第9話 リステリの執事同士の喧嘩
執事長と対面しお互いに見合っている。
先にどっちが攻撃を出すか見定めている所。後方にある本棚から本がドンっと落ちる。それを始まりの合図となった。
空を切る拳が飛んでくる。当たる寸前で右腕を前に出し防いだ。
ッ!? 今までに感じた事がない程の威力! まさしく剛腕。
真っ向勝負をすれば勝ち目はない。
だったらヒットアンドアウェイ。
「どうした? まさかこれで終わりな訳ないよな?」
レードさんはジリジリと歩み寄ってくる。
貴方には劣るがこっちも、拳はそれなりに重い! 腕を振るがカウンター、一閃喰らってしまい、再び本棚に激突する。
背中に強烈な激痛が走り、激突の勢いで頭に本が落ちてくる。
くっそやっぱ強い。このままだと一撃も喰らわせれない。
あれだけ威勢よく言って、瞬殺やボロ負けは流石にダサい。死ぬ気でいきます! 執事長に次の動きを悟らせてはいけない。近くに合った本を取り投擲する。
執事長は簡単に避ける。元々当てる気はない!
「なっ!?」
執事長は面を食らった表情。それもその筈。ボクは今片足タックルをしている。
真っ直ぐ机にまで勢いを殺さずに向かう。
机に凄まじい音で衝突し机は壊れ、その破片の中にボクと執事長もいる。
片足タックルをしたおかげで、意図も簡単に体勢を崩せた。
本を投擲したのはそっちに意識を持っていかせる為。一瞬でも隙があればできる事。
体勢崩したまではいい、次の行動を即しろ! これは絶好のチャンスだ! 執事長が立ちあがろうとする前に、上に乗り掛かる。
「クロさんいい戦略ですね! でもまだまだ甘い」
徐々にボクの体ごと持ち上がる。このバカ力め! 次は一体どうすればいい? このままでは反撃されて終わる。
負けれない! ユウナさんの期待に応える。
体は持ち上がり尻餅を着きそうになる。執事長はニヤリと笑みを浮かべる。知っているよ──その顔をする奴は勝ちを確信している。そんな顔、何度も見てきた。だからこそ負けれない。
自分より体格差がある執事長の背後に回る。そして首に腕を回す!
「なっ!くっ」
その声にならない呻き声、何度も聞いた。いくら戦闘の経験が豊富の貴方でも、油断してからの絞め技に対応は難しい筈だ。
執事長ごと後ろに体を持っていく。
このまま極まってくれ、極めようと首を絞める。執事長は
その力は強く、今すぐにでも腕を離したい。痛い痛い。
「っ!? あ……」
「はぁはぁまさかここまでやるとは」
執事長に腕を思い切り噛まれた。予想外の痛みの為。思わず首から腕を離してしまった。
執事長は絞め技から解放された瞬間。すぐさまに距離を取る。
部屋はいうほど広くない、
そこまで距離は離れてはいない。
だけど惜しい事をしてしまったと、内心──感情に出してしまった。
執事長自身も驚きを隠せていない。簡単に勝てると思っていた所かな。
自分でも驚きだよ! いつもボロボロにされているこの人と、対等に渡り合えている事に。
それでもきついな、あそこで勝負をつけられなかったのが、ボクの弱さだ。
あー悔しいな、もう体に力が入らない。ユウナさんごめんなさい……。
「そろそろに終わりにする!」
執事長は手の平に火球を浮かべている。魔法で仕留める気。
避けれないし反撃もできない。完全なる敗北であり万死休す。
火球は真っ直ぐに飛んでくる。スピードも結構な速さだ。
ははは、笑う事しかできない。次の刹那。ボクの脳裏に二つの事がでてきた。一つはリグとの戦いの時に見られた黒い炎。
それと今もポケットの中に入っている鎖が巻かれている本。
もしかしたらその二つには何か関係があるのでは? もしそうならば辻褄は合う。
そしてボクの可能性はこれより深まる。
目の前の火球を弾き飛ばす。
あの時のビジョン、それに黒い炎の共通点は魔法。
黒い炎、あれは魔力の残影。昔父上から聞いた事がある。極稀に魔法を使うと残影が残ると。
残影の色は人間によって違う。黒い色は聞いた事がない。
まず魔力の残影自体、前例が少ない。
これは一つの可能性である。ボクは魔力があるかもしれない。
あの時リグは魔法を使った物かもしれないし、ボクの無意識の魔法の残影かもしれない。
もし後者ならば執事長との最初の特訓。それの全てに点が通る。
「ぼ、ボクだってやるんだ!」
執事長に手の平を向けた時、扉がバンっと開けられる。
そこにはユウナさんがいた。
「さっきから物音凄いけど、どうしたの? これはどういう状況!?」
「ゆ、ユウナさん!?」
ボクは思わぬ人物の登場で、意識をユウナさんに向けていた。
直後、力強く鋭い痛みが走る。痛みを認識する前にボクは壁に激突した。
そのまま意識が朦朧し始め……。
「…………ここは? ッ!!」
痛い!? 頭が割れるような鋭い痛み。体中の骨が軋み、言葉に表せれなかった。
一回上体を起き上がらせれたが、痛みに負け倒れ込む。後頭部に硬い床ではなく、何か柔らかい感触がある。
「あ、やっと起きた?」
「ゆ、ユウナさん!?」
起きあがろうとしたらユウナさんが止めてきた。いやまずそもそも後頭部の柔らかい感触と、今の体勢的に膝枕をされている。なんでユウナさんの気配に気づかなかったんだろう?
つうかこの体勢どう考えてもまずいのでは? いやまずいな。起きあがろう。
決心し起きあがろうとしたら額に軽いチョップを喰らった。
「私がいいよって言うまでこのまま!」
「いや──でも?」
「主人の命令は聞きなさい! 私が満足するまではこのままです」
もうボクは何も言えなかった。成すがままにされている。
といえば聞こえはいい。でも実際はユウナさんの膝枕が心地よく離れようとしていない自分がいる。
色んな意味で執事失格だな……。
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