揄われる家嶋君を眺めつつ、腕時計を見た私はホームルームを済ませたのち職員室に向かったのだった。



 §



 クラスに微妙に地味な女子が転校してきた。

 その子は一見すると地味だが、清楚な雰囲気を漂わせていた。ただ、あくまで清楚というだけで、地味な外見だけは変わらないけどな。

 すると担任の神山先生が何を思ったのか俺の隣を指名してきた。確かに席は空いていたが何も俺の隣に座らせる事はないじゃないか。

 他にも空席はあったしな。早々にドロップアウトしていった者達の席だったが。

 それらは売れる事なく引退した、または高校に通う余裕すらなくなった売れっ子達である。

 先生に促され隣に来た白石という女子。


「よろしく」

「よろしく」


 軽く会釈だけして席に座り、鞄の中から教科書と筆記用具を取り出して机にしまっていく。

 よく見ると横顔だけは奇麗な部類に入るな。

 眼鏡の隙間から見える切れ長の目元、若干灰色に近い碧瞳が印象的だった。何より化粧っ気がない事が疑問だった。クラスの女子ならケバいってほどに化粧をしている者がほとんどだ。


(日本人には見えない外見だな。でも黒髪か)


 対して彼女はすっぴんと思えるほどのナチュラルメイクに抑えている。一応でも芸能科の生徒だから普段から肌に気を遣っているのかも。

 それと夏服だからという訳ではないが、


(何故にセーター? 暑そうな気がするが?)


 身体の線が見えない服装を好んで着ていた。

 女子の大半は下着が見えていようが気にしない者が多い中、例外的に気にしているようだ。

 胸はパッと見では分からない。大きいとも言えるし小さいとも言える。ダボダボのセーターが悪さしていて、大きさが分からなかった。


(とはいえ、尻はそれなりに、大きいか・・・)


 スカート越しに形が分かったからな。

 するとホームルームを行っていた先生が、


「それと、校内案内も家嶋君にお願いしようかしら。どうせ暇でしょう?」


 何故か俺に白羽の矢を立てた。


「俺!? なんで!」

「白石さんを気になったように見ていたから」

「お、俺は見てませんよ」

「前からは丸見えなんだけどね」

「うぐっ」


 くそぉ、丸見えだったのか。

 彼女は気にも留めていなかったから油断したぞ。これがいつもなら咲田さきた美樹みきが俺にツッコミを入れてくるが、地味過ぎたからか興味を持っていなかったようだ。

 

「見てみて、この新しいリップ」

「リップは分かるけど、それって美樹のお気にの詩織がCMでやっていたヤツでしょ?」

「そうよ。悪い?」


 俺と伍朗とのやりとりや、先生の話そっちのけでリップを取り出して化粧していたからな。


(ホームルームが終わった途端、これだし)


 このお気にとは、超売れっ子モデルの詩織である。その子は誰の目から見ても奇麗の一言に尽きる。体型は胸もあり尻も大きい。そのうえ女優業まで熟すマルチタレントでもあるのだ。

 俺も一度だけ共演した事があるのだが、一言で言って女神である。白に近い銀髪と妖艶な美貌は共演後の今でも忘れようがない。


「悪くないけどさぁ。その色って色白しか似合わないよ?」

「私も色白よ」


 そんな彼女を一方的に崇拝するのは同業の咲田くらいだろう。何かにつけて詩織の布教を行うからな。自分は売れない女優だというのに。

 どうせ売るなら自分の名を売ればいいのに。


「どこが?」

「それ、ひどくない?」


 確かにあれは鮮やかで色白向きだな。

 化粧で無理やり色白にしている誰かさんとは大違いだ。というか、こんな話題が出ているのに、この白石という女子は無関心なままだな。

 てっきり化粧品に食いつくと思ったのだが。

 一限目の教科書を出すや否や、教師から聞いていた終了範囲までを、熱心に見ていたから。


「予習範囲が広すぎた」


 ん? 今の呟き。一体、どういう事だ?

 途中から転入してきて教科書を読んで理解する。俺はこの白石という女子の本性が掴めないでいた。それこそ俺にアプローチする誰かさんのように、分かり易かったら良かったけどな。




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